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救うボタンと殺すスイッチ


 ――――漆黒の宇宙。そのどこか。


 長く美しい白い髪をなびかせた、シンプルだが洗練された詰襟つめえりの軍服に身を包んだ褐色肌の青年が、目の前で輝く()()()()を見上げていた。


 その太陽の大きさは、概算でも()()()()()()()()()()はあるだろうか。


 青年の乗る宇宙船は相当に離れた位置からその太陽を見ているにも関わらず、青年の視界はほぼ全てがその巨大な太陽によって覆い尽くされていた。


 青年の赤い瞳に青い太陽の輝きが混ざり、彼の身につける灰色の軍服が薄い青に染まっていた。


「いやぁ……久しぶりにこの場所に戻ってきましたけど、やっぱり綺麗ですねぇ! 私たちの世界ではもう見ることが出来ない、素晴らしい光景ですよ! 貴方もそう思いませんか?」


 突然、目の前の太陽を見上げていた青年が誰かに向けて声を発した。

 しかし青い光に照らされたその船内には、どれだけ見回しても青年の他に人影らしき物は存在しない。だが――――


「――――下らん。私は幻に興味は無い」


「あらら、それは残念! でも私は思うんですよねぇ! 全ての物は()()()()()()()()()()と! この太陽も、私たちの世界ではとっくに見ることはできない滅びた存在です。だからこそ、こうして私はこの光景を美しいと思える――――! 悲しいですねぇ!」


「私は貴様のような異常者ではない。貴様の狂った美学に同意することはない」


 だが、その青い光の中で青年の声に応える者がいた。


 長く長く伸びた青年の影。その影の先。

 そこにとても小さな、()()()()()()()()()に細い手足の生えた影が浮かび上がる。


「フフ……()()()、ですか。酷いですねぇ……こう見えて結構傷つきやすいんですよ?」


 青年は背後の闇に振り向くと、闇の中に浮かぶ鋭い眼光と視線を交わらせた。


「ところで、もうその体には慣れましたか? 到達者アーテナー――――」


「――――その呼び方は止めろと言ったはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()。私の名は()()()()()()。ノルスイッチ・フォン・ジーンレイス。それ以外の何者にもなるつもりはない」 


「もちろん! 貴方はもちろんそれでいいんです! たとえ貴方から見れば異常者でも、結局の所私の願いと貴方の願いは同じ! そこが重要なんですよ!」


 取り付く島もないといった様子の赤い円盤状の生物――――ノルスイッチと呼ばれたその存在に、青年はむしろ興奮気味に両手を広げ、その赤い眼光を輝かせて叫ぶ。


「実に忌々しいが、そこだけは同意してやろう。私の意識も、()()()()()()()()()()と言っている――――」


「そうでしょうそうでしょう!? ()()()()()()()()()()()()です! ここまで汚れきった世界を今更()()()()()()()して何になると言うんでしょう? 最後は綺麗さっぱり全てを消して、世界を汚すのはもういい加減終わりにしなくては!」


「――――そうだな」


 ノルスイッチの同意を得た青年は、喜色満面となってその場で軽やかなステップを踏んで見せる。闇に包まれた室内で、異常なほど巨大な青い太陽に照らされて踊る青年の姿は、まるで()()()()()()()()()のように見えた。


「アハハハッ! 本当に最高ですよ! 子供の頃から夢見た滅びのスイッチを、まさかこの私が――――この()()()()()()が押せるなんて! ねぇノルスイッチさん! 貴方という()()()()()()――――絶対に私に押させて下さいよっ! 約束ですからねぇ! アハハハハハッ!」


 狂ったようにステップを踏む白髪の青年――――チェルノボグ。


 ノルスイッチはチェルノボグの言葉に応えることなくその場から踵を返すと、そのまま背後の闇の中に音もなく消えた。


(ボタンゼルドよ……貴様もこの世界にいるのか? だとしたら、私たちは一体いつまで――――)


 光り輝く巨大な青い太陽。


 しかしその太陽の横には、その太陽すらただの石ころのように見える()()()()()()()()()()()()()が、ぐるぐるとらせん状に回り続けていた――――。





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