三話 町と格好
あれから何日か経ち
少しずつ危ないものへの対応が分かってきたホムラ
ヘビを振り回しながら家にかえってくることもなくなった
その代わりなのか
「ねー、なんでこのお花はあぶないの?」
「この花はねトゲに毒があるからですよ。ほらよく見るとトゲからうっすら冷たい空気が漂っているでしょ?」
「ねー、なんであの木は大きいの?」
「あの木はとても長く生きているんですよ」
「ねー、なんでピーマンは苦いの?」
「…」
ジーッと嫌そうに手元のピーマンを睨む息子に
私はなんと返そうか悩む
どんなちょっとしたことでも
なんで?
と聞いてくるのだ
これがなんで期というやつか?
興味があるのはいい事だが
返答に悩むし
逐一聞いてくるので今やっている仕事が止まってしまう
親になったことがないから
こういう時どうしたらいいのかわからない
それにやらなければいけないことが終わらない
世のママさんたちは
子供の相手をしつつ家事育児しているのか
そう思うと本当にすごいなと思う
「よしっ!」
そう言いながら私は立ち上がった
一人で考えても仕方ないと思い
助けを求めることにした
「どうしたの?」
綺麗にピーマンだけをスプーンでよけながら
不思議そうな顔をしてこちらを見るホムラ
「ホムラ、今日はパンナさんに会いに行きましょうか」
「!」
途端にホムラの目が輝き出す
「ロンと遊ぶ!」
イスから飛び降り
カバンを取りに行く息子の姿に
元気だなーと思いつつ
可哀想な皿の上のピーマンに目をやる
「パンナさんに食教育について教えて貰わないとですね…」
食器を片づけて
自分も町にでる準備をする
「うわー!」
ホムラがキョロキョロと見回し
それはもう楽しそうにしていた
そこは私たちが住んでる森とは違い
様々な人が行き交っていた
「らっしゃい!らっしゃい!新鮮なたまごにヤギのミルクはいかが!今朝とれたばっかだよ!安いよ!」
「たまごを6個貰えるかしら」
「まいど!」
「そこのお姉さん、今流行りのトルナのジュースを飲んでみないか?お姉さんのキレイなお肌が更にきれいに…」
「なに口説いてんだい!この馬鹿!」
「っで!ごめんよカアちゃん!」
この町のメインストリートの両端にズラリと並ぶ様々なお店
農作物から始まり、加工した食品や工芸品が店頭を彩っていた
飛び交う声からも繁盛しているのがわかる
「とうさんとうさん!早く行こうよ!」
「待ってください、まずトトを厩舎に預けてきますから」
そういって傍に佇む大きな猫をなでた
にゃあ
と一声鳴いた羽の生えたキジトラ猫
現代の馬ぐらいの大きさであり
ダウンキャットという種類の空飛ぶ猫なのだ
馬や牛以外にも人や荷物を運ぶ生き物がこの世界にはいる
このトトもその一種である
町の入口近くにある預かり所にトトを預け
ホムラと手を繋ぎながら町中を歩く
ホムラには人で賑わうこの光景は毎度新鮮らしく
あれはなにこれはなにと何度も聞いてくるのだ
またそんなホムラの様子にも微笑ましいものがあり
たまにお店のおじさんが「坊主これやるよ」って
食べ物をくれるもんだから困ったものである
「あんちゃん、またそんな格好して!慣れたからいいもんだけど、たまには普通の格好したらどうなんだ?」
そう私に声をかけてきたのは
新鮮な野菜を売ってくれる八百屋の店主
見た目はどうみてもヤのつく職業の人なのだが
子供大好きのいいオジサンである
(もちろん変な意味ではなく)
八百屋のおじさんが言うそんな格好というのは
私の格好のことで
フード付きの茶色のゴシックパンクジャケットに
真っ白なお面をつけている
「いやー、こうみえて結構いい素材使ってまして…それに私顔に大きな火傷の痕があるので、みなさんを怖がらせたくないんですよ」
あはは、と笑うも
店主はため息を吐く
「この町のもんは怖がったりしない…と言いたいところだが、まぁ色んなやつが行き交うからな。いい素材の服を着たいのは分かるがもっとマシな服にできんもんかね」
「はは…気をつけます」
店主なりの優しさだがこればかりは仕方がない
いくつか野菜を買い八百屋をあとにする
途中、ホムラがあちこち行きかけたが
しっかりと手を離さなかったおかげで
逸れることはなかった
ほんと子供ってパワフル
暫くするとお店も減り
同じような家が連なる住宅地へと入る
その中の一つの家の前へと行くと
扉を軽くノックをする
「はいよー」
明るい女性の声が聞こえ
扉があいた
「あらー!ノヴァさんじゃないか、よく来てくれたね!」
そう言って現れたのは薄紫色の長い髪を三つ編みにした20代後半くらいの女性
子育ての先輩であるパンナさんである
「こんにちは、パンナさん。ほらホムラもご挨拶」
「パンナさん、こんにちは!」
背中を軽く押せば
元気に挨拶をするホムラ
女性はその姿にニコニコと微笑んだ
パンナさんと出会ったのは数年前
旦那さんのケビンさんと森の中で困っているところを
私が助けたことをキッカケに仲良くなったのだ
ときたま家に遊びに行ったり
子育てについて教えてもらったりなどしている
また、パンナさんの家にもホムラと同じ歳の次男もいるため
ホムラもこの家が大好きなのである
「あらー!ホムラくんも元気そうね。ちょっと背が伸びたんじゃない?」
そう言うとパンナさんはしゃがんでホムラの両頬をワシャワシャと撫でた
「えへへー」
とホムラも笑っている
「ホムラもロンくんと遊びたいみたいで…あ、あと森で採れたハーブをお持ちしました」
そう言ってカバンから取り出した麻袋をパンナさんにわたす
「あらあら、いつもありがとうね!ホムラくん、ロンは今お兄ちゃんと一緒に裏で魔石の使い方について勉強しているわ。参加する?」
「するー!」
そう言いながらホムラは裏庭に行ってしまう
「慌ただしくて、すみません…」
私がそう言うと
パンナさんは豪快に笑った
「いいのよ!子供は元気なのが一番!ほらほら中に入って、お茶でも飲んでいきなさいな」
「ありがとうございます」
その言葉に甘え
私はドアをくぐった