表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/121

一番の友達


 閃光。


 崩壊していくビッグ・チェルノボグのコックピット内部。

 そこに座る傷だらけのチェルノボグは、消えゆく自分の命を見つめていた。



『――――あなたの願いを知ったから! あなたの欲があったから! 僕は自分の願いを知ることが出来たんです――――っ!』


 

 チェルノボグの脳裏に浮かぶティオの言葉。


 彼女の言葉を思い出しながら、チェルノボグは笑っていた。

 彼のその笑みは普段の他人を馬鹿にしたような、道化じみた笑みではない。


 本来の彼が持つ、心の底からの笑みだった。


「まったく……この私としたことが……まんまとやられました…………まさか、この宇宙の人々の()()()()()、彼らの()()()()()()()()()に、私の欲をカウンターとして利用するなんてね……さすが、ヴェロボーグさん……」


 閃光の中に飲まれていくチェルノボグの肉体。

 

 既に、彼にはわかっていた。

 このビッグ・チェルノボグの自爆も、()()()()()()()()()()()()()と。


 たわいもない――――何気ない日々を愛し、守りたいという()()()()()

 自分が拠り所としていた自慢の欲望は、その少女の願いに阻まれるだろうと。


「もしや貴方は、最初からこうなると読んでいて、それで私にあんなことを言ったんじゃないでしょうね……? そうだとしたら……()()()()()()()()()()()()()というわけだ…………!」


 自嘲気味に呟かれたチェルノボグの声。

 しかしその言葉とは裏腹に、チェルノボグの表情はどこまでも穏やかだった。



 なぜなら――――



『――――そう思うかい? チェルノボグ――――』


 閃光に飲まれ、もはや周囲すら見ることが出来ないチェルノボグの意識。

 しかしその最後の刻。チェルノボグは確かに彼の声を聞いた。


()()()…………そんなこと、これっぽっちも思いませんよ。()()()()()()()()。随分と、遅かったじゃないですか…………」


 最早何も見えず、痛みも、消滅による喪失感も感じない。


 ただシミュレーション宇宙のデータの中へと霧散し、溶けていくチェルノボグの前に、穏やかな笑みを浮かべたヴェロボーグが立っていた。


『ごめんごめん。でもちゃんと()()()()()――――君のことを』


()()()()()()()()()――――だから私も、貴方に不甲斐ないところを見せないよう、全力で頑張ったんです…………結果はまあ、ご覧の通りですが」


『とても楽しそうに見えたよ? でも、いくら何でも途中で僕にウィルスを仕込むのは酷いと思うんだよ。おかげで僕も死んでしまったし……』


「フッフッフ! 勝負の世界は非情なのですっ! それにね……結果として()()()()()()()()()()()()わけですし、もう良いじゃないですか! お互い過去のことは水に流して! ねぇ?」


『ははは! そうだね。君の言う通りだ』


 それはまるで、久しぶりの再会を喜ぶ親友同士のよう。


 二人は目を見合わせて肩をすくめ、軽口を言い合い、失われたデータの世界で互いの健闘を称え合った。


「しかしやられましたよ。まさか貴方の残したお子さんが、あそこまでお強くなるとは……あれも計算通りだったのですか?」


『全然そんなことないよ。君も知っている通り、()()()()()()()()()()()()()()からね。ティオはとても強くて優しい子だから、僕が何もしなくたってきっとこうなっていたさ』


「おやおや、貴方程の方でも親バカになるものなんですねぇ……? でもまぁ、確かに強かったですよ。ティオ君も、他の皆さんもね――――」


『なんといっても、みんな僕の自慢の子供たちだからね』


 傷つき、座り込んだままのチェルノボグに手を差し伸べるヴェロボーグ。

 チェルノボグはその手を取り、服についたほこりを払って立ち上がる。


『それで、何度も聞かせてくれた、()()()()()()()は叶ったのかい?』


「フフ――――ええ、()()()()()よ」


 ヴェロボーグとチェルノボグ。


 かつてと同じ、傷一つない姿となったチェルノボグと肩を並べ、遙か上空から無数の光り輝く星々の世界――――彼らが生み出した宇宙の輝きを見つめる二人の神。


『それは良かった。たしか、一度で良いからゲームの()()()()()()()()()()()()()んだっけ?』


『ノンノン! ()()()()()()()だと何度も言ったじゃないですか。いいですか? ()()()()()()()()()()よ。私の本当の願いは、()()()――――』


 二人は慈しむようにその世界を見つめると、やがて自らが創造した世界に背を向けて何処かへと歩いて行く。


 既に過ぎ去った、データの残滓が集う世界へと遠ざかっていく二人の青年。

 楽しそうに言葉を交す二人の声は、いつまでも止むことはなかった――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ