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誰のためでもないラブソング その2  作者: 満点花丸
第二幕:変化の時
14/25

ぎこぎこブランコ。

 テレビ電話を終え、俺たちは少しの間放心し、何をすればよいのか考えあぐねていると、大五郎が先に帰って練習すると言い放ち、あの場は解散となった。

 大五郎の判断が一番早く、一番正確であったろう。少なくとも、できるかできないかの新曲は置いておいて、もし学園祭ライブをすることになれば、これまでの曲も完ぺきにあの当時のクオリティで演奏しなければならない。裕也も、もう少しくつろぎたかったけど、と言い残し大五郎と共に家を後にした。

 家には小春と沙由菜、そして俺だけが取り残された。

「そーま、そういえば私たちご飯食べてないけど、どうする?」

「そうだったな……。小春は飯食べたよな?」

「あ、私も食べてないよ。授業終わって急いで帰ってきてだったから」

 俺たちの学校では授業があった様に、小春の学校も同様に授業があったらしい。

 そう思うと、やはりわざわざバス停まで迎えに来させてしまったことが余計に申し訳なく感じる。

「あぁ、それは悪かったな。どうする、どこかに食べに行くか? うちには確実に食材と言える食材はないし」

 俺がそう提案すると、小春はうーんとうなりながら思案している姿が見える。

「これからお買い物しに行くのも遅くなっちゃいそうだし、あ、そうだ、家に食べにくる? お父さんの晩御飯も一緒に作れば無駄がない気がするよ」

 小春の提案はかなり合理的だろう。出前を取るとか、どこかに食べにいくのも早いだろうが、小春は晩御飯を作らなければならないと考えると、物のついでであろう。

 俺はまったく問題がない。

「そうね、私はお父さん帰ってくるまで家に入れないから、時間はまだたくさんあるし」

 沙由菜が小春の意見に賛同したことで、俺たちは小春の家に行くことになった。

 この間小春が言っていた通り、おじさんに顔を見せるくらいはしておいてあげたいし、確かにちょうどいい。

「じゃあ、決まりだね」

 俺たちの昼飯の行方は決まり、俺たちは小春の家を目指すことになった。

 沙由菜は荷物をうちに置いていくといい、手ぶらで家の外に出る。この間に母親が帰ってきて、この女物の数々は何? と聞いてくるかもしれない、なんて懸念はないため、特に何も言わず了承した。

 家を出て、小春の家に向かう途中も小春と沙由菜は俺のことなど無視して、ガールズトークに夢中になっているのが聞こえてくる。

「そういえば、この間一緒にいた子って、沙由菜ちゃんの妹さんなんだよね? すごく似てたよね」

「あ、うん。私たち、双子の姉妹なんだよねー。あの時は私たちから突っかかっちゃってたけど、冬菜もすごくいい子だから、もし今度会うことがあったら仲良くしてあげてほしいなぁ」

「うん、わかったよー。冬菜ちゃんね、絶対に忘れないでおくよ」

 俺は少し後ろにいる二人の方へ振り返ると、沙由菜も楽しそうに笑っている。

 初めて会った時は少し険悪なムードもあったが、どうにも二人は気が合うらしく……、というか、小春が合わせるのがめちゃくちゃ上手なんだろうが。沙由菜にとっても佐藤や小日向とは別の仲の良い友達になれそうな雰囲気を醸し出している。

 二人は俺のわかるような話も、まったくわからない化粧品の話だとか、服の話をしながら和気あいあいとしている、

 この光景は俺にもまったく予想だにしていなかったわけだし、初めから沙由菜に無駄な心配なんてさせずに一緒に来ることを肯定していればよかった、と思いながら俺は居心地のよい雰囲気を楽しむ。

「それで? 壮馬君はこんなかわいい子たちをどうやって手懐けたのかなー?」

 ともうすぐ小春の家も近いあたりになってきて、小春は突然ぶっこんだような質問を俺に投げかけてくる。

「手懐けるとは聞き捨てならないな」

「むしろ、そーまが私たちに手懐けられてるもんね?」

 と沙由菜は得意げに俺の方をニヤニヤとみてくる。

 確かに沙由菜が傷心の俺をかまってくれたからこそ、立ち直るのも早かったし、冬菜と出会っていなければ、俺は今こうしてはいなかっただろうことを考えると、手懐けたというより、手懐けられたという方が正しいのかもしれない、どうだろうか。

「否定をするのも面倒くさいから、勝手に言っておいてくれ、沙由菜」

 小春は俺らの様子を見て小さく笑う。

「何か可笑しいことだったか、小春?」

「ううん、なんだか、二人とも仲良いなぁって思って」

 今のやり取りでなぜそう思えたのか不思議でならないが、仲がいいこと自体は間違いないので、俺は特に何も突っ込まずそのまま、そうか、とだけ答えた。

そうこうしているうちに、俺たちは小春の家の目の前までたどり着いていた。

「あ、私ここ来たことある……」

 と沙由菜が明石商店の外観を見て、何かを思い出したかのようにそうつぶやく。

 まぁ、駄菓子屋さんだしな。小さいときにこの辺に住んでいたら来た事もあるのかもしれない。ちなみに、俺はなかったが。

「小春ちゃんの家って駄菓子屋さんだったんだね」

「うん、そうだよー。おうちの入り口こっちだから、ついてきてー」

 と小春は店の入り口ではなく、その裏手にある家の入り口の方に来るように促す。

「小春、俺はおじさんと話してくる」

「わかったー。準備しておくからゆっくりお話ししてていいからね」

 という小春の返事を聞き、俺は小春たちについていかず、店の中に入っていく。

 そうすると、会計の奥で暇そうに座っているおじさんが見える。

「らっしゃい。って、坊主か。久しぶりじゃねぇか」

 客が店に入ってきたと思いきや、俺であることに気付いたおじさんはそういう。

「久しぶり、おじさん」

「おじさんじゃなく、父ちゃんと呼べといつもいってるだろ」

「あんた、俺の父ちゃんじゃないし。おじさんで十分だろ」

 相変わらずこの人は本当に変なおじさんだ、まったく。

 そのとき、裏手から入った小春がレジ奥から顔を出し、

「お父さん、壮馬君とお友達連れてきたからね」

 とおじさんに報告するが、小春の姿を見たおじさんは甘えたように、

「こはるー、壮馬がまたわしのこと虐めるんだぞ……」

 と小春に助けを求める。大人だからこそまったく成長が見られないな、この人も。いや、上から目線な感じで思ってしまうが、本当にあの当時のままだ。

「おじさんは本当に変わらないね」

「そうだろう、あの当時のままイケているだろう?」

「うん、そこは同意しないけど」

「こはるー」

 うん、それももういい……。

「冗談は置いておいて、坊主はずいぶんしっかりとした顔つきになったじゃねぇか。昔のあのヘナヘナしたガキがどこへ行ったのやらって感じだぞ」

「ヘナヘナしたってよくわからないけど、まぁ、おかげさまで色々あったからね。そういえば、おじさん俺、バンドメンバー以外にもたくさん友達できたわ」

「そいつは結構結構。まぁ、なんだ。今日みたいにいつでも遊びにこい。小春も寂しそうにしてるぞ」

「たまには顔を出してもいいかなとも思うけど、小春が寂しそうは嘘でしょ?」

 何を隠そうこの家に顔を出さなくなったのは俺が小春にふられたからこうなってるわけで、小春が寂しがるなんてことはないだろう、普通に。いや、まぁ、3人での生活に慣れたら寂しくもなるのかもしれないが。

「ふむ、まぁいい。今日はどうするんだ? 家に泊まっていくか?」

「いや、さすがに今日は実家に泊まるよ。やることもできたし、明日の朝にはもう出ようと思う」

「そうか、わかった」

 どうせ客も頻繁にはやってこないのだが、そろそろ仕事の邪魔をするのはやめて、俺も小春の家に上がることにする。

 それから、俺と沙由菜は小春のお手製肉じゃがとチャーハンをいただき、満腹になったところで沙由菜がまだ小春と話したいというので、しばらく久しぶりに小春の家を堪能した。

 その中でも、俺と小春が初めて会った時のことなど、色々なことを沙由菜に根掘り葉掘り聞かれたが、話して気まずくならないようなところを除いて、結構に思い出話を語った。

 空の色も青から朱に移り変わる頃には俺たちも小春の家をお暇することにし、この日は小春と別れた。

 そして、家に帰宅し沙由菜は自分の荷物を持ち出すと、家の前にある公園で遊ぼうと沙由菜が言い始めたので、仕方なく付き合ってやることにした。

 沙由菜は一目散にブランコに向かい、そのブランコを思い切り漕ぎ始める。

 ブランコの鎖はたびたび替えられているのか、それとも最近新しく変えたのか、錆一つなくきれいだ。

 俺はその沙由菜を見ながら、

「あんまり思いっきり漕ぐとパンツ見えるぞ」

 と突っ込む。下にショートパンツを履いているから絶対見えないだろうが。

「パンツじゃないから恥ずかしくないもーん。そーまのえっち。それともそーま私のパンツみたいのー?」

「なんだ、柄にもなく佐藤みたいなこと言い始めるな」

「先にパンツ見せろって言ってきたのはそーまじゃん」

「パンツ見せろとは言ってない」

 沙由菜は声を上げて笑いながら、さらにブランコを漕ぐ。

「そういえば、そーまがなんで僕から俺って言い始めるようになったかの話聞いたとき、すっごいそーま可愛いなぁって思っちゃった」

 俺もこのまま暇を持て余しても仕方がないので、隣のブランコに座る。漕ぎはしないぞ。絶対にだ。

「可愛いなんて言われてもまったくうれしくないがな」

「なんで? いいじゃん、褒めてるんだよ。そーまにもそういう可愛いところあるのねって」

 逆に茶化されているようで恥ずかしいのだ。

 俺は恥ずかしさを払しょくするために、ブランコを漕ぎ始める。

「もうこの口調も板についてきたから何とも思わないけど、そのエピソード自体は半分黒歴史だ、ふれてくれるな」

「えー、仕方ないなぁ。じゃあ、もう一つ。今度は普通にさっきまで小春ちゃんと一緒にいて思ったこと聞いていい?」

 沙由菜はその質問をしてすぐに一度ブランコを足で止める。

 少しまじめな話なのだろうか、俺も一度動いては見たがすぐにブランコを止め、

「なんだ?」

 とその質問をしてもよい、と合図を出す。

「そーまさ、小春ちゃんにもう未練がないって正直のところ、どのくらいまで本当?」

 ……ふむ。

「久しぶりに会って消えかけた思いがぶり返したとか、よくあると思うんだよね」

 どう答えてよい物だろうか。俺はもう小春に対して未練はない、そう思ってる。だが、やはり実際に小春に相対してみると、あの時の感情を思い出しそうにはなる、気がする。

 自分の気持ちすら自分でもよくわからない。

「正直、俺も分からん。例えば、今すぐ付き合えって言われたら断ると思う。だけど、全く未練がきれいさっぱり消えてなくなったかって言われたら嘘な気もする」

「まぁ、そんなもんかぁ」

 沙由菜はそういうと、ブランコの腰を掛ける部分に足を乗せ、立ち漕ぎをし始める。

 どうしたのだろうと思っていると、沙由菜は思い切り勢いをつけて唐突にブランコから飛び降りた。

 危ないことをするな、まったく、と思ってみていると、

「そーま、そーまが小春ちゃんの気持ちにちゃんと寄り添ってあげたら、たぶん、そーまは小春ちゃんと付き合えると思うよ」

「なんだ、それ。なんでそんなことわかるんだ?」

 それに、お前はまだ俺に直接そういうことを言わないが、俺に抱いている感情もなんとなくは察しているんだ。俺には今はその答えがないから俺からそういうことを言わないが、沙由菜がそういうと、まるで沙由菜は俺とのことをもう考えていないように受け取れてしまう。

「女の勘よ。前にそーまがなんで小春にふられたかわからないって言ってたじゃん? 私も見ててわけわからなかったし。だから、きっとそーまと付き合えない事情があるのかもしれないって思っただけ」

 今更そんな可能性を示唆されても遅い。

 俺はすでに完全に未練を断ち切ったと思っているが、百歩譲って少しでも小春への未練があるのだとしても、小春と付き合う未来はもうないと思ってる。

「お前は俺と小春が付き合えばいいとか思ってるのか?」

「私は……。そーまが幸せなら、それでいいよ……」

 と、聞こえるか聞こえないかギリギリのか細い声で沙由菜はつぶやいた。

「さゆ、」

「あーあ、なんか昔よく遊んだ公園にいるとしんみりしちゃうわね! 私そろそろ帰るね!」

 沙由菜は俺の言葉を思い切りさえぎった挙句それだけを言い残して、荷物を担いでそそくさと帰って行ってしまう。

 俺の話もやはりちゃんと聞いてほしいもんだ。

 俺はブランコで小さくゆらゆら揺れながら、冬菜に思いを馳せてしまっていた。

 こんなとき、冬菜がいれば、俺の話を聞いてくれるんだがなぁ。

「はぁ、冬菜に会いたい……」

 俺はぼそりとつぶやいてみたが、心の奥底から恥ずかしくなる。

 いや、そういう意味を思って言ったわけじゃない。断じて、違う。冬菜に単純に沙由菜への文句を言いたかっただけだ。

 そのとき、俺のつぶやきを誰かが監視していた如くタイミングでスマートフォンが思い切り着信音を鳴り響かせる。

 そのタイミングの良さに俺の心臓が思い切り跳ね上がり、激しい動悸と共に一気に汗腺から汗を拭きださせる。

 俺は焦ってスマートフォンを取り出すが、焦りすぎて手を滑らせ、一度地面に落としてしまう。どれだけ焦ってるんだ、俺。冷静になれ、クールになれ。

 一度深呼吸をいれ、着信の相手を確認する。

 その相手は俺のこの動揺を敏感に察知できるワトソン野郎だ。もう一度、深呼吸を入れ、電話に出る。

「どうした、あゆみ」

「高峰! お前明日暇だろ、11時にふぉうちゅん集合な」

 がちゃん、つーつー。

 という音が俺の耳に届く。俺の話は一切聞かずに用件だけを伝えて電話を切るとは、なんてやつだ……。

 まぁ、でも、最近、あまりあゆみの相手をしていなかったし、少しくらいなら相手をしてやってもいいか……。

 俺はそう思いながら、ブランコをおり、自宅へと戻った。


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