5
私は死んだつもりだった。
まだ死を経験していないから、どんな感覚かわからなかったからだ。
だが私は死んでいなかった。
目蓋を開ける事により、それを確信した。
目を開いた時、異形頭の男達は全員倒れていた。
だがその中に一人、男が立っていた。
トンネルの前で会ったあの男だ。
彼は私に手を差し伸ばしてきた。
私は彼の手を取り立ち上がった。
『何故ここにいる?あんたも奴らの仲間なのか?』
*「質問は一つにしてくれ。俺は奴等の仲間ではない。」
『悪かった。正直何がなんだか分からないんだ。君が奴等の仲間じゃない事は安心したよ。』
*「移動しよう。ここは危険だ。」
私は彼の後を追うようにして、外へ出た。
私が捕われていたのはコンテナ状の簡易建物だった。手入れがされていないのは中と同じだった。
私と彼は先にある森林に身を隠した。
*「警告はした筈だ。何故ここへ来た?」
『私は妹を探しているんだ。あの警告だけでは引き下がる理由にならない。君こそ何故ここにいる?』
*「俺は、ある調査で此処に来た。」
『調査...君は刑事なのか?』
*「期待させて悪いが、刑事ではない事は確かだ。」
『奴等は一体なんなんだ?』
*「奴等はある実験の被検体だ。そして此処はその実験の為に用意された収容施設だ。内容に関しては聞かない方が身の為だぞ。」
『私は妹を探しているんだ。頼むから教えてくれ。』
*「いいか?妹の安否を心配する事は分かる。だが、ここにいる時点で自身も危険に晒されている事を自覚しろ。身の丈にあった行動を取れ。」
私は返す言葉がなかった。
そして暫く沈黙が続いた。
*「とにかく...君の目的は一刻も早くここから脱出する事だ。念の為これを渡しておく。使う機会がない事を祈るが。」
そう言い、彼は私に何かを手渡した。
それは拳銃だった。
映画で見た事はあるが、実際に持つのは初めてだ。何故彼がこんな物を持っているのか。
*「使い方は簡単だ。引き金を引くと弾が出る。弾を当てたければ狙え。」
私の頭は再びパニックに陥っていて、思考停止の寸前だった。
*「妹の事は俺に任せろ。生きているかは分からないが...ここに来たのならば何かしらの情報は掴める筈だ。」
*「ここを真っ直ぐ進め、朝には何処かしらの道に辿り着くだろう。」
そう言い残して、彼は暗闇に消えていった。
私は妹の捜索を諦めきれていなかった。
彼を信用する根拠がないからだ。
だが、私を助けた理由も分からない。
月光が差し込む中、ただ拳銃を見つめていた。
彼はいったい何者なのか...