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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
二章
19/104

警告


ーーーーー


先生が消滅する。

その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。


でもそれは一瞬だけ。

直ぐに今一度二人が信用するに足る人物かどうか自分に問いかけた。


巧のことは信用できると思った。

真人間であるにも関わらずこういった類の事件を追っているところからして、余程の理由があるか仕事熱心な人なのだろう。

少し堅苦しい印象だが、職業を思えば無理もない。


問題は葵。

なぜだかわからないが、近づいてはいけないと何かが警告している。

叔父の一人息子であることは確かだし、体質の件も自分の葵に関する記憶の消失を思えば信じられる。

なのにどうしてだか、彼は危険だと感じてしまうのだ。

生きた人間との記憶の消滅を幾度となく経験してきたであろう。

それなのに、それに似つかわしくない明るい様と笑顔のせいだろうか。

いっそ、恐怖すら覚える。


しかし現状、先生がいない。

しかも先生が消滅するかもしれないという。

私が頼れる人はこの二人だけ。

なら、残された選択肢は一つだ。


「……全部、お話します。だから先生を助けてください」


その言葉に、葵は満足げに笑った。


「うんうん。お兄ちゃん、素直な子は好きだよ」


ちょいちょい見せてくる謎の兄ムーブも気に食わない。

園児だった私はそこまでこの男に懐いていたのだろうか。

記憶にある限り、あの頃から愛想はなかったと思うが。


「それじゃ、十年前に何があったのか話してもらえるかな」


恐らく激甘であろうコーヒーをやっと口にしてから、テーブルに両肘を付く。

その目は先程から私の一挙手一投足全てを見張っていた。

嘘をつけばわかる。

そう言われているようだった。


嘘をつくつもりはない。

私は十年前の記憶を一つずつ掘り起こしながら話した。

夢日記、神社、子どもたち、縁日、そして鬼と呼ばれた先生のこと。

現実味を帯びない話に、巧は終始腕を組んで難しそうな顔をしていた。


「視えるようになったのはあの日以降です。夢日記を媒体にして、向こう側のモノを視てしまったせいだと先生は言っていました」


葵は空になったコーヒーカップを見つめながら、考えるような素振りを見せる。


「どう思う、葵」


「原因は夢日記で間違いないね。現物が関係してる縁は強固だから。その日記って今どこにあるの?」


「先生に預けたままです」


あの日以来、夢日記を見ていない。

どこへやったのかも聞かなかった。


「最近、変わったことは?」


「今年に入ってから、頻繁に夢を見るようになりました。神社に続く道に立ってるだけの夢で、見る度に神社との距離が近くなってます」


「なるほどね。ーー巧くーん」


突然くん付で名前を呼ばれて、明らかに嫌そうな顔を葵に向ける巧。


「今日から夕飯、三人前でよろしくー」


「は? ちょっと待て、彼女もお前の家に呼ぶってことか?」


は?


「どういうことでしょうか」


「ひよりちゃんを僕の家に連れて帰ります。今のひよりちゃんは、せんせーがいてくれてたから避けられてた危害が避けられない状態になってる。そんな危険な状態の可愛い従妹を放って置ける訳ないよね」


「未成年の女の子を男二人と一つ屋根の下で同棲生活させるのは、さすがに気が引けないか」


「やだあ、巧ってば何考えてんのー! えっち!」


「お前なあ」


巧は米神に血管を浮かせて怒りを露わにしていた。

先程から思っていたが、なぜこの二人は友人になれたのだろうか。


軽くため息をついた。

葵が言っていることは正しい。

葵がいなければ夢に飲まれる可能性の方が高いだろう。

私の意思に関係なく夢を見させられている時点で、飲まれかけているのは明白。

見る夢を選ぶなんてことはできない。

嫌であることと、すべきことを天秤にかけるべきではないのもわかっている。

わかっているのだが。


「じゃあ、選ばせてあげようか。僕たちと三人で一緒にしばらく生活するか、僕とずーっと幸せに暮らすか」


「前者で」


瞬時に口が開いた。

先程まで怒りを露わにしていた巧が、口元を押さえて俯きながら肩を震わせている。


「もしかしてだけど、僕嫌われてる?」


「聡いだけだろ」


「お前は黙って夕飯の献立考えてろ」


今度は葵が米神に青筋立てている。

ああ、似た者同士なのか。

一人で納得しながら二人を眺めた。

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