自信
昼休み、廊下を並んで歩いていると一瞬で年代問わず生徒たちの視線が俺たちに集まる。
逃げ場など無い。仮に逃げれたとしても数日で終わるような注目じゃないだろう。
当然各々の話題も一息にかっさらっていく。
「ね、アレだよね。ゆりこうチャンネルの……」
「俺昨日の配信見てたぜ」
「やっぱ普通に付き合ってんのかなー」
俺は顔を強張らせて視線を泳がせてしまう。
当然だが俺は他人に注目されるのはとても苦手だ。
あまり面識のない者と話すだけでもおぼつかないと言うのに……
まあ配信を見ていた人数はこんなレベルじゃ済まないんだが。
それでもあくまであの場に居たのは俺たちだけ、と考えれば何とか乗り切れた。
いざ直接浴びせられるとやはり話は変わってくる。
もし70000人の視線を直に感じる場に居たら俺は緊張で死ぬかもしれない。
小心者と思われるかもしれないが、共感してくれる人もきっと大勢いるだろう。
陰キャにとって時に視線はナイフ以上に鋭利な刃物になることもあるんだ。
最も切り裂くのは体ではなく心だが……
そんな俺とは真反対に花峯は常に余裕を崩さない。
表情も、足取りも、普段からの変化は何一つないのだ。
心底羨ましい。と純粋に思ってしまう。
「私は幼い頃から家柄上、何かと視線を集める機会が多かったので」
屋上にて共に弁当を食べながら、花峯は安定した精神を保てる理由を教えてくれた。
成程と思い俺は頷く。
実際お嬢様がどんな生活をしてるか詳しい内情は知る由もないが……
それでも立場上様々な人間と関わるであろうことは想像できた。
幼い頃から培われてきた経験。それが心を支える強靭な柱を担っているのだ。
実にシンプルである。
「……お前みたいに、少しでも余裕を持てるようになる方法あんのかな」
傲慢極まりない欲望が口からこぼれてしまう。
しまったと思い、誤魔化すように俯く。
花峯のそれが昔からの努力で身につけられたことは丁度今聞いたはずなのに。
俺は焦っていた。
折角上手く事が進んでいると言うのに、一々動揺を隠せない自分自身の器量に対して。
やがて不安が起因していつか重大なミスを犯してしまうのではないかと……
肩がぽんと叩かれる。
ふと顔を上げると、そこにはきりっと凛々しい表情を浮かべる花峯が居た。
「一先ず、自分に自信を持てるようになりましょう!」
そう言って、空いた方の手で親指をぐっと立てられる。
……まぁそうだな。
これもまたシンプルな回答だ。
具体的な解決策とは言えないが、何を行うにしても基盤に置いておかねばならない精神。
最も言われてすぐ出来るようになるのなら苦労しないのだが……
今までの自分の脳味噌をリセットして一から、なんて簡単に行えるものじゃない。
「……ふふ」
自分の在り方に悩んでいると花峯は突然含み笑いを始めた。
思わず身を引いてしまう。
少し遠ざかった所でその笑みの真意を問う。
「ど、どうした?花峯……」
「ふふふ……そんな悩みを抱えている康太くんに丁度いい話があるんです」
俺の目の前に、花峯のスマホが突き出された。