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疑って生きていく(プロローグ)

何で5月なのに蚊が湧いてるんですかね……

恋愛なんてとても綺麗なものじゃない。

それが俺、阪口 康太(さかぐち こうた)が17にして早々に悟った現実だ。


今日も今日とてイヤホンを付けながら長い学校までの道のりを電車で進む。

耳元ではスマホにダウンロードされた曲が響いてくる。

イントロに身をゆだねる内に少しずつ気分は上がっていく。


周りを気にせず独特の世界観に浸れるのはやはり便利だ、と思っていたのも束の間。

俺にとって聞きたくないフレーズが流れる。


「私今でも思い出すの。君と過ごした日々を~♪」


みるみる顔が歪んでいくのが自分でもはっきり分かった。

素早くフリック操作を行って別の曲に変える。


当然そんな事をしても、心に滲み渡るような焦燥感は簡単に消えてはくれない。

誤魔化すように瞬きを何度も行う。



最近はこんな感じで別れた恋人への未練を綴った歌が人気だ。

勿論魅力的な部分があるのは大いに理解できる。

かつての思い出や、後悔や未練を儚いメロディと共に広げていく。

過去を綺麗なものに塗り替えてくれるような気だってしてくる。

それはさぞかし劇的で、感動的で、運命的だった筈だと。


が、少なくとも冷めきっている俺の視点から言わせてもらえばそんな事は全くなかった。


俺と元カノが別れた理由は浮気。勿論向こうの方が行ったことだ。

大学で同じサークルの先輩と飲み会に行ってそのまま……後は察してくれ。


理由は……あいつ曰く、寂しかった。あっちは私に寄り添ってくれた。格好良かった。愛してくれた。


長々と語られたものだが一言で片づけてしまうのなら一時の気まぐれ、それで終わる話だ。

別に壮大な物語や葛藤があった訳でも無い。



誰彼構わず恋愛全てを指してくだらないなんて傲慢に吐き捨てはしないさ。

視点を広げてみれば、多分普通に恋愛を謳歌してる人間なんてごまんと居るだろう。

複雑な事情が絡み合って後悔を抱えたまま悲痛な別れをしたケースもきっとある。

だからこそ前述したとおり別れを題材にした歌が流行ったりするわけで……


ただ俺の場合は違った、というだけなんだ。


好きだの将来だの運命など……思い返すと耳が赤くなってくるような単語を散々ほざき合ってた訳だが。

結局そんな形だけの言葉達は少しのアルコールで全て流されてしまった。


こんな流れを恋愛ソングの歌詞にしてみても、くだらない事この上ないだろう?

滑稽さを嘲笑うのが関の山だ。


さて、そんな苦い経験を踏まえて一つ心に指標を立ててみようと俺は思う。



もう今後恋愛は一切しない……などと宣言するつもりはない。

そこまで嫌悪を抱く程偏見は持っていないからな。


だが……何があっても過度な期待は絶対にしないでおこう。


密かに拳を強く握りしめて己にそう誓う。


これ以上愛だの恋だの、浮ついた言葉に騙されてたまるか。

人って言うのは簡単に利益の為に他人を騙せる生き物だと嫌という程思い知らされたんだからな。


どうせ騙されるくらいなら、最初から斜に構えていた方が幾分かマシだろう。

正直者のままでいて馬鹿を見るのはもうゴメンだ。


どんなに優しい人間だろうと、どんなに素晴らしい言葉だろうと、真正面から受け取ったりはしない。

絶対にだ。



こんな感じで俺の疑いと打算にまみれたラブコメ生活を…今後出来るのなら始めていくつもりだ。


と言っておきながら、既に今日の時点で始まってしまっているんだがな。

そんな事を知る由もない今の俺は、重い気分を拭い切れないまま学校へと向かっていくのだった。










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