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エルフの咎


「そうだったんですね……私も創造主様にまつわる一連の事柄は承知していました。ですが、まさかその脱出ボタンに命の輝きが宿っているなんて……」


「俺は自分の宇宙で死んだはずだった。しかしティオの父上であるヴェロボーグの力によってこの宇宙に飛ばされ、脱出ボタンとして生き存えることになったらしい」


 ひとしきりゲームを楽しんだ後。おもむろにボタンゼルドを父であるエーテリアスに紹介したラエルノア。


 すでに臣下からヴェロボーグや脱出ボタンについて聞き及んでいたエーテリアスも、まさか脱出ボタンそのものが生きているとは知らなかったらしく、目を丸くしてその話に耳を傾けていた。


「だけど、創造主の一人であるストリボグの話では、ボタン君の力を使うためにはもう一つ、完成された種という存在が必要らしいんだ。パパはそれについて何か心当たりはないかな?」


「完成された種……その件に関しても承知しています。しかし残念ながら、私にもそれについて思い当たる知識はありません。ですが――――」


 ラエルノアから完成された種について尋ねられたエーテリアスは、一度その表情を曇らせて首を振った後、しかし今度は打って変わったようにその両目を輝かせると、目の前に座る自身の娘――――ラエルノアのことをまっすぐに見つめた。


「私が知る限り、最も力強く、完成に近いと思う存在はラエル――――貴方です」


「……いくらパパでも、それは親バカというものだよ」


「そう、でしょうか……僕はさっきのボタンさんとラエル艦長の戦いを見て本当に凄いと思いました。それだけじゃなくて、ラエル艦長と初めて会ったときから、ずっと……いつだって艦長は凄くて!」


「まあ、確かにこのマッドすぎる性格面を除けば、ラエルは私がこの宇宙で認める数少ない人物ではあります……忌々しいことですが」


 エーテリアスは僅かな疑念も疑いも見せず、自身の娘であるラエルノアこそが完成された種に最も近いと断言した。


「確かに、俺たちと戦った創造主の一人、スヴァローグはこう言っていた。貴方たちエルフこそ、創造主たちが()()()()()()()()()()()()()()()()存在だと。そのエルフと人類の間に生まれたラエルが完成された種だというのは、なかなかにありそうな話だ」


「私たちエルフが、完成を目指して生み出された種――――ですか。なら、きっと創造主たちはさぞかし()()()()()()()()()()()()ね――――」


「っ……!? そういえば、スヴァローグさんもそう言って……っ」


 ボタンゼルドの発した言葉に返されたエーテリアスの寂しげな言葉。

 それを聞いたティオは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「やはりそうでしたか……いいのですよ、ティオさん。それはエルフの王である私が一番良く理解していること。貴方のお父様にも、さぞかし心労を重ねさせてしまったことと思います」


「むう……しかしなぜだ? 確かにラエルからも貴方たちについて様々な事情があると聞いている。しかし、()()()()()()()()()()()()()()。俺たち人類に様々な欠点があるように、どのような生物にも欠点はつきものだ。なのになぜ、エルフだけがこうも言われなくてはならないのだ?」


「ありがとうございます、ボタンゼルドさん。きっとラエルからは、エルフについてあまり良いことは聞いていないでしょうに。そう言ってくれて、私はとても嬉しいです」


 寂しげに俯くエーテリアスに、ボタンゼルドは力強く尋ねる。

 エーテリアスは僅かに微笑むと、今もラエルノアの手のひらの上に乗るボタンゼルドへと穏やかな眼差しを向け、言葉を続けた。


「エルフは、()()()()()()()のです。ミアス・リューンのエルフは、誕生したその瞬間から満ちていました。高い知識と老いることのない肉体、他者を思いやる優しさや、欲望に振り回されない自律心――――更には、私たちが誕生した母星もまた、資源豊かで居住に適した完璧な環境に整えられていました」


 言いながら、エーテリアスは静かにその瞳をつぶる。


 するとどうだろう、周囲で彼の話を聞くティオやボタンゼルド、クラリカの脳内にも、エーテリアスの思考イメージが映し出され、今も緑豊かで、大勢の動植物と共に穏やかに暮らすエルフの星の光景が浮かび上がる。


「きっと、ティオさんのお父様を初めとした創造主たちは、私たちエルフに大きな愛と期待を寄せてくれていたのだと思います。私たちエルフはその思いに応えようと、日々創造主に祈りを捧げ、創造主から与えられた万物に感謝しながら繁栄し続けました」


「うむ……? やはり良いことしかないのでは……」


「はい――――()()()()()()()()()です。そのまま何十億年もの間、エルフは()()()()()()()()()生きています」


「え……?」


 脳内に浮かび上がっていたエーテリアスのイメージが消える。

 ラエルノアは僅かに溜息をつき、クラリカは難しい表情で眉間に皺を寄せていた。


「私たちはそれ以上()()()()()()でした。する必要も無かったのです。創造主から与えられた楽園を守り、慈しむ。時折創造主との対話を求めようとする変わり者が現れたりもしましたが、大きなうねりを生むことはありませんでした」


「し、しかし! 貴方たちは今も太陽系や他の生命を守ってもいるのだろう? それはとても立派なことではないのか?」


「それも()()()()()()()の話です。私たちエルフは、その気になればルミナスエンパイアのように全宇宙どころか別宇宙にすら進出できる力を持ちながらも、広大な宇宙の片隅にある銀河一つから決して出ようとはしませんでした。そして――――」


 エーテリアスは再びその瞳をつぶり、自身のイメージを周囲へと伝える。

 そこには本当に僅かずつではあるが、土地が痩せ、草木が枯れ、川が干上がっていく光景が浮かんでいた。


「数十万年前、何の前触れもなくエルフの持つ力は衰え始めました。原因はわかりませんが、私たちの心が生み出す力の総量が減っていったのです」


()()()()()()()()というのですか……!? 才覚に優れ、心身共に万全な人類が生み出せる最大エネルギー出力の90%を年単位で抽出し続けられる、あれで……!?」


「はい――――今の一般的なエルフの力は、かつてに比べ七割ほどまでに減少しています。だから――――」


 クラリカの問いに淡々と答えながら、エーテリアスはまた別のイメージを想起する。そこにはとても美しい、()()()()()()()()()()()()()()()が立っていた。


「だから、私たちは貴方がたに会いに行ったのです。私たちが持ち得なかった、生命の力に満ち溢れた、貴方たち人類に――――」




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