ロールプレイ
そこからの流れは驚く程スピーディーだった。
改めて向こうへの誘いに対しての許諾から始まり……
正式な互いのsnsアカウントでのコラボの告知。
視聴者側の主な反応としては意外な組み合わせ、楽しみ、初コラボの相手が豪華すぎる等々……
一通り好感触のようでとりあえず安心する事が出来た。
その後は具体的にどんな企画をやるかというのをメッセージで相談し合う。
と言っても俺の読み通りやはり主体はあっちの方針に沿ってやっていく方向になった。
ゆりこうチャンネルもホラー企画はまだやっていない為目新しさも申し分なし。
二つ返事で了承させてもらう。
ちなみに配信自体は昼間に向こうの家で行うことになる。
恐怖感を増すには深夜に行った方が雰囲気は出るだろうが……
それを行えない理由としては最大の壁となる労働基準法があるからだ。
年少者(15歳以降の未成年)は午後22時以降は働くのはNG。
実際配信がこの法に抵触するかどうかというのはグレーな話だが俺たちは順守するつもりでいる。
屋内なら事前に仕込みもしやすいし、配信決行日は土曜の為昼でも見に来れる人たちも多いだろう。
つまりこれも気にする必要なし。
大まかに3日ほどの流れを説明させてもらったが……一言でまとめると順調だ。
少なくとも大きい問題点は特に見当たらない。
うん、それは無いんだが……
「これなぁ~」
自室でパソコンとにらめっこをしながらぽりぽりと頭を掻く。
ついさっき順調と銘打ったばかりだが……どうにも心配な点が一つあるのだ。
俺は二時間ほどずっとぱんぷきんチャンネルの動画を見ていた。
前から軽く冒頭部分を覗いた事は何度かあったが、こうして通しで見るのは初めてである。
理由は簡単。コラボ前に相手の動画をチェックするのは基本中の基本だ。
いざ無知のまま配信に臨んで気まずい空気になったら目も当てられない。
どういった話題で盛り上げられるかとか……うっかり地雷を踏まないようにするとか……
そんな気配りを絶やさず行うことがコラボ配信を円滑に進める方法だろう。
だから俺は諸々を探りに彼女の配信を見ているんだが……
「いやぁ!……もうやだ私ぱんぷきん星に帰る!」
ぱんぷきんぐは相手のゾンビが出てきた瞬間椅子から転げ落ちながらそんな事をのたまう。
何言ってんだこいつ、と反射的に思ってしまうがそれが彼女のスタイルなのだ。
勿論偶然ここだけという訳じゃない。
配信中に腹が減ってパンケーキを食べだした時は……
「地球の人間たちは食べ慣れてるかもしれないけど、私にとってパンケーキは初めての体験だぞ」
「……」
次に、ゲームの舞台が長崎だった時のリアクションを見てみよう。
「なが……さき?ってどこだ?私まだ日本の地理を覚え切れていないんだ」
いや痛いほど分かってる。そういう設定だという事は。
現実ではありえない二次元的な存在を本気で演じている。
だからこそそんな姿勢に惹かれる者たちが出てくる。
所謂ロールプレイというやり口だ。
演技を軸にしているのは元々知っていた。
実際これを一年以上続けて未だに一線級の人気を保っているのは純粋に尊敬できる。
誰が何と言おうと、ぱんぷきんぐは100万以上の人から支持を集めているのだ。
しかし……それでも尚動画を直に見ると問題点が浮き彫りになっていく。
俺はぼそりと口に出す。
「絡みづれぇ……!」
誰も居ないとはいえ、うっかり言ってしまったと思い口元を手で押さえる。
フィクション調のキャラを演じる者と、現実的な恋愛関係を偽る二人組。
この齟齬が……配信を行う上でどうなっていくかというものだ。