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怯える艦隊


「来るぞティオ! 七時方向、仰角35! 次いで一時、十二時方向! それぞれ仰角70、俯角40!」


「了解ですっ! 迎撃用反物質ミサイル、一斉射!」


 正体不明の敵艦隊を相手に、激戦を続けるバーバヤーガのコックピット内部。


 ボタンゼルドから発せられる的確な指示を受け、その幼い顔に周囲の光景を投影するゴーグルを被ったティオが操縦桿を引き絞る。


 バーバヤーガの各部に備えられた1200門ものミサイル発射口から次々と白線の尾を引いてミサイルが発射され、バーバヤーガとクルースニクに迫る敵のミサイルやロケット砲を正確に打ち落としていく。


『すげえじゃねえかティオっ! 前までのお前とは全然ちげぇ! 俺の所に一発も敵の攻撃が飛んでこねぇぞ!?』


「ボタンさんのおかげですっ! 僕が敵の攻撃に気付くよりもずっと早く、ボタンさんが気付いて教えてくれるんですっ!」


 見違えるようなバーバヤーガの動きに驚きの声を上げるミナト。


 ミサイルや爆弾のような実体弾は高誘導ミサイルで消滅させ、レーザーや粒子砲のような熱線は空間湾曲装置『魔女の大釜(ヴェージマ・ペチカ)』で吸収する。


 想定されるあらゆる敵の攻撃から味方を守る盾。

 それこそが、バーバヤーガ本来の運用方法だった。


 そして今。ボタンゼルドの持つ異次元の戦闘感覚によってさらに精度を増したバーバヤーガの迎撃機動は、随伴するクルースニクに被弾は愚か、その行動の一切の邪魔すらさせず、完璧に守り抜いていた。


「たとえどのような相手でも、それが俺たちに敵対的意志を持つのならば、俺は《《その全てを察知できる》》――――きっと、人よりも()()()()勘が鋭いのだろうな!」


「少しっ!?」


『ははははっ! 面白いな! 後で俺にもソレ教えてくれよっ!』


 敵艦や敵機動兵器の中枢を超高速で突っ切る二機のTW。


 数では圧倒的に勝る敵艦隊だったが、まるで躍るようにして宇宙空間を飛び回る二機の突撃を押しとどめる事ができない。


『オラオラオラアアアア! さっさと降伏しねぇと、全部沈めちまうぞおおおッ!』


 ミナトの雄叫びが宇宙そらに響く。


 ミナトはクルースニクのコックピット内部で巧みに操縦桿を操作し、足下のペダルを小刻みに踏み込むと、反物質粒子を纏って光り輝くクルースニクの蹴りを目の前の戦艦に叩きつける。


 そして蹴りの勢いもそのままに、両手に持った反物質ブレードを戦艦の装甲板に突き刺すと、クルースニクごとドリルのように回転して一気に貫通――――瞬く間に1000mを超える巨大戦艦が業火に包まれる。


「やったぁ! さすがミナトさん!」


「うむ! 見事な腕だ!」


『わははー! こんな奴らクルースニクに乗ってなくたってよゆーだぜっ!』


 快進撃を続ける二機のTW。


 さらにその間にも、二人の後方からはラースタチカによる高威力砲撃や、ミケ率いるボール部隊の爆雷攻撃などが途切れずに浴びせかけられていた。


 もはや、誰の目から見ても戦いの勝敗は明らか。


「ふむ……これくらいでいいだろう」


 正体不明艦隊の残存戦力が3割を切ったのを確認したラースタチカのラエルノアは、一帯全てに届く亜空間通信を開いて正体不明艦隊に降伏を促す。


『やあ諸君、私はラエルノア・ノア・ローミオン。太陽系連合所属、深宇宙調査船ラースタチカの艦長だ。君たちの仕掛けた一方的な奇襲を受け、やむを得ず武力行使を行いはしたが、我々は無益な殺戮を()()()()望んではいない』


 ラエルノアの美しく澄んだ声が辺り一帯に響く。


『我々への攻撃を即座に停止し、これ以上の戦闘行為を行わないというのであれば、我々にも戦闘を停止する用意がある。双方の建設的な未来のためにも、賢明な判断を下してもらえると助かるよ』


 様々な文明の言語と波長に同時に翻訳されて放たれたラエルノアの降伏勧告は、確かに正体不明艦隊にも届いていた。しかし――――。


『ゲコゲコ……逆らえない。我々は、()()()()()()()()……ゲコ……』


「ん……? これは……返答があったのは嬉しいけど……様子がおかしいね……?」


 その時、ひからびた片言の声がラースタチカの回線へと割り込んでくる。

 しかしその声はどこか切羽詰まっており、まるで今この時も、彼らが()()()()()()()()かのように聞こえた。


「私の呼びかけに応じてくれたこと、感謝する。しかし逆らえないとはどういうことだい? もしかして、君たちは誰かからの指示を受けて――――」


「待てラエル! 亜空間レーダーに反応! これは――――()()()()()()ぞ!」


「なんだって? チッ……何もこんな時に――――」


 だがその瞬間、ラースタチカのブリッジにダランドの野太い声が響き渡る。


 通信機からホログラム状に展開されたレーダーへと視線を移したラエルノアは、その常に冷静な表情に若干の嫌悪を宿して舌打ちする。


 ちょうどラースタチカと正体不明の艦隊が対峙する中間の地点。

 互いの戦場を真横から突き刺すようにして、万を超えるオークの大艦隊がワープアウトして出現したのだ。


「ここまでの戦闘でバーバヤーガの活動限界が近い。地上の遺跡は調査済みだし、これ以上我々がここに留まる必要もないだろう。急いで外の三人とボール隊を回収――――回収完了後、この宙域を離脱する!」


 オーク艦隊の出現を見て取ったラエルノアは、即座に撤退の指示を出した。


 ラースタチカは艦隊ではなく単艦であるが故に、他の船と足並みを揃える必要がない。ラエルノアの言う通り、これ以上ラースタチカがここに留まる必要はない――――そのはずだった。

 

「これは……どういうことだ? おいラエル! オーク共から通信要求! 通信内容は()()()()! 繰り返す、()()()()()()()()()()()! あいつら、ここに戦いに来たんじゃあない――――()()()()()()()()()んだ!」




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