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機神に挑む魔女


 大破したクルースニクの残骸をそのまま見逃し、全身のどこからもスラスターやバーニアの炎を出さず、悠然ゆうぜんとその身をバーバヤーガへと向け直すグノーシス。


 姿勢制御用の推進器を一切持たないという点から見ても、グノーシスの持つ技術が完全に未知の物であることを容易に認識することが出来た。


『我らの力に干渉するとは――身の程を知るが良い、旧世代』


「行くぞティオ! 俺たちなら出来る!」


「はいっ! ボタンさん!」


 虚空の先で待つ灰褐色の機神――グノーシスめがけ脚部の大型スラスターを全開にして加速するバーバヤーガ。


 実はすでにバーバヤーガには殆どの武装が残されていない。


 ミナトのクルースニクに随伴した先ほどの戦闘で、四万発以上あるミサイルはほとんど空になり、機体内部に格納された反物質の残量も僅かだ。


 しかしそれでも、継ぎ接ぎだらけのローブをはためかせた機械仕掛けの魔女は、目の前の機神へと突き進む。


 なぜなら、今の二人にとっての勝利条件はグノーシスの撃破ではなく――――


「たああああああああっ!」


『なんだ……その攻撃は?』


 ほぼ最高速。光速の60%まで加速したバーバヤーガはその勢いそのままに両手に備えられたかぎ爪をグノーシスめがけて振り回す。

 

 あまりにも芸のないその攻撃。グノーシスは回避行動すら取ろうとしない。


 振り下ろされたバーバヤーガのかぎ爪はグノーシスの周囲に展開された空間湾曲フィールドによって逸らされ、その一つとして直撃することはなかった。


『攻撃を得意とする存在ではないようだ。お前の力は先ほど見せた、エネルギーへの干渉のみに特化しているということだな』


「そうですっ! だから――――!」


()()は貴様にお返しするとしようっ!」


『なに!?』


 取るに足らぬ存在と、その攻撃を無様に逸らされたバーバヤーガを打ち砕きにかかるグノーシス。しかしグノーシスがその腕を振り上げると同時。


 バーバヤーガは咄嗟とっさにくるりとグノーシスの側へと向き直ると、自身の胸部装甲を解放――――紫色の結晶体内部で今も渦巻き続けていた、()()()()()()()()グノーシス自身の赤黒い破滅エネルギーを撃ち返して見せた。


「こんなとんでもないエネルギーを吸い込んだら、今までのバーバヤーガなら処理出来なくて爆発してましたっ!」


「ならば処理しなければ良い! 大釜ヴェージマ・ペチカの中でぐるぐるとかき混ぜ、時が来ればそのまま撃ち返してやれば良いのだっ!」


『ぬううううううっ!?』


 瞬間、見える限りの宇宙空間が閃光の赤に染まった。


 守るべき惑星やオーク艦隊、ラースタチカを背にしてバーバヤーガが放出した赤黒のエネルギーは見事にグノーシスのみを直撃。


 はるか数光年の先まで届く光の渦となり、その進路上の全てを打ち砕きながら直進した。だが――――!


『そうか――――貴様の目的は時間稼ぎか。そんなことをしたところで、我らを止められると思うか?』


「む、無傷なのっ!?」


『神の後継たる我らが、自らの力によって滅びる愚を犯すとでも? どれ、お前たちがすがる希望は――――あの()()()か』


 しかしその閃光が消えた先。グノーシスは一切の傷も負っていなかった。


 グノーシスはその赤く光る眼孔を巡らせると、その先に膨大なエネルギーを集積させつつあるラースタチカの姿を捉える。


「ば、ばれてるうううっ!? どうしてっ!?」


『お前とはここまでだ。消えろ、旧世代』


 グノーシスの光刃がバーバヤーガに迫る。


 ミナトやユーリーといった実力者でも反応することができなかったその攻撃を、バーバヤーガが回避することはできないと思われた。しかし――――!


『避けた?』


「見事だ、ティオ!」


「はいっ! このままいきます!」


 グノーシスの攻撃をすんでの所で躱しきるバーバヤーガ。


 それだけではない。バーバヤーガは回避すると同時に自身のかぎ爪をグノーシスへと叩きつけ、先ほどのエネルギーですら傷一つ負わなかった灰褐色の装甲を()()()()()()()


『なんだと!?』


「おお!? ()()()()()()()()、こちらの攻撃が通ったぞ!」


「やっぱり! 攻撃する時は空間湾曲フィールドが展開されてないっ!」


『お、のれえええええええ! よくも神の肉体に傷を!』


 初めてその身に傷を受け、グノーシスの余裕が消える。


 激昂の叫びを発し、ラースタチカのことも忘れて瞬間移動を繰り返し、バーバヤーガへと無数の弾丸を放ち、刃を叩きつけ、星をも砕く蹴りを放つ。


「見えるっ! 見えますよボタンさん! これがボタンさんの見てる世界なんですね!?」


「そうだティオ! 今の俺たちは一心同体! 俺の見えている者は君にも見える!」


『なぜだ……!? なぜ攻撃が当たらぬ!? この者には()()()()()()()()というのか!?』


「思いっきり見えてますっ! 未来が――――っていうか()()()()()()! ボタンさんってこんなに先まで見えてたんですか!? なんかその気になれば宇宙の終わりとかまで見えるんですけど!?」


「ハッハッハ! 暗いのは嫌いなのであまりやったことはないのだが、見ようと思えば()()()()()()ぞ! あくまで俺が認識できる狭い範囲でのことだがな!」


『なんだこの存在は――――!? おかしい、この二つの反応――――これはどの世代の種でもない――――漂流種――――いや、違うのか!?』


 あらゆる攻撃が容易く回避されるその状況に、困惑の声を上げるグノーシス。

 これこそが、ラエルノアが施したバーバヤーガの新たなるシステムの力だった。

 

 元より、バーバヤーガの操縦は機体とパイロットの精神をリンクさせて行う。

 ラエルノアはこのシステムを改造し、ティオとバーバヤーガ、そしてボタンゼルドの()()()()()()()()()()()()()()ようにしたのだ。


 これにより、ティオの思考はボタンゼルドに、ボタンゼルドの思考はティオに。


 一切のタイムラグ無しに互いの思考や視野が共有され、ボタンゼルドの持つ人知を越えた戦闘経験や戦闘視野を、ティオも知覚できるようになったのだ。そして――――


(でも、これ――――ごめんなさいボタンさん。僕、ボタンさんが今までこんなに辛い想いで戦い続けてたなんて、全然知らなくて――――)


(気にするなティオ――――()()()()()()()()。どんなに綺麗事を並べても、俺は途轍もない数の命をこの手で奪った。その事実は、俺の意識と記憶がある限り消えることはない。いや――――絶対に消すわけにはいかないんだ)


(ボタンさん……)


 グノーシスとの戦いは続いていた。

 しかしその中で、ティオはボタンゼルドの()()()()()()()()()()()()


 ティオが見たボタンゼルドの記憶。

 それは正に殺戮の記憶だった。


 殺して、殺して、殺し尽くす。

 それ以外の言葉が浮かばない、血と闇に染まった世界だった。


 ティオは暗闇に染まったボタンゼルドの心の中で、一人の精悍な青年の姿を見た。

 鋭い眼光に金色の髪。しかしその青年の顔は今も罪の意識に苛まれ、深い悲しみに染まっていた。


(ボタンさん……僕は――――)


 気付けば、ティオはその青年の背に自身の小さな身をそっと寄せていた。

 彼の傷ついた心を少しでも楽に、その悲しみを癒やせるようにと――――。



『おのれ――――! こうなればやむを得ん。この恒星系全てを消滅させ、神の鉄槌を下してくれる! いかに未来が見えようと、全てを滅ぼされてはどうすることもできまい!?』


「はわわ……!? ぼ、ボタンさんっ! どうしましょう!?」


「いいやティオ――――()()()()()()()!」


 もはや神の領域とも言える圧倒的機動で全ての攻撃を回避するバーバヤーガ。

 業を煮やしたグノーシスはその標的をバーバヤーガから切り替え、辺り一帯全てを滅ぼす極大のエネルギーを収束させる。


 だがしかし。

 グノーシスのその行動は、あまりにも遅きに失した。


 一分四十秒。


 ラエルノアが指定した時は、()()()()()()()()のだ。



 ジャーーン! ジャーーン! ジャーーン!

 ガアアアアアアアアン! ガアアアアアアアアン!

 ピョロピローー! ピョロピロピローーーー!

 アーーーーーーーー! アアーーーー! アーアーアアーーーーー!



 無音の筈の宇宙空間に、突如として荘厳なオーケストラと高らかなと声楽隊による重厚かつ勇ましい音色が響いた。


 そしてそれと同時。全長2000mに達しようかという()()()()()を装備した異形のTW(タイタンズ・ウェポン)が、亜空間を切り裂いて降臨する。


『フッフッフ……! アーーーーハッハッハッハ! 讃えよ! 崇めよ! 歓喜せよ! 木星帝国第三皇女、クラリカ・アルターノヴァ! たった今、この宇宙そらに帰還しましたよォッ!』




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