特異体質
「僕の体質は、僕に関わるモノとの縁や怪異現象を消滅させる。歩く魔除けみたいなもんだね」
「消滅……どんなモノも祓えるってことですか」
「いいや、言葉の通り消滅だよ。消えたモノは二度と還れない。この世から消えてなくなる。さすがに存在消滅はさっきみたいな低俗霊だけだけどね」
消滅、という単語に眉を潜める。
良く思っていないというのが見て取れた。
死んだモノ、向こう側のモノが消えようが自分にはなんの影響もないというのに、それでも彼らの尊厳を守ろうとする。
もろに奴の影響を受けている証拠だ。
葵は引き続き笑顔を貼り付けたまま、ひよりの暗い瞳を見つめた。
「因みに縁の消滅に関して言えば、生きてる人間も対象だよ」
「……それは、記憶がなくなる、ということですか」
縁と記憶の関連を知っているらしい。
それは彼女自身も経験したことがあるということだ。
「さすが、詳しいね。そう、僕との記憶の消滅。毎日会ってればそう簡単に消えたりしないし、たまに会えば復縁することもあるけどね。こいつみたいに全く関係なく、ずっと覚えてる奴もいるけど」
笑いながら親指で巧を差すと、ひよりは覚えていないことに罪悪感を覚えたのか、「ごめんなさい」と小さく謝罪した。
「言ったでしょ、僕の体質の話だから」
気にしなくていい。
そう言っても、彼女の表情は晴れなかった。
「巧さんは、どうして覚えていられるんですか」
「さあ。逆にこいつを忘れる方が難しいと思いますが」
巧は無表情で親指を葵に差し返す。
「巧は真人間なんだよ。幽霊も怪異も何にも視えないし感じない。視えないし感じないということは、こいつにとってはないに等しい。だから、僕の体質にも影響を受けないんだと思うよ。そっち系に関しては全くの無能ってこと……痛っ!」
巧が葵の後頭部を叩いた。
「なんで手ぇ出すかなあ? 僕の優秀な頭脳が馬鹿になったらどうしてくれんの?」
「こいつの言葉を認めざるを得ないのは大変不本意ですが、俺にはあなたたちのような能力は皆無です。だから、今回は彼に捜査の協力を依頼しました」
後頭部を押さえながら、ぶつくさと文句を言い続ける葵を完全に無視し、極力丁寧な言葉遣いでひよりとの会話を試みる巧。
怯えさせたことを気にしているらしい。
「俺たちは三人の子どもの行方を探しています。些細なことで結構です。何か知っていることはありませんか」
それでもなお、口を噤むひより。
葵はやれやれと肩をすくめた。
「僕らのことが信用できない?」
目が泳ぐ。
まあ、当然か。
「残念だけど、もう迷ってる場合じゃない。このままだと君も他の子たちと同じように連れてかれるよ」
「どういうことだ?」
葵の真剣な声に巧が反応した。
葵はコーヒーをぐるぐるとスプーンでかき混ぜる。
「縁が強く結ばれ過ぎてる。例え今、頭を強打して記憶喪失になったとしても、神社のことだけは鮮明に思い出せるくらいには強い。ーーというか、もう呼ばれてるでしょ」
スプーンをひよりに向けた。
「察するに、せんせーとやらはひよりちゃんと隠れ神の縁を切りに行ったんだと思うよ。相手は零落してるとはいえ、元は神様だからそう簡単に切れるはずがない。最悪、せんせー消滅するけど、いいの?」
ぴくっと、肩を震わせた。
ひよりが恐れているであろう「消滅」という単語を使って脅す。
そうすれば絶対に口を割ると踏んでいた。
その思考を読んだ巧は「どっちが怖いんだか」と葵を鼻で嗤った。
「……全部、お話します。だから、先生を助けてください」
ひよりは目を伏せたままそう言った。
テーブルの下では、固く握られた拳が小刻みに震えていた。




