第10話
「静かにしてね…」
そう言った黒いパーカーの男はナイフを近くの女子生徒に突きつける。この状況を前にして誰が大声を出せようか。
ナイフの刃はゆっくりと顎を通り過ぎ、首元に行こうとしている。その女子生徒はわなわなと震え目には涙を溜めていた。
それを見て男は、
「なーんてね。驚いた?」
と呑気に話しかけた。
聞き覚えのある声にそこにいる全員がきょとんとする。
そして、その男はフードを後ろに下ろすと、
✱ ✱ ✱
保健室までの一本道の廊下を肩で息をするほど全速力で走る人影がある。手には枕ほどの布袋を持っている。静かなこの空間にはとたとたとこの足音以外に存在していない。
この階には人が見当たらず保健室から灯りが少し見える程度だった。
「はぁあ、はぁあ、はぁぁあ」
保健室の前まで来ると静かに深呼吸をし、そろそろと中に入る。辺りを見回すが職員や警察はいないようで、外部や現場での対応で忙しいと推理する。
北村の遺体を見て精神的に参ってしまった男子らはベッドの上ですやすやと寝ているようで、布団を全体に被ってしまっているから寝息もせずほとんど無音に近い。
するとその人は心の中でガッツポーズをする。
よし、よし!何とかここまで予定通りだ。北村も無事に殺せたし、ここでダウンしてる3人もこの縄で殺す。
持っている布袋から直径1センチ程のロープを取り出すと長さを確かめるように、また舐めるように全体を触ると足音を立てないように3人のベッド前に行く。
もう一度辺りを見回し、1番上の布団の端を掴むと静かに、そして素早く下にスライドする。
「!?!?」
男子生徒が寝ているはずのそこには山積みされた布が人型に見せられるように並べてあるだけだった。
他の2つも確認するが同じ結果だった。
どういうことだ?なぜこんなことが…
バァン!
大きな音を立てて勢いよく保健室の入口のドアが開く。そして大勢の人が懐中電灯を手に自分を取り囲むように近づいてくる。
咄嗟にロープを後ろに隠す。
「隠しても無駄だよ。僕たちは全部知ってるんだ」
そして1人が自分に向かって呟く。
「君だったんだね、宮島王利くん」
懐中電灯のライトを当てながら威圧するような声で言ってきた。
眩しくて誰が言ったかはよく見えない。
「本当に言った通りだな。ていうか宮島王利くんですらないよね。こっちは全部分かってるんだ、王利くんの顔のマスクをつけていることも。お前は…」
ヤバい、バレる。マスクの裏で汗が吹き出しているのを感じる。
「この辺りで多発している連続殺人事件の犯人、だよね」