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道路はあるものの、かなり劣化していており地面が剥き出しになっている箇所がいくつもあった。
私は、道路の傍に車を停めた。
腕時計は12:46を示していた。
助手席に置いてあった、バックパックを取りドアを開け外に出た。それから周囲を見渡した。
通ってきた道路の両端を囲むようにして、木々が覆い生えている。
先も同じだった。
だが、微かに木々の隙間に山道が出来ているのが分かった。
バックパックから、印刷した地図を取り出した。
地図にはマークがつけてある。
妹の車が発見された場所
捜索が行なわれた場所
謎の集落が目撃された場所
今、私はいるのは車が発見された場所に該当する。
ここから西に向かえば、恐らく謎の集落の目撃地点に辿り着くだろう。
私は地図をバックパックに入れ山道を歩き始めた。
山道はかなり荒れていた。
少しでも注意を怠り、道を逸れてしまうと迷ってしまう。そう思えた。
ふと、ヘンゼルとグレーテルが脳裏に浮かんだ。
まだ妹が幼い頃、読み聞かせてやっていたグリム童話の1つだ。
私がヘンゼルならば、この先にお菓子の家があり魔女がいるだろう。
腕時計は13:30を示していた。
やがて道が開けトンネルが目の前に現れた。
トンネルの前には魔女ではなく男が一人立っていた。
男はブラウンのレザージャケットを着ていた。
髪は短くサイドは刈り上げられていて、眼は綺麗な青色をしていた。
恐らく年齢は20代後半くらいだろう。
彼は何も言葉を発する事なく、青色の眼光を私に向けていた。
私は恐怖心を抱いていた。
無理もないだろう、誰もいる筈のない山中で知らない男に出会ったのだから。
オカルト的な視点で見ると霊かもしれない。
また、サスペンス的な見方をすると誘拐を繰り返しているサイコキラーかもしれない。
ネガティブな考えばかり脳裏に浮かぶ。
私は、私の中の恐怖心を取り払う為に男に質問を投げかけた。
『ここで何をしている?』
返答がある事を願いつつ、私はポケットに手を入れた。ポケット中には小型のナイフを入れてあるからである。
先ほどのサイコキラーであれば人間だ。
人間ならば殺せる。
おおよそ20秒間だろうか、体感ではもっと長く感じた。互いに見つめ合っていた。
そのうち彼が言葉を発した。
「ここから立ち去れ」
私は彼が言葉を発する人間である事に安心感を抱いていた。
だが、同時に警戒心を強めた。
彼は私の問いに答えていない。
私にとって、彼が何故ここにいるか知る必要がある。
彼が妹の失踪に関わっているかもしれないからだ。
ナイフを握っている手は汗で濡れていた。
彼は再び口を開いた。
「警告はした」
そう放つと、彼はトンネルの暗闇に消えていった。
私は暫くその場に放心状態で立っていた。
ここまで緊張感を抱いたのは初めてだった。
呼吸を整えたり後に、私は彼を追うようにしてトンネルに入った。
トンネルの中は電灯もなく暗闇と静寂に包まれていた。だが微かに、水滴が滴る音が聞こえる。
私はバックパックから懐中電灯を取り出し、電源をつけた。
暗闇の中を500mほど歩くと出口が見えて来た。