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誰のためでもないラブソング その2  作者: 満点花丸
第二幕:変化の時
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やるべきこと。

 俺が頭を抱えていると、俺の背中をちょんちょんと突かれるのに気づく。

 振り返ると、そこには沙由菜が立っていた。

「そんなところで立ってたら邪魔よ……? ほら、こっちにおいで、そーま」

 沙由菜はこっち、と店の入り口の方を指し、店を出る。俺もそれに付き従い、一度店の外に出た。

「私、これからチラシ配りしに行くから少しだけ。内緒ね?」

「なんだよ、沙由菜」

「いや、見てたから」

 という一言で俺らの一部始終をしっかり見ていたことを完全に察する。

 そして、俺はメイド喫茶の入り口を塞がないように少しよけてしゃがみ込み、情けなくも内心を吐露してしまう。

「あぁぁ、冬菜がいきなり冷たくなったんだけど、俺なんかしたのか。いや、なんかはしたけど、そんな素振り見せてなかったのに……」

「なんかした、ってところが少し気になるんですけど……? まぁ、いいわ。昨日の件、冬菜に電話して話したんだよね」

 昨日の件と聞いて、少しだけ心臓が弾んでしまう。沙由菜の昨日の件というのは、小春と付き合える可能性があるうんたらかんたらの話か?

 俺になにも相談もなく勝手に言ったところは置いておくが、もしそうなのだとしたら冬菜も何かしら俺に思うところがある、ということだろうか。

「それでなんでそうなるんだ……」

「うーん、冬菜のためにも言わない方がいいんだろうけど、冬菜の名誉のためとあんたがそうしているのも情けなさすぎて見てられないから、少しだけ教えてあげる。冬菜は別にあんたのことを怒ってるわけじゃないし、初めてのバイトだから少し緊張してるのよ。ああして冷たく振舞った理由は他にもあるんだけど……。とにかく、そこは冬菜の気持ちを察してあげて?」

 察してと言われてもなぁ……。だが、沙由菜が冬菜のフォローに走ったってことは、先ほどのやり取りの中に何かそうしなければいけない理由があった、ということだろう。

それだけは頭に入れておく。

「でも、やっぱりあれだけ冷たくされるとなんか傷つくな……」

「それは私が謝っておくわ。冬菜も人付き合いになれてるわけじゃないし、ちょっと気を張って不器用になっちゃってるだけだと思うんだよね」

「それは確かにそうなのかもな。……他にどんな理由があってそうするのかは俺には推し量れないからとりあえずそれで納得しておく。それにしても、沙由菜はちゃんとお姉ちゃんやってるんだな」

 と俺は沙由菜の方を見上げて、苦笑いを浮かべてそういった。

 沙由菜は少しだけほほを赤らめ、

「そりゃそうよ……。今までずっとお姉ちゃんらしいことしてあげられなかったわけだし。いいでしょ、それくらい」

 と言いながら、そっぽを向いて俺からの目線を外す。

「別に茶化してるわけじゃないさ。俺は普通に感心してる。それにお前のそういう誰にでも優しいところ、俺は大好きだぞ」

「んな?! そんな恥ずかしいこといきなり言わないでよ!」

 沙由菜は俺の一言に本気で照れているらしく、耳まで顔を赤くする。

 これ、佐藤にこのシーンを見られたら逆に怒られそうだな……。付き合う気ないなら、そういういらない期待を持たせるなんて残酷だ、とかなんとか。

 付き合う気がないわけではなく、沙由菜とそういう関係になる自分を想像できていない、というのが正しいのだろうか。

 確かに、沙由菜は心優しくも厳しさもあるし、何度も助けてくれた。沙由菜と一緒にいるのは居心地もいいし、楽しい。

 きっと、恋人になっても、それは間違いなく続いていく。今現在において、もし、恋人が欲しいと思っていたとしたら、間違いなく付き合うと思う。

 いや、それ自体失礼な気もするが。その後、恋人になった後のことが全く想像出来ない。カップルだからこそ行われるあれやこれやのスキンシップなんかも想像を絶する。

 やはり、俺が沙由菜とだから付き合いたいと思っていないのであれば、俺は沙由菜の気持ちに答えてはいけないと思う。

 もし、沙由菜がどこかのタイミングで本当に意を決してこの関係に止めを刺しに来たとしたら、俺はどうなってしまうのだろうか、それもまったく予想もつかない。本気で沙由菜に好きと言われたとき、俺は普通にいいよ、と言ってしまいそうな気もする。

 まったく、自分自身の主張が右往左往しすぎて、ブレブレだ。

「そーま?」

「あ、いや。なんでもない」

 と俺は気付いたら項垂れたように顔を下げてしまっていたので顔を上げると、沙由菜もしゃがみ込み、同じ目線で俺の目を見ていた。

「うぉ?!」

 と驚いて少しのけぞる。

 基本的に丸みを帯びた、だけど目尻の方は少しだけ吊り上がっていて、大きくくっきりとした二重まぶたの目。すっと通った鼻筋。触ると柔らかそうなみずみずしさを感じる唇。どれをとっても沙由菜の外見は可愛い。それもそんな心配そうな表情でこんなに近くで見つめられると、ドキドキもしてしまう。

 だが、なぜだろう、小春を好きだと感じたときのあの感覚は不思議と沙由菜には感じることがない。

 俺の沙由菜への好きという感情は恋愛の感情ではなく親愛の感情であろう、と思えてしまうのは小春への恋があったからこそかもしれない。そのときの感覚が今どこにもないことを思うと、俺は誰にも恋をしていないのだと感じてしまうのだろう。

 逆に言えば、沙由菜と試しに付き合ってみる、という卑怯な手を使ってみたら、その感覚の正体もつかめるのかもしれない。

 付き合ってみたら、俺の親愛だと思っていた感情も実は恋愛感情によるものであったと気付くかもしれない。

 別に告白されたわけでもないのに、いったいなぜ俺は沙由菜と付き合う体で考えているんだと気付いたのは沙由菜の、

「そんなあほ面で人のこと見つめないでくれる?」

 という一言のおかげであった。

 沙由菜は心配そうな顔をしていたにも関わらず、気付いたらじとーっと変な物でも見るような目で俺を見ている。

 くそう、以前、佐藤に言われなくてもなんとなく沙由菜が俺に対して恋愛感情を抱いているであろうことはなんとなく察していた。だが、佐藤がもはやそれを言及してしまったからこそ、俺は余計に沙由菜との関係を考えてドギマギしてしまう結果になっている。

 というか、自分で言った発言のせいで余計な事を考えるなんて、俺は馬鹿なのか。

 とにかく、今は沙由菜から告白でもされない限りはこのことは考えないでおく、そう結論付ければいい話だ。

 言われてもいないのにこんなことを考えているなんて、本能的には恋に落ちていなかったとしても、理性的には俺が沙由菜と付き合う理由を探しているみたい、だぞ……?

 それを意識した途端に、俺の体温は心臓の鼓動が早くなるにつれ少し上昇しているように感じる。

 俺の左脳は沙由菜と付き合いたい、そう思っているのか?

「ちょっと、そーま、さっきからどうしたの? どこか具合でも悪くなった?」

「……わからん。左脳が悲鳴を上げている」

「なにそれ、意味わからない……」

「わからなくてもいいんだ、気にするな……」

「せっかく人が心配してるのに、そういうこと言うの?」

 と沙由菜は不服そうな顔をしている。それは確かにその通りだ……。

 いや、はぐらかしているわけではなく、本当に俺の左脳が悲鳴を上げている気がしてならないのだが、それを伝える術がない。

 もし、ここで俺の考えていること全てをさらけ出したら、それは暗に沙由菜と付き合う意思がどこかに存在していると言っているようなものだ。

 結論も出ていない話をして、無駄に期待させたり誤解させたりする方がどうかしている。

「ちょっと考え事をしてて、今頭がパンクしそうだってことだ」

「……人に変な事を言ったと思ったら、なんでいきなり考え事し始めてるのよ、って言おうと思ったけど、まぁ、あんたもいろいろあるわけだしね。私もう行くわ。曲作り今日からやるんでしょ? 頑張ってね」

 と、俺の考え事をはき違えた沙由菜は立ち上がる。沙由菜は俺が沙由菜と付き合うことに関して考えていたと知ったらどうするんだろう、と思いながら、

「はは、言ってるじゃねーか」

 と突っ込む。

 しかし、俺がそう突っ込んだときには沙由菜は特にそれに対して何も返答もせずにチラシ配りをしにいってしまった。

 今は沙由菜のことで頭が完全に支配されてしまったが、沙由菜がはき違えたように俺はバンドのことを考えるべきなのだ。本当にここに来ると悪い意味でペースを狂わされてしまう。 

 意味深に思っていた沙由菜の昨日の発言も、先ほどの対応を見ている限り、そこまで大きく懸念する必要はないだろう。

 だから、沙由菜のことも冬菜のこともいったんは全部置いておく。とにかく、作曲について考える、それが今の俺がやるべきことだ。

「帰ろう……」

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