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負けない。

ご覧いただきありがとうございます!


華のリハビリは続いていて、湊人も頑張っています。でも…辛くなる時もあるようです。

『今日は久しぶりに外に出てみたよ!外の空気って気持ちいいんだね。今まで気が付かなかった。あと2日で会えるね。早く会いたいなあ〜!華』


俺たちは会えない分、毎日メールのやり取りをしていた。


どんな内容でも返信がくるだけで嬉しかった。


華が塞ぎ込まず前を向いてくれているだけで、本当に嬉しかった。


『華、好きだよ。おやすみ。湊人』


俺は必ず最後のメールは好きだと送る事に決めている。


世界中の人が敵になっても俺だけは味方でいると、華に誓うように。


俺自身にも気を抜くなと喝を入れるように。



ーーーーー


「こんにちは〜!」


華の家に来た。


リハビリの為に来るのは3回目だ。


「湊人〜!待ってたよ〜。」


華が出迎えてくれた。


だいぶ近距離も慣れてきたようだ。


少し離れてなら隣に座る事もできる。


「今日は何する?」


「今ね、クレープ作ってたの!一緒に食べよう」


「まじか!めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」


俺はワクワクしながらリビングへ行った。


甘い香りがリビングに広がっている。


「湊人くん、いらっしゃい!ゆっくりしていってね!華。お母さん、買い忘れたものがあるからスーパーに行ってきていいかしら?」


「うん。いいよ!いってらっしゃい」


「華、今日お父さんは?」


「今日は会社だよ!なんかトラブルがあってしばらく泊り込みだって。大変だよね。」


「そうか…」


ということは。


久々の2人っきりだ。


俺は急に緊張してきた。


「湊人、トッピング何がいい?」


「あ、うん。イチゴジャムと生クリーム。生クリーム多めで!」


「そう言うと思ったっ」


華はそう言うと手際良くクレープを巻いてくれた。


「はい、どうぞ」


「さんきゅー!いただきまーす!」


「…うまっ!なんだこれ!」


うますぎる。


俺は口いっぱいに頬張る。


「ふふっ、湊人生クリーム付いてる!」


華が頬に付いた生クリームをティッシュで優しく拭き取ってくれた。


「…!華、今!」


「…震えなかった。湊人!私、今震えなかったよ…!」


華は信じられないというような顔をしている。


俺は華の頬に触れようと手を伸ばした。


すると、


ガタガタガタ…


華が急に震えだした。


「あ、れ…?どうして…今大丈夫だったのに…」


華の顔が絶望の顔に変わった。


「ご、ごめん!俺、一旦トイレ行ってくる!」


そう言うと俺はリビングを飛び出し、トイレに入った。


「…やっぱり、ダメか。」


期待してしまった分、ショックが大きい。


自然と涙が頬を伝う。


俺はいつ華に触れられるのだろう。


「…まだまだリハビリ始まったばっかじゃん。俺、何弱気になってんだよ…」


俺は自分の顔に思いっきりビンタを喰らわした。


「…よし。頑張れ、俺」


リビングに戻るとお母さんが帰ってきていた。


「あ、おかえりなさい!華、また少し克服したみたいですよ!」


「本当?!華、頑張ってるわね!」


お母さんが華を抱きしめる。


「…お母さん苦しいよ。でも、また震えちゃって…」


「あれは俺が悪い!ごめんな、不安にさせて。華は何も悪くないから心配すんな」


「…うん。」


「俺、そろそろ帰りますね。」


「湊人くん。夕食、よかったら一緒に食べない?」


「すみません。すごく嬉しいんですけど俺、夏休みの課題が溜まってて。そろそろやらないとまずいんで今日は帰ります」


「そうなのね。じゃあ、また来週待ってるわ」


「はい。お邪魔しました。華、またな」


「うん…」


華は何か言いたそうな顔をしていたが何も言わず玄関まで送ってくれた。


俺が靴を履いていると、華が後ろからギュッと抱きしめてきた。


「…華?」


ガタガタガタガタ


「…どうして…!大好きなのに、震えるの…」


華が泣いている。


「華、焦っちゃダメだ。焦っても何も良いことないから。俺はずっと華の事好きでいるから大丈夫だ。ゆっくり克服していこう」


俺は華に、自分自身にも言い聞かせるようにゆっくりと言った。


「…。ごめんね、湊人…。」


こんな時、触れられたら。


華を抱きしめてあげられたら。


俺には何もできない。


「じゃあ、帰るわ!また来週!」


俺は最高の笑顔を作り、華の家を後にした。




外は薄暗くなっていた。


俺は帰る気になれず、公園へ向かいブランコに座ってみた。


久しぶりだ。


ブランコを思いっきり漕ぐ。


何も考えられないように。


「…あんたは小学生か」


いつの間にか俺の前に美奈がいた。


「おま!なんでいるんだよ!」


「お母さんからお使い頼まれたからその帰り。公園通ったら全力でブランコ漕いでる高校生がいるから面白くて来てみたの」


「そ、そうか」


俺はブランコを漕ぐのをやめた。


俺が止まると美奈は俺の真っ正面に来た。


「…泣いてるの?」


「な、泣いてねぇ!」


「荒井さん関係?」


「お前には関係ないだろ…っ!…っ!?」


美奈が俺を抱きしめた。


「お、おい、やめろよ…!」


「湊人、私の好きな人教えてあげようか。湊人だよ。」


「…えっ?」


「私は湊人が辛そうな姿、見たくない。1人でなんでも抱え込まないで。湊人の周りにはたくさんの人がいるんだから。」


美奈の手が解かれ、美奈の顔が俺の目の前に来た。


「…なにキョトンとしてるのよ。」


「お、俺、美奈の気持ちには…」


「そんなの、分かってる。言いたかったから言っただけよ。だからあんまり気にしないで?じゃあ、私帰るから」


美奈は何事もなかったかのように帰っていった。




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