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日常・ヒロイン  作者: 篠
7/22

イノシシ 少女あらわる

会議室を出ていく部長を涙目で眺めながら、テーブルに飛び散った血をティッシュで拭っているとトレンチさんが心配そうにやってきた。


「きざきさん…どうしたの?心配してたんだよ…」


(ありがたいけど、めんどくさいなぁ…このあと何があったか好奇心で聞かれるんだろうな)そう思ったから、泣き喚き絶叫で応えた。こんな時に女子の感受性はありがたい。

「大丈夫!大丈夫だから」と言いながら、ぎゅーっと私を抱きしめてくれた。

日常クズを演じる私でも、ちょっとだけ、罪悪感が芽生えたけれど、無視することに決めた。

言い訳するように心の中で(だってトイレ行きたかったんだもん)と思いながら。



私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)


私は、正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』を自宅に軟禁している女の子!無断欠勤をからの出社!頭がハゲてて額に流血しながら部長の泣き落とし作戦に成功!定時で帰ることにしたわ!!


で…。


帰る途中、そこそこ電車は混んでいて、乗車率が高いので、開閉ドアの近くで身体を固くして窓の外を眺めていた。


混んでる電車は苦手で、得意なやつはいないだろうけど、むしろそんな電車を好む人種もいるようだ。


最初はカバンが揺れるたびに体に当たるのかと思っていたのだけど、混雑は変わらないのにどんどん密着してくる人がいて、これはもしかして、あれかなぁ…と思うけど、確証もないし、何よりも自分がその対象に見られているという事実を認め難くて、ぐずぐすと考えていた。


最初は触れたり離れたりだった接触が密着しつつ腰のあたりに手が触れてきて、背後からなまぬるい臭い荒い息が首元に吐きつけられていて、吐きそうになった。


これは、正義の味方としてどうするべきかと考えていたが、こんな犯罪を犯す奴も、一般市民なんだよなぁ…私が守るべき…。と唇を噛みしめながら考えていると、なんだか泣けてきた。


今日は本当に最悪な日だ。


会社では部長に怒られるし、抜けた毛はまだまだ生えそろいそうにない。


しかも、この、大量に人を押し込むように積み込んだ電車の中で私一人が性的対象になっていて声を出すこともできないという。


なんだよっもう!


そう考えた瞬間に、向こうから悪鬼の形相をした女子高生が周囲の大人をかき分けながら接近してきた。「おい!」とか「なんだ?!押すなよ!」などと怒鳴られながらも私を睨みつけるようにしてぐいぐい人をかき分けてやってきて私と背後の痴漢男をかわるがわる睨みつけた。


そして、痴漢男の手に赤のマーカーで思いっきりマルを描くと、その手を掴み上げて「この人痴漢です!このお姉さんを触ってました!」と叫んだ。


私は、いろんな思いが去来しててボロボロ化粧が流れ落ちるほどに泣いていたのと、人混みをなぎ倒すようにかき分けてきた傍若無人な女子高生が注目を浴びてたのとで、電車の中が騒ついた。


私の近くにいたスーツ姿のおばちゃんや、正義を振り回して悦にいるのが得意そうなチャラい男子高校生など。彼ら達が痴漢との間に割って入って、痴漢を捕まえ、みんなで次の駅で引きずり降ろした。


それから、私たちは駅事務所で取り調べ。

女子高校生は、ふーふー言いながらいきり立っていた。

まるでイノシシのようだった…。


解放されて、帰る時に女子高生が待ち構えていて、私を見つけるなり食ってかかるように私の襟首を掴んで問いかけてきた。


「ちょっと!!あんた!」


「あんた…」

私は、女子高校生にあんた呼ばわりされている…。

そんな思いで思わず口に出した言葉を、彼女はひっ捕まえて振り回すように言った。


「あんたよ!あんた!なんであんなひどいことされて黙ってるわけ?!あんたには自分ってもんが無いの?!別に正義の味方やれってわけじゃないのよ?自分の身は自分で守りなさいって話なのよ!」


「あぅ…あ、あぁ…」

私は、激しく動揺した。私は正義の味方をやっている、戦隊ヒーロー集団の紅一点だったから。


「びびんなっ!!おばちゃん!」

女子高校生は、言葉にならない音声を壊れたように紡いでいる私を叱咤した。


そして、私は何も言えずにボロボロ泣いた。


「泣くなっ!」

更にくそ生意気な女子高校生は私に向かって振り回したカバンで腰を叩いた。


「ひぃっ!」

私は、この高校生が怖くなっていた。


次は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)さん、帰宅する!…の巻

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