はじめてのコラボ
覗きこんで見ると、そこにはとある画像が映っていた。
【祝!ゆりこうチャンネルとぱんぷきんチャンネル、コラボ決定!】
でかでかと表示されたカラフルな文字の周りを、フリー素材のクラッカーが囲っている。
俺は口をあんぐりと上げて驚く。
その顔がお気に召したのか、花峯はふふっと軽く噴き出す。
「コラボって……あのぱんぷきんチャンネルと?」
ぱんぷきんチャンネルとは、俺たちと同じ配信者の名前。
概要はかぼちゃの被り物で顔を隠した少女がホラー系の配信をするというものだ。
彼女の名前はぱんぷきんぐ、ぱんぷきん星から来た11歳の女の子。
別の世界の知的生命体たちの観察の為に地球まで来た。
より身近に触れる為に配信を行おうと思い立つ。
……という設定だ。
まぁ何も言うまい。
一々突っ込むのも野暮な話だろう。
設定と理解した上で楽しんでいる人間が大勢いるなら、目論見は成功しているんだからな。
そう、彼女は立派な成功者と言える人間だ。
その特異な外見と設定。
聞いてて思わずにやけてしまいそうなふにゃふにゃとした可愛い声。
この二つが心地よいシナジーを生み出すのだ。
何よりホラーゲームや心霊スポット巡りを行う際のリアクションの凄さ。
よくドッキリ系の配信を見てコメント欄でやらせを疑う人間が居るだろう?
そういう奴らを悉く黙らせていくようなガチの悲鳴。
実際俺もあれが演技だとは全く思えないしな。
そんなこんなで独特の配信スタイルから彼女は老若男女問わず多数の支持を集めて……
配信一年目にして登録者は130万人を突破した。
俺たちも破竹の勢いで進んでいるとはいえ、まだ向こうの方が断然格上。
配信者は勢いも大事だが、それ以上に継続だ。
人気を常に落とすことなく立ち回る必要がある。
その難しさは配信者じゃなくても理解できるだろう。
「一応これは予め作った告知用の画像で……まだ向こうからのメッセージに了承はしていません」
「……これからどうするか決めるって事か?」
花峯は頷く。
まだコラボをやるとは決定まではしていないらしい。
まぁさすがに俺は今日初耳な訳だしな。
「私は前向きに検討していいかと思ってますが……勿論康太くんの意見を尊重しますよ」
強い意志がこもった瞳で見つめられてたまらずたじろぐ。
意見を尊重しますよ……つまりは俺の選択によって今後が変わってくるという訳だ。
その責任の重さを痛感して、俺は出来る限りの思考を巡らせる。
決定を全部花峯に任せるのが最適解なのかもしれないが……それは無責任だろう。
一応、一蓮托生でやっていくと決めたんだから。
『ふふふ……そんな悩みを抱えている康太くんに丁度いい話があるんです』
つい先ほど言われた言葉を思い出して納得する。
コラボをするとして企画の主導をどちらが握るかは分からないが……
ぱんぷきんチャンネルの配信スタイルを考えて大まかな内容を察することはできる。
さすがにホラー系から逸れてしまったら向こうの視聴者層は快くは思わない。
こっちはカップル系以外のスタイルは定まっていないし、そうなると相手に寄せるべきだろう。
俺はうーんと唸って顎に手を置いて考える。
ホラー企画で自信を付けるって、何か思ったより物理的と言うか……強引だな…
言いたいことは分からんでもないが少しずれている気がしないでもない。
ただそこを抜きにしてもメリットばかりなのは事実。
向こうの知名度も申し分なし……
視聴者層の違い、そこから望める普段は見ないであろうお互いの新規リスナーの取り込み。
俺たちにとっては初コラボということで食いつく人たちも多い筈だ。
別に俺の自信問題はさておきとして配信者としてはこれ以上ない好条件だろう。
デメリットもいくつかあるが、リターンを考えれば些細なものだ。
俺は花峯の顔をじっと見つめてはっきりと宣言する。
向こうの強固な意志に対して、出来る限り真摯に答えられるように。
「……やろう。ぱんぷきんチャンネルとのコラボ」