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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
二章
17/104

ブラックコーヒー


ーーーーー


榊ひより。

(さかき)明日香(あすか)大橋(おおはし)和樹(かずき)の一人娘。

中学生になる前、両親が離婚して母親である明日香と明日香の地元に引っ越した。

半ば家出のような形で大橋と結婚した明日香は、両親を頼ることはせず自力でひよりと二人暮らしを始めた。

しかし、明日香は心労がたたり精神を病んでしまい、長期入院を余儀なくされた。

残されたひよりは、叔父の義彦に引き取られた。

高校進学が決まっていたひよりは一人暮らしを選択。

以降、義彦からの金銭援助のみを受けながら一人暮らしを続けている。


それが葵が巧から聞かされていた榊ひよりの情報だった。

以降は葵が知っている榊ひよりの情報である。


榊家の人間は類稀に特殊な能力を持って生まれてくる。

そのため、先祖は巫女であった者や陰陽師であった者もいた。

その昔は朝廷や幕府からの信頼も厚かったようだが、血が薄れるにつれ能力者も少なくなり、今ではすっかり廃れてしまっている。

そんな血を現代まで引き継いでいるのが、葵とひよりの二人だった。

葵はひよりと初めて会った日、直ぐに彼女が能力を持っているとわかった。

なぜなら、奴が彼女の側から決して離れようとしなかったから。

最後に会った日はまだひよりの霊視能力は開花していないようだったが、今は確実に開花している。

しかも、そのきっかけがあの神社と絡んでいるときた。


なーんで、十年も経ってるのに縁がこんなに濃く繋がったままなのかなー?


葵は笑顔を貼り付けたまま、キッチンでコーヒーを淹れているひよりの後ろ姿を眺める。

何があったのかは知らないが、奴はいない。

こんな状態で放置するということは、やはり神さま関係なのだろう。


しかし、まあ、当初の計画がこれで潰されたわけだ。

表面だけを綺麗にしても、ひよりとあの神社の縁は切れない。

ひよりでなければそのまま押し進めるつもりだったが、そうもいかなそうだ。


「突然押し掛けてしまい申し訳ありません。佐々木巧と言います。……葵の友人です」


葵の友人ですが、怪しい者ではありません。

とでも付け加えたそうな口調だった。


「幼馴染ってやつ。でもいくらこいつが僕の幼馴染で警察だからって、僕抜きでこいつのこと簡単に家に上げたらダメだからね」


無言で淹れたてのコーヒーとミルクと砂糖をテーブルに並べるひより。

高校生にしてはいささか大人び過ぎている飲み物だった。


「何がお聞きになりたいんでしょうか」


向かい側に腰掛けるも、にこりとも笑わない。

最後に会った日の方が、まだ人間味があったように思えた。


ミルクと砂糖を用意しておきながら、本人はどちらも手をつけなかった。

その所作は制服を身に纏っていなければ、とても高校生には見えない。


普段砂糖を入れる巧は、今日に限っては砂糖に手をつけようとはしない。

予めミルクと砂糖を用意しておきながら、本人は手をつけないところに違和感を覚えたのだろう。

考えられるのは二つ。

頻繁に顔を出す来客用か、なんらかの手段で今日二人が訪れることを知っていて用意したか。

用心深い巧は後者を気にしたのだ。


職業病というやつだろうか。

いくらなんでも、女子高生相手に気にし過ぎだろう。

葵はコーヒーに角砂糖をどぼどぼと突っ込んだ。


「ひよりちゃん、小学校の近くの神社に行ったことない?」


単刀直入に問うと、ひよりは目を伏せた。

迷っているような、そんな表情を浮かべる。


「それを知って、どうするつもりなんですか」


「質問を変えます。遠藤真紀、小宮佳奈、中尾将平。この三人について、何か知っていることはありませんか」


巧の口から三人の名前を聞いた途端、ひよりが目を見開いた。

動揺している。

葵と巧が同時に確信した。


「……どうして、今更そんな昔のことを?」


既にひよりは冷静を取り戻しているかのように見えた。

しかし、見えるだけでしっかりと動揺している。

巧はそれを見逃さなかった。


「なぜ彼ら三人の名前だけ聞いて、昔のことだとわかるんです?」


ひよりは一瞬だけ小さく口を開け、直ぐに唇を噛み締める。

もう少しで口を割る。

更に追撃しようとしたところで、葵が割って入った。


「巧、こっわ。そんなんだからモテないんだよ」


「は? 今モテるとかモテないとかどうでも……」


「はいはい。ひよりちゃん怖がってるし、話変えよ」


右手で払って巧を引っ込ませる葵。

ここからは僕の出番だよ、と視線を送る。


「ところで、和服の辛気臭い顔した奴どこ行ったの?」


ひよりの表情がこれまでで一番変化した。


「先生を知ってるんですか」


「へー、あいつのこと先生って呼んでるんだ。ーー知ってるよ。仲良くはないけどね。僕、嫌われてるみたいだから」


「何かしたんですか」


声が少しだけ低くなった。

ああ、これは相当先生とやらに入れ込んでるな。

それもそうか。

家族より長くいるだろうし、頼れる大人がアレだけなら入れ込んでも仕方がない。


「違うよ、僕の体質がそういうもんなんだって。親父から聞かなかった?」


「視えるという話だけは」


あのクソ親父、一人息子の話くらいちゃんとしとけや。

しっかりと心の中で悪態を吐いてから説明を始めた。

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