表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰のためでもないラブソング その2  作者: 満点花丸
第二幕:変化の時
12/25

再会。

 目の前には相変わらずニコニコと笑顔を絶やさない小春の姿がある。

 俺は小春の連絡先を聞くのを忘れていたため、あらかじめ小春の家に電話をし、小春から連絡先を聞いておいた。そして、このくらいの時間にたどり着くであろうことを教えておいたのだが、まさか迎えに来ているなんて思いもよらなかった。

 小春の家は俺の実家から徒歩で10分近くは掛かる。同じ中学の校区内にはあるがそれなりには遠い。わざわざ歩いてこさせてしまったのに申し訳ない気持ちになってしまう。

 隣の沙由菜は小春の笑顔を見て少しだけ臆したように後ずさる。

「沙由菜、小春は普通に驚いてるだけだ、喧嘩は売るな」

 とこそっと沙由菜にそうつぶやくが、

「わかってるわよ、別にそんな嫌味言われたなんて全く思ってないわよ……」

 と沙由菜も小声でそう怒ってくる。

「こんにちは、小春ちゃん。この間は突っかかってごめんなさい。実は私の実家もこっちの方で、一緒に来ちゃいました」

「あ、私は気にしてないから、大丈夫だよ? 沙由菜ちゃんもこっちの方に住んでたんだー!どの辺に実家があるの?」

「えっと、私は中学校の近く、かな」

「そうなんだ! あれ、でも中学校で見かけた記憶ないような……」

「私、小学校の途中で転校したのよ、今の学校に中学から通ってるし」

「ほえー。でも、なんか地元が一緒って思うとすごく親近感湧くね! よろしく、沙由菜ちゃん」

 と小春は沙由菜に握手を求める。沙由菜も手を出されたからには拒否もできず、小春と握手を交わす。

 小春はすぐに雑談をし始めて行動が遅くなりがちなので、俺は急かすように、自宅へと向かう方向に動き出す。俺が歩き始めると、沙由菜も小春も後ろからあそこにあの店が出来たんだよ、とか和気あいあいとしながらついてくる。

「で、小春、どういう手筈になってる? 俺は一回家に帰って荷物を置いておきたいんだが」

「あ、それなら大ちゃんも裕くんも壮馬君の家に来てくれるって。広いおうちの方がくつろげてありがたいって裕くんが言ってたみたい」

 確かに裕也なら言いそうだ。裕也はさわやかだけどすごくマイペースで寝転がっている姿ばかり見る気がする。別に怠惰な奴ではないが、雰囲気的には少し小日向に似ているのかも、しれない。

 確かに、二人がこっちに来るっていうなら、小春が迎えに来てくれた理由にも納得がいく。

 だが、俺は気付く。

「智也は?」

「それはまた後で話すけど、トモくん今こっちにいないんだよ……」

 それはどういうことだろう。俺の懸念が当たってしまっているってことなのだろうか。

 とりあえず、あとで話すと言ってくれているので俺はそれを待つしかない。

 俺たちはバス停の目の前の建物の裏側にあるそれなりに大きな公園を突っ切って、俺の家へ最短ルートで向かっている。

 この公園は住宅にとりかこまれているが、テニスコートや結構に大きな原っぱがあり、その辺の小学生のたまり場になっているのだが、この公園を突っ切ってすぐのところに俺の家がある。

 例にもれなく俺はこの公園でよく沙由菜と遊んでいたのを覚えている。俺にとってはこの光景の記憶はそこまで古くはないが、沙由菜にとってはかなり懐かしい景色なのだろう、少し思い出に浸りながら沙由菜は懐かしんでいる。

「そーまそーま、あとで公園で遊ぼうよ」

 と沙由菜はえへへと笑いながらそういう。

「子供じゃないんだぞ……」

「いいじゃん、たまには!」

 まぁ、いいけどさ。

 とは口にせず、俺はとにかく歩く。といっても歩いて数分でついてしまうのだが。

 俺たちは公園の入った側とは対角線にある側の入り口から公園を出る。そして、出てすぐに俺の家が見える。

 白を基調としたよくある三角屋根の家。しかし、このあたりでは一番大きな家だ。

 そして、十数メートル先、家の前には遠目で見ても二人の姿が見える。

 大五郎と裕也だ。

 大五郎もまだ身長が伸びているのか、俺が少し背が伸びたくらいでは特にサイズダウンした感じがしないように見える。裕也は相変わらず肌白で少しひょろっとしている。こう遠くで見るとデカくてがっちりした大五郎とさわやかで細い裕也は凸凹コンビにも見えなくもない。

「大ちゃーん、裕くーん」

 と小春は二人に向かって大きな声で声をかけ、手を振る。

 それに気づいた二人も手を振り返すが、ふいに大五郎が突然走ってくる。

 え、なんだ、どうした。あれか、もしかしてまたあれか。

 初めて大五郎に出会ったとき、俺は大五郎に思い切り殴られた。俺が小春に手を出したことに勝手にされていて、ふざけるなと怒られながら殴られた。覚えてる、あの痛みは忘れない。

 俺は少し身構えて、再会した大五郎に殴られる覚悟を決める。

「そうまぁあああああああああああ」

 と野太く低い獣のようなうなり声を上げながら、大五郎は俺の顔面をなぐ、らない。

 どころか、俺に熱い抱擁をしてくる。

「壮馬! 元気そうじゃないか、久しぶりだな」

「大五郎、暑苦しいよ、やめてくれ……」

 と俺が大五郎のクマのごとく圧力を感じるハグを受けている最中、パシャりという音が聞こえてくる。

「って、おい沙由菜! 何写真撮ってるんだよ!!」

「ふへへ、そーまは知らないだろうけど、ふぉうちゅんにもひそかにあんたのファンって子がいるのよねぇ。しかも、その子すごい腐女子だから、その子に見せてあげるんだ☆」

 ……なんかこんな展開前もあった気がするぞ? BL需要がうんちゃらかんちゃら。そんなのあるのか、俺に。俺の恋愛対象は間違いなく女性だ。残念だな。

「沙由菜ちゃん、あとで私にもそれ、送っておいてほしいな、ふへへ」

「んー? もちろんいいわよー。連絡先も今交換しよっか」

 俺が話さないたったの数分でこいつらの仲は異常に深まっている。さすが、小春だ。やはり、心の距離を詰める天才らしい。

 そんな二人を後目に俺との再会を喜んではいてくれているらしい大五郎と共に、家の前にたどり着く。

「やぁ、壮馬、久しぶり」

「裕也も相変わらず爽やかだな」

「はっはっは、何を言ってるんだい。壮馬こそ今日も最高にクールじゃないか」

「うん、ちょっと意味わからない」

「相変わらず冷たい!」

 という、裕也のよくわからない絡みに俺らは二人して笑いあう。

 どうやら裕也も大丈夫そうだ。

 俺はこいつら全員を家に入れる前にひとまず誰もいないかをチェックするために一人家に入るが、やはり家には誰もいなかった。

 外で待たせていた4人を俺は、

「入ってもいいぞ」

 と促す。

 4人はそれぞれ個性を含んだお邪魔しますを誰もいない家に伝えて、家の中に入ってくる。

 大雑把な大五郎はくたくたになったスニーカーを履き捨てる様に脱ぎ、並べもせずそのまま家に上がる。

 裕也はきちんとした性格ではあるため、靴をそろえて脱ぎ入ってくるが神経質であるわけではないので靴の方向まで正さない。

 それを見た世話焼きな小春は、

「もー、大ちゃんも裕くんもちゃんとしなよー」

 と注意しつつもばらばらの大五郎のスニーカーを拾い、裕也の靴と共に家を出る方向に並べなおす。 

「こういうところって性格がもろに出るわよね」

 と沙由菜も小春に倣い、自分の靴を脱いだらすぐにきれいに整える。

 小春も人の世話を焼いた後に、サンダルを脱ぎ、家に上がるとすぐに並べなおす。

「大ちゃんは本当に昔から大雑把なんだよ……。ね?」

「まぁ、そうだなぁ。大雑把すぎるから、俺に対する嫌疑もしっかり検証せずに殴りかかってきたわけだし」

 それもまた、おおらかな性格で些細なことは気にしないのもいいところではあるのだが。

 件の二人は先に勝手に居間の方に向かっていた。こいつらは何度か家に来たことがあって、勝手もわかっているせいか全くためらいもない。

 俺たちもそれに従って、居間へ入ると、すでに裕也は両腕を頭の後ろで組み枕のようにし、足も組んで木の枝でも噛みしめながら日光浴を楽しんでいそうなスタイルでソファに寝転がっている。

「うーん、この質感、材質、座り心地も久しぶりだね」

「お前のそれは座り心地じゃなくて、寝心地だろ……」

 と本当にとんでもなくマイペースな裕也へ突っ込む。

 俺たちは二組あるソファのうち一組はすでに裕也に占領されているため、沙由菜と小春をソファに座らせ、俺と大五郎は床に座り込む。

「壮馬、ところでそっちの子は誰なんだ?」

 と大五郎は話しを始める前に沙由菜の存在に突っ込む。

 確かに、まだ紹介をしていなかったな。

「沙由菜、自分で自己紹介するか?」

「う、うん。そうする……」

 と沙由菜は若干緊張した面持ちで二人に相対する。

 自己紹介と聞いて、さすがにそこまで常識を無視するような人ではない裕也は起き上がって姿勢を正しているのが見える。

「えっと。明坂沙由菜です。そーまとは小学校で知り合って、高校に入って再会しました、いわゆる幼馴染ってやつだと思います……。あの、そしてみなさんのファンです!」

 そのファンです、ていう言葉は余計な気もするが。

 人によってはファンとの直接的な交流を避けるために、わざと遠ざける人だっているというのに……。

「そ、壮馬、なんでファンの子を連れてきたんだ、幼馴染だからって」

「いいじゃないか、大五郎。僕は裕也です。ドラムやってます☆ かわいい子なら大歓迎だよ」

 おい、馬鹿、沙由菜。何顔を赤くしているんだ。

 確かに裕也は細身で背も低くない。そして、なによりさわやかなイケメンだ。

 少し性格がナルシストの入ったマイペース変態なだけで、見た目はとてつもなくイケメンだが。

「おい、裕也。いきなりナンパし始めるな」

 と俺が裕也に突っ込むと、

「あぁ、壮馬のガールフレンド? それはごめんよ。そんなに睨まなくてもいいじゃないか」

 と返してくる。

 俺はにらんでいるつもりはない。裕也を見つめているだけだ。

「わ、っわわ、私がそーまのガールフレンド……、に見えるんだ……、ふふ。ふふ」

 一人ほくほくと満足げな沙由菜までそこにいる。

 もう、突っ込むのも面倒だし、どうせ沙由菜とメンバーたちが一緒にいるなんてこれが最初で最後だろうし、いいだろう。

「ふふ、沙由菜ちゃんはただの同級生、だもんね? じゃあ、壮馬君、自己紹介もほどほどにお話しを進めようよ」

 と小春が止めてくれたおかげで話すきっかけを得る。

 しかし、大五郎がクマのような存在感を醸し出しつつ、借りてきた猫のように小さく押し黙っている。

 まったく、こいつはしょうがない奴だ。

「大五郎と裕也に頼みがあってきたんだ。もちろん、智也がいれば尚よかったんだけど……」

 俺がそんな感じで話を始めようとすると、

「あぁ、そうそう。これ」

 といって、裕也はどこから出してきたのかカバンを手に取りその中からノートパソコンを取り出した。

「兄貴に連絡したら、ネットでテレビ電話つなげろってさ」

 なるほど。ここにいなくても直接目を見て話せるのはとてもよいことだ。

 裕也はソファ近くのテーブルの上にパソコンを広げ、電話が出来るようにセットをしてくれる。そして、PC上でチャットやテレビ電話のできるアプリを開き、智也に対して連絡を入れると、すぐに返事が来て、準備が整っているため、テレビ電話に切り替えた。

「よぉ、クソ野郎、元気だったか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ