演じる者たち
設定を元に演じているのは俺とて例外ではない。
ゆりこうチャンネルの中でのこうたは一応明るい好青年……というキャラで行ってるつもりだ。
上手く立ち回れてると自信を持って言えないのが悲しい点だがな。
俺は画面を切り替えてぱんぷきんチャンネルとのチャット欄を開く。
前述した配信の相談も基本的にここで行っている。
さて、そんな中で向こうから送られてきたメールを見返してみようと思う。
下にカーソルを回して最新のものを確認する。
『では土曜日の正午が本決定と言う事で!仕込みは私に任せてください
頑張って部屋綺麗にしておかなきゃ……(笑)
改めましてこちらの誘いを快く承諾して頂き誠にありがとうございます
当日までに何か不都合な点がございましたらここに書くか、あるいは私の携帯番号に掛けてください
互いに実りある楽しいコラボ配信にしていきましょう!(*'▽')』
つい30分前に来た最終確認。
配信時との変貌っぷりに笑ってしまう。
そう、ぱんぷきんぐは裏では驚く程に真人間なのだ。
まぁ配信外でもあのキャラを貫くとは最初から思ってはいなかったが。
しかし……それを理解してもこのギャップには驚かされる。
ユーモアを交えつつ相手への感謝を忘れない。
決定事項を揃えて記す事によってこれを見るだけでも最低限の要項は理解できるのだ。
不慮の事態が起こった場合の対策もしっかり考えている。
何だこの完璧な文章。
ぱんぷきんぐとキャラが180°変わってるじゃないか。
これでいざ配信になれば11歳の地球に慣れていない少女を演じているんだぞ?
サラッと言われたが実年齢は本人曰く19歳のようだ。
どのアーカイブを見ても設定を崩す気配は見えない。
俺の演技なんてこれに比べれば微々たるものだろう。
いつもの自分よりただ少し背伸びをしてるだけだからな。
だからこそ本当に情けないと思う。
たかがそれだけの小さな嘘に、延々と悩まされ続ける。
金の為と割り切っていながらもまだ乗り切れない思いを抱えているのだ。
尊重できるような存在でもないくせに積み上げてきた自分をまだ捨てきれない。
どれだけ明るいこうたを演じようとしても、心の片隅に残っている陰気な阪口康太が出てきてしまいそうになる。
「……もし配信終わった後に時間あれば、相談してみようかな」
本当に比べるのも烏滸がましい程に嘘の重さが違う訳だが……
それでもぱんぷきんぐと俺はキャラを作っているという点では同類と言えるだろう。
機会があれば是非聞いてみたい。
一体どうやって配信上の自分と現実の自分を分けているのか。
どこか抜けてる純真無垢な少女というリスナーからのイメージとどう折り合いを付けているのか。
贅沢だがアドバイスのようなものをもらって、その術を俺も身に着けていきたい。
これ以上……花峯の足を引っ張らない為にも。
次回からコラボ配信が本格スタートしていきます