あいさつ。
ついに荒井家に挨拶に行く日がやってきた。
「華〜このネクタイ変じゃないか?」
「似合ってるから大丈夫だよ」
「髪型変じゃないか?あ〜髪切りに行っておくんだった!」
「大丈夫だって!」
「華〜」
「もう!お土産買いに行く時間無くなっちゃうよ?」
「あ、やべっ!もうこんな時間か」
華とお母さんは服装やお土産は今更ちゃんとしなくていいんじゃないかと言ってくれたが、ここはお父さんと気が合った。
『一生に一度の事だからしっかりやりたい』と。
華を見ると花柄の白いワンピースを着ている。
いつもより清楚な感じで綺麗だ。
「…何見てるの?」
「いやっなんでもない!行こう!」
俺たちはデパートに向かった。
「お酒にしようと思ってるんだけどどうかな?」
「いいんじゃない?明日は1日ゆっくりできるし、お父さんと深酒しても大丈夫だよ」
「よしっ!気合入れて選ぶか!」
気合を入れてみたものの、贈答用のお酒は何がいいかさっぱり分からなかった。
店員さんの助言でやっと決まった。
「湊人!もうこんな時間!急がなきゃ!」
「おう!」
ーーーーー
「「…。」」
華の家のリビング。
緊張で体が固まっている。
華を見ると微笑みかけてくれた。
お母さんを見ると同じく微笑みかけてくれた。
お父さんはというと。
黙ってお茶を飲んでいる。
(お嬢さんを僕にください、お嬢さんを僕にください、お嬢さんを僕にください…)
「お、お父さん!」
キッとお父さんの鋭い目がこちらを見据えた。
「お嬢さんを、僕にください…!」
俺は頭を下げた。
「…だめだ。」
(…え?)
俺は思わず頭を上げた。
お父さんの表情は険しかった。
お母さんを見ると驚いて固まっていた。
「「…。」」
「…すまないね。」
「あのっ…」
「娘をよろしくお願いします」
「えっ…!」
俺の頭にハテナマークが並んだ。
「ははっ!1度やってみたかったんだ!驚かせて悪かったね!」
「…そうだったんですか…あぁ〜!どうしようかと思った!」
俺は一気に緊張の糸が切れた。
「もう、お父さん!変な冗談言わないで!寿命が縮んだわよ!」
お母さんが怒っている。
「湊人、よかったね!」
華は嬉しそうだ。
ーーーーー
夕食が済んだ後、俺とお父さんはお土産で買ってきたお酒を飲みながら華のアルバムを見ていた。
「これは3歳の時かな。この頃は『お父さんと結婚する』と毎日のように言ってくれてね、それはそれは可愛かったよ。」
たくさんの写真がアルバムに入っている。
華はものすごく大切に育てられたんだなと改めて感じた。
「俺、華のこと一生かけて守ります。華のことが好きで好きでたまらないんです…華と結婚できることが本当に夢みたいです。お父さん、こんな俺ですがよろしくお願いします」
何故か涙が出てきた。
お酒のせいだろうか。
お父さんも釣られて泣き出した。
「湊人くんと出会えて本当に良かった。これからもよろしく頼んだよ」
華とお母さんは男達が泣いているのを見て微笑んだ。
「華…本当におめでとう。幸せになってね」
「うん。湊人となら大丈夫」
お母さんは華の頭を撫でた。




