お姫様。
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湊人の高校の文化祭です。何か起こるでしょうか?
文化祭。
3年の俺にとっては最後の文化祭になる。
俺のクラスはメイド・執事喫茶をやることになった。
来てくれたお客さんも希望であればドレスやタキシードに着替えてお茶したり、校内を回れるようになっている。
「なんでこんな格好…」
俺が不満そうに着替えていると衣装係が鋭い目つきでこちらを睨んできた。
俺だけウサギの着ぐるみなのだ。
「赤井くんがズボン破くのが悪いんでしょ〜!」
「あれは、わざとじゃないって!」
俺はクラスのサッカー部とスクワット競争をしていた。
その時、ズボンのお尻の所がビリビリと思いっきり破れてしまったのだ。
「なんで執事姿でスクワットなんてやるかなぁ」
衣装係は不機嫌だ。
「わ、悪い…」
「ま、先生が着るはずだった着ぐるみがあって良かったよ!今日は1日宣伝よろしくね!」
「おう、やってやるぜ!」
ーーーーー
俺は着ぐるみを着て宣伝をして歩いていた。
「メイド・執事喫茶、2階です!どうぞお立ち寄り下さい!ケーキやドリンク、希望者はドレスやタキシードに着替えられますよ!」
「え〜楽しそう!行ってみる?」
「うんうん!」
女子やカップル達が興味を示した。
(よしっ!いい掴み!)
俺は気分良く歩いていた。
もうすぐ休憩時間になる。
今日は華も来る予定だ。
華を早く見つけて一緒に文化祭を回りたい。
俺は教室に戻り、着ぐるみの頭を脱ごうとした時。
「湊人〜!お姫様の到着だぞ〜!」
同じクラスのサッカー部の原田が俺を呼びに来た。
「まじ?すぐ行く!」
俺は華を驚かせようと着ぐるみを着たまま行くことにした。
俺が華の元へ行くと人だかりができていた。
華は青いドレスを着て、髪もセットされティアラが付いている。
本当にお姫様のようだ。
女子もいるが圧倒的に男子に囲まれている。
華は少し震えているように感じた。
俺は人だかりを掻き分け、華の目の前に行った。
「…ウサギさん?」
俺は何も言わず跪き、華の手を取り手の甲にキスをした。
「!!」
そして周りの目を気にすることなく華を抱き上げお姫様抱っこで席まで連れて行った。
「あの…恥ずかしいんだけど…」
「華、すぐ戻ってくる」
「…湊人?」
俺は華にそう言って急いでバックヤードに戻った。
「原田!悪い!執事服と着ぐるみ交換してくれ!」
「おう!任せとけ!」
原田は話のわかるやつで気がきく。
「さんきゅー!」
俺は執事姿になると華の元へ行った。
「お姫様、お待たせいたしました。ケーキと紅茶でございます」
「湊人!」
華の顔がぱぁ〜っと明るくなった。
満面の笑みでこちらを見つめている。
男女共に周りの人が華に見惚れている。
「待たせて悪かったな!休憩時間になったから一緒に食べようぜ!」
「うん!」
華は嬉しそうだ。
「ねぇ、さっきなんで助けてくれたの?」
「華が困って震えてたから。」
「…やっぱり分かっちゃったか。」
「あんなにいきなりたくさんの人に囲まれたら誰でも怖いだろ」
「うん。久しぶりにあんなに男子が近くにいてちょっとびっくりしちゃった。」
華が苦笑いしている。
「でも、ウサギさんが来てくれた時すぐに湊人だって思ったんだ〜!」
「え、バレないように着ぐるみのまま行ったのに!」
「湊人があんな大胆なエスコートしてくれるなんて思わなかったなぁ」
華が茶化す。
「顔が見えないからいいかなって思っただけだよ」
俺は少し拗ねた。
「嬉しかったよっ!その執事姿も似合ってる」
「そ、そうか?」
俺は照れ隠しで話題を変えた。
「…食べ終わったら屋上行かないか?」
「ドレスでも行けるかなぁ?」
「大丈夫、俺が抱っこして連れてくから」
「え!?重いよ?!」
「華なら大丈夫だ」
俺たちは屋上に向かって歩いていた。
「わぁ、きれい…!」
屋上には色々な装飾がされており、とても綺麗だった。
「…華さん?」
「中村先生!こんな所で何してるんですか?」
「弟と文化祭を見に来たんですよ。今はトイレにいってしまったんですが。…華さん、とても綺麗ですね」
「ありがとうございます!先生もとてもかっこいいです!」
中村先生はタキシードに着替えていた。
「あの、」
俺が話に入ろうとすると、
「執事さんは少し離れて待っていてくれますか。私はお姫様と用があるので。」
と言い華と歩いて行った。
「え…?」
華が振り返り俺を見ている。
その目は少し怯えている。
何か嫌な予感がしたらしい。
俺が追いかけようとすると先生は俺の方を一瞬見て笑みを浮かべ、いきなり華を抱きしめた。
「や、やめ…」
華は震え出した。
「おい、やめろ!」
俺は急いで華と先生を引き剥がし、華の前に立った。
「華さん、僕はあなたが好きです。僕と付き合いませんか?僕ならあなたを助けてあげられます」
「…。」
華は震えが止まらない。
俺は優しく華を座らせ、抱き寄せた。
「先生、これが答えじゃないですか?こんなに怖がらせてどうやって助けるんですか?もう華には近づかないでください」
「子供には分からないんだよ。さぁ、どいてくれるかな。僕は華さんと話をしているんだ。華さん、急に抱きしめてしまって申し訳ない。もうあなたの怖がる事はしないと誓う。だから僕の所へおいで」
そう言って先生は華に手を伸ばした。
「近づくなって言ってんだよ」
俺は先生を睨みつけた。
「な、なんだよ。高校生の分際で。」
「華は俺の彼女なんだよ。これが先生とかカウンセラーになろうって奴がする事かよ。お前が言う『子供』の気持ちが分からないなら先生もカウンセラーも辞めろ。そして華に二度と近づくな。」
そう言うと俺は華を抱き抱え、その場を去った。
俺は何も言わずに保健室まで華を連れて行った。
華も喋らず、黙って俺にしがみついていた。




