こんな理不尽が許されるのでしょうか
目が覚めた私は、朗らかな天気の中、小鳥が囀るのどかな森の中にいた。
訳のわからないことに慣れているわけではないが、どこか達観した私はむくりと起き上がり自身の体を見つめ、ふんわりと柔らかなコットン製のロングスカートに絡みついた芝生の草と、肩で絡んだ紅の髪を払う。
ーー紅の髪。
そう。日本で暮らしていた何の変哲もない生粋の日本人たる17歳の少女は、年端こそ変わらないものの明らかに違う人間になっていた。
念のため手近にあった小さな泉のほとりで恐る恐る水面を見つめていたが、案の定そこにいたのは紅の髪と緑の瞳を有した勝気な顔の少女であった。
「はぁ……」
ドキドキと悪い意味で高鳴る心臓とは裏腹に私の口から出たのは溜息だった。
これが噂の異世界転生?ってやつ?
「へえぇ。ずいぶん落ち着いているじゃない!」
咄嗟にバッと声のした方へ振り向く。
先程水面で確認した今の自分とほとんど変わらない出立ちの少女が、そこにいた。
「落ち着いているわけないでしょ?これはなに、ここはどこ、夢?」
「夢だったらどんなに良かったでしょうねえ」
肩をすくめて目の前の少女は嗤った。
なんだこいつ。私の人生なんだと思ってるんだ?
思わず近づいてほっぺたを思い切り引っ張る。
「あいたたたッ!ちょっとアンタ、何すんのよ!!」
「怒りたいのはこっちなんだけど。いいから説明しなさい」
少女はコホンと咳払いをすると、得意げに胸を張った。
「説明も何も、見ての通り。私の名前はユリエラ。趣味特技は黒魔術。黒魔術を愛するあまり、ちょっと道を誤った女よ」
「よくもまぁ堂々とそんなこと言えるわね……」
「私も色々あったんだよ。まぁそれでね、私は罰を受けることになったわけ。端的に言うとーー神様の怒りを買ったんだよね」
神様。魔女がいる世界なんだから神様がいてもおかしくないのだろうか。
「だけど私はそれに納得してなかったから、なんとか逃げようとした。それで黒魔術を使ってーーそうしたらその過程でアナタの魂とわたしの魂の一部が混ざっちゃったみたい」
「……どういうこと?」
「私の魂はこの世界から抜け出した。その代わりにアナタが別の世界から呼び出されてしまった、ってことになるのかな」
あまりにも突拍子もない話……というのを差し置いても理不尽すぎる。
私が絶句しているのを見て、目の前のプチ・ユリエラは少しだけバツの悪そうな顔をしてみせた。
「私もね、申し訳なく思っているよ。これに関しては圧倒的に私の過失で、アナタは被害者だものね。だけど、私の魂が一部混ざったアナタはもう『私』として生きていくしかない」
「なにそれ…」
脱力して思わず腰が抜けそうになる。こんな理不尽な話があるだろうか。
「本当はこうやってアナタと話しているのもリスクなんだけど……せめてもの償いに、色々と便宜は図っておく。私からはーー頑張って、と言うしかないのよね」
そう言いながらも実体のあった少女の姿はどんどんと透明がかっていく。おいこら。まるで成仏するかのような体で消えようとするな。
「ちょっと待った!!私はこれからどうすれば……っ」
全て言い終わる前に、ユリエラはまるで最初からいなかったかのように消えていった。
消える直前、しれっとグッドサインばりに親指を立てていったのがさらに腹立たしい。
なんなんだ本当に。