超人気配信者
過去と現在を織り交ぜて進めていきます!
34300人が待機中です。
モニターに表示されているその数字に息を飲む。
30000人以上の人間が今この配信を見ようとしているのだ。
何だ?34000って……俺の通ってる高校の全校生徒数ですら400人程度だぞ?。
単純に考えてその80倍以上。
しかもまだ配信開始3分前だ。始まったら更に人数は増えていくだろう。
机に置かれた水を飲んでひと際大きな息を吐く。
生配信自体はこれで4度目だが未だに緊張感は消えない。
むしろ回数を増すにつれ比例して増えていく視聴者数に圧倒される毎日だ。
そんな中、今日も俺に救いの声が届く。
「大丈夫ですよ。康太くん」
そう言って花峰は俺の手を握る。
その表情はさながら聖女を連想させるような柔らかい笑顔だった。
「毎度ありがとうな。花峰」
彼女の気遣いのおかげでお陰で少し落ち着くことが出来た。
俺が礼を言うと花峰はむっと頬を膨らませる。
「……ゆりちゃん、ですよ?」
咎めるように袖をぐいぐいと引っ張られて俺は苦笑いを浮かべる。
そうだな。配信内でうっかり苗字読みをしてしまう訳にはいかないからな。
やがて時計の針は21時を指し、配信が始まった。
二人そろって息を吸う。
「配信をご覧になっている皆様、こんばんはー!ゆりこうチャンネルのゆりかとー?」
「こ、こうたでーす!本日もご視聴いただきありがとうございまーす!」
自分で出来る限りの明るい声音と表情を作っていく。
モニターに笑顔の俺と花峰が映る。
それを見ていたたまれない気分になり、顔に出そうになるのを必死にこらえた。
相変わらず花峰は綺麗だ。
その黒髪も、ぱっちりとした目元も、高く細い鼻も。
非の打ちどころを見つけることなど到底出来そうにもない。
テレビに映る芸能人すら目じゃない程の美しさだ。
眼福なんて歯の浮くような言葉を純粋な感想として言ってしまえるほどに。
それに比べて俺は……まぁ酷いって程でもないが、平凡極まりない顔だ。
こうして隣に並びあっているのを俯瞰視点で見ていると悲しくなってくる。
とても釣り合いが取れているとは思えない。
そろそろ視聴者たちにも何か裏があるのでは?と勘繰られてしまうのではないのだろうか。
などと杞憂を浮かべていたが……
『こんばんはー』『こんばんは』『今日も配信ありがとうございます!』『二人共カワイイ!』
『仕事から帰ってすぐ配信ある幸せ』『人数すごい!』 『今日も仲良しだ!』
コメント欄は今日も称賛一色。
疑う人間など微塵もいやしなかった。
「わ、今5万人も……もう4回目なのに緊張しちゃいます」
花峰は俺に肩を寄せながらカメラに向かって語り掛ける。
不意に人肌に触れ思わず体を逸らしてしまいそうになるが、それは出来ない。
俺は羞恥心を抱えつつもじっと身を固めたまま高峰の進行に身を委ねていく。
「じゃあ今日は……こう君と二人でツイスターゲームをやって行こうと思います!」
「い、いぇーい!」
配信を盛り上げるために歓喜の声を上げる。もうほとんどやけくそだ。
俺はそっと部屋を出てゲームに使うマットを取りに用具室へと向かう。
その間花峰は場を繋ぐために視聴者たちと会話を行っている。
ほんの2週間前に俺は心に誓った。
恋愛になんて期待しない。これからは打算的に生きていくと。
愛や恋などに浮かれはしないと……!
そんな俺は、なんと今はカップル系配信者として活動を行っている。
クラス一の美少女でありお嬢様でもある花峰 百合子と共に。
チャンネル登録者は開始一週間で早60万人を突破。
生配信では常に5ケタの人間が集まり、通常の動画は一日で50万回以上再生されたりもする。
現実感の無さに気が遠くなりそうだ。
それでもここまで来てしまったら夢や妄想の類なんて疑いを挟む余地はない。
ひねくれてて冴えない陰キャだった筈の俺が……瞬く間に人気者になってしまったのだ……!
……いや、間違っても俺一人の力では無いが。