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ビジネスラブ

配信を終えておよそ30分後、俺はとあるサイトへアクセスする。

【配信解析速報】


そこには世界中の生配信の記録が記されているのだ。

デイリーランキングという項目もあり、今日一日の視聴者数を比べたトップ30の配信が並ぶ。


当然俺たちが先ほど行ったものも既に結果がとある技術の元に解析されていた。

俺はそれをじっと眺める。


ゆりこうチャンネル(チャンネル登録者数55万人)


最大視聴者数 :72023人

投げ銭合計額 :¥923010

高評価率   :97%


目の前に表示される圧倒的と言わんばかりのデータの数々にたまらず口元を抑えてしまう。

高評価率はさておき……上の数字二つは明らかにおかしいだろう。


最終的に配信を見た人数は待機時の2倍以上にまで増えていた。

「70000って何だよ……」

頭を押さえながら嘆くように言い放つ。

正直もうスケールが掴めなくなっている。


そりゃ配信をやっていく上で視聴者が増えていくのは間違いなく良い事だろう。

だがあまりに増えすぎてしまうと手放しに喜ぶ事は難しい。

一種のジレンマだ。


そして投げ銭合計、つまりは配信中に視聴者が俺たちに向けて渡したお金の総額を指す。



なんと92万、……92万?


先に言っておくとこのお金の全てが手元に入る訳じゃない。

投げ銭と言うのは大体総額の3分の一程を配信元のサイトに還元するのだ。


従って俺たちに入る金額はおよそ60万円と少し。

それを高峰と二人で分け合うとして……俺個人に入ってくるのは約30万円と言った所だろう。



理解が追い付かない。

俺たちが行った配信の時間はたった一時間程度。

内容もつまらないと言う訳じゃないが、ただツイスターゲームをやっただけに過ぎない。

カメラの前でずっと楽しそうな表情で居るのは辛いものがあるが、肉体的な負担はほぼ0だ。


これで30万だと?

高校一年生の頃にやっていたコンビニでのバイトの時給は720円だった。

今俺が一時間で稼いだのは投げ銭分だけで考えてもその400倍のお金。


勿論動画再生の際の広告費もあるし……こんなものでは終わらないのだが。


さして悪い事をしている訳でもないのに胸が痛んでくる。

何だかものすごく怪しい職業に手を染めてしまったような気分だ。

元々はお金の為に始めたものなのに……成功しすぎるとブレーキをかけたくなってしまう。


「康太くん、今日も配信お疲れ様でした。簡単な夜食でも作りましょうか?」

「お疲れ様……進行とか任せっぱなしでごめんな」

相変わらず見とれてしまいそうな程の輝かしい笑顔のまま、花峰は俺に語り掛けてくる。


夜食という単語を聞いた瞬間、俺の腹の虫が勢いよく鳴き声を上げてしまう。

慌てて誤魔化そうとするも弁解の仕様がない。

配信前はあまり胃に物を入れないようにしていたが……それが裏目に出るとは……!


結果、俺は俯いて顔を赤くすることぐらいしか出来ない。

それを見た花峰は心底楽しそうに微笑んでくる。


「ふふっ……じゃあ、私キッチンに行ってきますね」

そう言って花峰は鼻歌を歌いながら台所へと向かっていった。

その足取りの軽快さたるや……


どこか乗り切れない部分がある俺とは対照的に、彼女は配信に対してかなり好意的だ。


結果的に成功しているからだろうか。

あるいは……



いや、やめておこう。首を左右に二回動かす。

過度に期待しすぎるなという己との約束は忘れてはいけない。

花峰には世話になってるし、感謝をしてもし足りないが……一線は保っておく。


あくまでこれはビジネスであって……俺たちの関係もその下に成り立っているのだ。


業務上の恋愛、それを忘れてはならない。


「康太くーん。飲み物何にしますかーは?


キッチンから高峰の声が届く。


まぁその割には向こうは配信時間を過ぎていると言うのにやけに楽しそうな気もするが……



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