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誰のためでもないラブソング その2  作者: 満点花丸
第二幕:変化の時
17/25

サルでもわかる○○。

 あゆみに先に帰ることを告げ寮に戻り、早速ギターを手に取りあぁでもないこうでもないと考えては見たが、やはりどうもすぐに曲が生まれるほど簡単な話ではなかった。

 まずはどこから手を付けるか、俺はそれを知るためにある種の教本のようなものを手に取る必要があるらしい。

 翌日の放課後に図書室へ行き、誰が読むのかもわからないような作曲の本があるかどうか調べてみようと決め、俺はその日は眠りについた。

 朝、目が覚めても夢で曲が降ってくるなんていう奇跡的なことも起きず、月曜のけだるさを覚えながらも俺は学校へ向かう。

 授業を受け、休み時間にはあゆみや翠と適当に駄弁る。昼休みに冬菜を見かけたので声を掛けようとするも避けられてしまった、というのを除けば、いつも通りの学校のひと時が過ぎる。

クラスではやはり学園祭に向けた活動をし始めたので、俺はクラスの手伝いを何もできずに申し訳ない気持ちになりながらも図書室へ向かった。

 いつもなら図書室に行けば冬菜もいるのだろうが、今年の学園祭は冬菜も頑張って何かをしようとしているらしい。先日のアイスクリームの試食をさせられたときにも思ったのだが、積極的にクラスに関わろうとする姿勢が冬菜の中に生まれているのだろう。

 少し寂しい気持ちもあるが、それは間違いなくいいことだ。

 一方で沙由菜は学園祭の実行委員でもないのにクラスの学祭運営に関してちょこちょこと口を出してリーダーシップを発揮している。

 俺はそもそもうちのクラスが喫茶店をやること以外になにも知らない。沙由菜の計らいによって、当日に仕事を多めに振る条件で学祭ライブに向けた準備をさせてもらっている。

 本当に頭が上がらないが、どうやら俺のクラスメイトも時折楽しみにしている、と声をかけてくれるので仕事をしていないなどの文句も出ていないようであるのが救いであろう。

 俺は図書室にたどり着き、中に入ってすぐにあらゆる本棚を物色し始める。

 そもそも、そんな本が本当にあるのかも謎だが……。

 俺は探し始めてすぐに本棚の上に棚毎のジャンル分けが書かれていることに気付く。

 であれば、それは確実に音楽と書かれたジャンルのところにあるだろう。

 俺は本棚の上の方を注視して、音楽のコーナーを見つける。音楽のコーナーには楽譜が載っている古びた本や、楽器の教本、音楽に関わる偉人の伝記や歴史書などが置かれている。歴史書に至ってはかなり分厚い本で、こんなの誰が読むのだろうと少し疑問に思いつつ俺は作曲に関する本を見つけ出した。

「サルでもわかる作曲のすすめ、ってなんか馬鹿にされている気がするな」

 これでわからなかったら作曲に関してはサル以下、ということになってしまうぞ……。

 まぁ、それ自体はどうでもいいのだが。

 俺はその本をひとまず広げ、俺の知りたいことが書いてあるのかを確かめてみる。

 目次だけを見れば、俺が知っている範囲のことは書かれていそうな気がするが、読んでみてもいいだろう。

「そーちゃん、学祭の準備は今日もおサボりですかー」

 といきなり耳元にくすぐったい吐息と共に声が聞こえてくる。

「うひゃぁう」

 俺は変な声をあげ、本を滑り落としてしまう。

 だれだ。いや、だがこんな行為をしてかつ俺のことをそーちゃんと呼ぶ奴なんてあいつだけしかいない。

「なんだ、佐藤……。いきなり耳元で息を吹きかけてくるな……」

 振り返るとやはり俺の思った通りの人物が立っている。

 少し気崩した制服、夏になり衣替えをしたサマーニットのベストも少し胸元の空いたブラウスのせいで清楚さのかけらもなく、少し短すぎる気もするスカートもこいつが俗に言うギャルであろうことは見ただけでわかる。

 これでいて学年一の秀才だっていうんだから、世間の先入観なんて当てにできるものではないと思える。

「どうしたの、図書室に一人で来るなんて珍しいね。また第二の冬菜でも探しに来たの?」

「なんだよ、第二の冬菜って。冬菜が二人も居たら俺は困る」

「ほら、冬菜が二人いたら、彼女の冬菜とそういうお友達の冬菜を一度に試せていい感じじゃん?」

 そういうお友達っていったい何のことだろうなぁ……。

 僕、全然わからないなぁ!

「とりあえず、お前は冬菜に一度謝った方がいいな」

「はは、それで? 何か探し物? えーっと、サルでもわかる作曲のすすめ……。ぶふっ」

 と、佐藤は俺の落とした本を拾い、タイトルを読み上げ、噴き出したように笑う。

「なんだ、佐藤、喧嘩売ってるのか?」

「ごめんごめん、あのソウマが今更作曲のすすめなんて読むんだって思ったらおかしくて」

「言っておくが、俺はちゃんと作曲をしたことはないぞ」

「へぇー、そうなんだ。それで新曲を作るために図書室で作曲の本読もうとしたの?」

 そうだ。

 俺はうなずいてそう答える。

 そうすると佐藤は余計にニヤニヤしながら俺を見てくる。

「そーちゃんはなんて言うか、あれだよね、可愛いよね。そういうところ」

 少しおちょくってくるかのように佐藤はクスクスと笑う。

「それは意味がわからんが、色々あって、学祭のライブまでに曲を作らなきゃならなくなってな」

「ふーん、そっか」

 俺がここにいるのはそれ以上でもそれ以下でもない。逆に佐藤が今なんで図書室にいるか、なんていうのは聞かずとも俺にはわかるのだが、そういえばこいつこの前まで体調崩して休んでたのに、早速勉強をしはじめるなんて本当にストイックだな。

「お前こそ俺のことなんてどうでもよくて、体調大丈夫なのか?」

「それは全く問題なし。沙由菜と冬菜が騒ぎすぎなんだよ」

「たまには勉強も休んでゆっくりしてればいいのに、今日も精が出るな」

「はは、そうしてもいいんだけど、普段やっていることが出来ないと不安になるじゃん、やっぱり」

「そういうもんか?」

「そういうもんだよ。じゃあ、私もそーちゃんいじりを楽しんだし、自分のやるべきことをやりますかね」

 と佐藤は自分のやりたいことだけをやって、さっさと図書室の個人ブースの方へ行ってしまう。

 俺にとってはもはやなんで絡んできたのだろう状態だ……。

 俺は気を取り直して、サルでもわかるという本を読もうと図書室の共用の机の一席に座りこみ、本を広げ始める。

 しかし、その本にはそこまで俺にとって有益な情報が書いているわけではなかった。本当に智也が曲を作るところに一緒にいて知ったことがざっくりと書かれているだけであった。

 宛てが外れてしまったわけだが、例えばコード進行には様々な王道なコード進行があるとか、作曲をするうえでDTMソフトを使った方がよいということはわかった。

 その後、図書室を後にして、俺は裕也に明後日から練習も兼ねて集ろうという誘いとパソコンを使わせてもらえるようにお願いをする旨のメールを送った。

 俺はそのまま特にもう学校にも用事がないので、帰ろうと歩き始めようとすると、

「あれ、そーちゃんもう帰っちゃうの?」

 と佐藤の声が聞こえてくる。

 佐藤はどこからか歩いてきたのか廊下を歩いていた。

 いったいどこをほっつき歩いていたのだか。もしかして、勉強をしているというのは嘘で、どこかで淫行を?!

「お前こそ、勉強してたんじゃないのか?」

「いや、普通にトイレだけど」

「そうか」

 真面目に何言ってんだこいつみたいな顔で佐藤は俺を見てくるが、

「それで? もう読み終わったの?」

 と聞いてくる。

 やけに今日は佐藤が絡んでくるな……。いったいなんだ。

「そうだなぁ、特に有益なことは書いてなかったし」

 俺はそう思いつつも、佐藤の質問に対して答える。

「ふーん。作曲はできそうなの?」

「正直わからんな、結局、なんとなく俺が知っているようなことしか書いてなかったから」

「そう。もし、なんか困ったことあったら私も力になるよ」

 と佐藤は突然提案してくる。

 なぜ佐藤がそんな提案をしてくるのかもよくわからないが、これは俺が一人でやらなきゃ意味がないだろう。だが、その好意自体は受け取っておくことにしよう。

「ありがとうな、でも、今回は一人でやってみようと思う」

「そっか……。じゃあ、ファイトだね! 私も楽しみにしてるよ」

 といって、佐藤は図書室の中へ再び入っていく。

 応援してくれるのは素直にありがたい。よし、続きは家に帰ってやろう……。

 俺は気合を入れなおして、改めて寮へと帰る方へ足を向けた。

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