ユリエラという魔女
「貴様――ユリエラではないな?」
私の喉元に剣先を突き付けて男はそう言った。
ユリエラ。古代最強の魔女。通称『赤の呪い屋』。
艶やかな赤髪の彼女は飛びぬけて黒魔術が得意で、そしてそれを人のために行使することが大好きだったようだ。
「なぜそう思うの?」
ゆっくりと降ろされた切っ先をぼんやり見つめながら私は目の前の男に問うた。
男――ジゼルは自嘲気味にわらう。
「ユリエラならばもっと生き汚いはずだからな」
それを聞いた私は、一瞬思考が停止して……そして大きく笑った。
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日本に生まれ、日本で育った私が、『赤の呪い屋』になってから幾何の時が流れただろうか。
平穏な女子大学生だった私は、ある日突然おかしな夢を見る。
そこはまるで裁判所のようで、肌触りのいいお気に入りのルームウェアに身を包んだ私は明らかに裁かれる側の人間だった。
テレビで見たことのある厳格なおじいちゃん裁判長はそこにおらず、代わりに美しいブロンドの女性が険しい顔で座っている。
なんてリアルな夢なんだろう。日本語が通じるのかな、なんてぼんやり考えながらあたりを見回す。
この不思議な空間には、目の前の美人さんと、そしてなぜか涙を浮かべる小さな子どもたちが4人、裁判官のように女性の左右に腰かけている。
「ここはユリエラの魂を裁く場では?」
女性が相変わらず険しい表情で問うと、子どものひとりがポロリと涙を落とした。
「呪い屋は己の魂を外の魂に分け与えることで罪から逃れたようです。つまり、彼女を生贄にして」
「あ、あの……」
恐る恐る声を上げたのに無視される。ひどい。というかとんでもない単語が飛び出した気がする。
妙にリアルな夢だ。生贄?私が?念のためもう一度あたりを見回すが、やはり人の姿はない。
女性が大きくため息を吐き出す。
「善良なる魂にこのような処罰をくだすことになろうとはな……。しかしこうなった以上、やむを得ん。
呪い屋として生きた代償、与えた呪いのうち百を解くまでその魂、輪廻の輪に乗ることを禁ず」
カン!という固く鋭い木槌の音が耳に響くとともに意識が遠のく。
その瞬間わたしは静かに確信した。
なるほどね、
これはどうやら、
やばいやつ。