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いとしのシンデレラ   作者: 四月猫
4/5

メデューサの瞳のように

シンデレラ計画は大成功、

でも成功の果実は苦い…苦すぎます。

シンデレラとの別れにミモザは耐えられるのか?


王子は次の曲も、その次の曲も、ずっとシンデレラとだけ踊り続けた。


「どこのご令嬢かしら?」

「あの美しさ、あの気品。ただ者ではないわね」

「きっと外国の姫君がお忍びで…」

みんな勝手なうわさをしている。


「あの人シンデレラに似てない?」

ステラの言葉を母が否定する。

「シンデレラのわけないだろう。

あの子が、あんな高そうなドレスをもっているわけがない」

「他人の空似よ」私も母に便乗した。


踊り疲れた王子とジンデレラは2人で中庭に行き、

しばらくして戻って来ると、また2人で踊り続けた。


控えの間で休んでいると、貿易商人の親娘が入ってきた。

貿易商人の妻は母を見ると

「あらここにいたのね!」と、

興奮した口調で話しかけてきた。


「私たち、さっきまで中庭にいたのよ。

そこに王子とあの青い服の娘がきて、

それで気づかれないよう、そっと様子をみていたのだけど」

隣のテーブルにいる母娘も聞き耳を立てている。

「王子はしきりに娘の名前を尋ねていたのよ。

でも娘ときたら笑って

『これはつかの間の夢、

名前を知られたら魔法がとけてしまいますの』

とかなんとか言って、はぐらかしているの。

ミステリアスな演出で男心をつかむなんて、

なかなかしたたかな小娘よ」


いつの間にか夜は更けて、

王子とシンデレラはまた中庭に行ったようだった。

12時過ぎた頃、王子は1人で戻ってきた。

それからの王子ときたら心ここにあらずという感じ、

王や王妃が話しかけても上の空で、ため息ばかりついていた。


あとでマダムから話を聞いた。

家人が出払った頃を見計らって、マダムはローゼと

工房代表(有志でくじをひいて決めた)の若いお針子を連れて、伯爵邸を訪ねた。

豪華な四頭立ての馬車で。

念のため前々日にお墓に

『みんなが寝入った頃迎えに行きます。

邪魔になりそうな人は酔い潰しておいてください』

というマダムの手紙と強い酒を置いておいたのだった。


シンデレラはこざっぱりとした格好で出迎えたという。

みんなが出払ったあと、急いて髪や手足を洗ったのだろう。

マダムは黒いドレスに黒いベールを胸まで覆っていた。

「訳あって名乗れませんが、

私はあなたのお祖母様にお世話になったものです。

あなたの窮状を知り、少しでも力になりたくて、

でも他人に知られたくないのであんな形で贈り物をしてきました」

シンデレラはとても感謝していますとお礼を言った。

「実は、急に遠くへ行くことになってしまって、

これが最後の贈り物になってしまいます。

まにあってよかった…」

青いドレスを見てシンデレラはあわてる。

「こんな高価なもの、いただけません!

ティアラも宝石も、貸していただけるだけで充分です」


ローゼとお針子で支度を手伝った。

「あなたの代わりに留守番していましょう。楽しんでらっしゃい。

ただ私は明日にはこの国を出なくてはなりません。

あまり時間がないので、12時には城を出るようにしてください」

「わかりました。12時ですね」


城から帰ってきたシンデレラは「少し待ってください」

と急いで着替えようとした。

もちろんマダムたちは待たずにさっさと引きあげた。


「本当にきれいだったわ…

ミモザが惚れこむのもわかるわ…」

マダムは思い出してうっとりとしている。

「あんなにぴったりフィットするとは、私の眼力も大したものだわ」

ローゼも満足そうだ。


私たちが城から帰ったのは夜中の2時を過ぎていた。

「おかえりなさい」

いつもの灰色のエプロンのシンデレラが出迎える。

「ほらね、あれがシンデレラのわけないだろう」

「あ~~コルセットを締めつけてなかったら、

もっといろいろ食べられたのに~~~~」

「さっさと着替え手伝いなさいよ!ほんとに気が利かないんだから!」


その夜は興奮してなかなか眠れなかった。

青いドレスで踊るシンデレラの姿が頭から消えない。

会場のみんなを魅了した私のシンデレラ!

だれよりも、だれよりも……


翌日は昼過ぎまで寝ていた。

しばらくして母とステラも起きてきたので一緒に遅いお昼を食べた。

「ねえ、昨日のあの人だけど、

今思うとゼンゼンたいしたことないよねえ。服がめだってただけで」

炒り卵をほうばりながらステラが言うと、母も

「そうだねえ、本当に目立ってたね。

それにしてもどこで仕立てたんだろう。

サロンへ行ったら聞いてみないと…」


夕方夕べの疲れもあってみんな居間でダラーとしていた。

シンデレラが渡そうとしたティーカップを、

ステラはわざと受け取りそこねる。

「すみません、すぐ代わりをお持ちします」

「ほんとうにドジなんだから!

ついでにその雑巾で、薄汚れた顔もふいたらあ?」


そこへ城から使いの馬車がきた。

「王がエレン嬢に会いたいと仰せゆえ、迎えに参った。

すぐ登城されたい」


招待状を見せて入ったのだから、覚えている人がいても不思議ではない。

受付の女官はプロフェッショナルで、一度会った人の顔と名は忘れないらしい。

『あの青いドレスのお嬢様でしたら、確か…エレン・R 嬢ですわ』


「エレン?? あ、シンデレ……いえ、

あ…あの子を城に? いったいどういうことで…」

わけがわからず、母はうろたえている。


どうやら王子がシンデレラをいたく気に入り、

彼女となら結婚してもいいと言ったようだ。

王もそれならば、会ってみようということらしい。


「何かの間違いですよ!

シン…あの子はずっと家で留守番してたんですから。

パーティなんか行ってません!

あの子に会えば人違いだってわかりますよ!

シンデレラ!シンデレラ!」


部屋に入ってきたシンデレラを見て、

私はなぜかいや~な予感がする。

使いの者は眉をしかめ、これはやっぱり人違いか…という顔をする。

それでもシンデレラに向かって、

王と王子が昨夜のパーティに出席した青い服のエレン・R嬢に

会いたがっていて、迎えにきたと告げる

「その…失礼ながらあの時の御本人だという証が…

あの時のドレスとかお持ちですかな」


「わかりました。しばらくお待ち願えますか?」


シンデレラが部屋を出て行ったあと、みんなしばらく無言だった。

母が突っ立ったままの使いの者に気づき、

「どうぞ座ってお待ちください」と勧め、

年配のメイドに飲み物を持って来させる。


どれくらい待ったか?

20分くらいだと思うが…待ってる間に私の不安は深まっていく。

やっとドアが開く。

「お待たせしました」

鮮やかな青いドレスに白いショールとバッグを

手にしたシンデレラが入ってくる。

髪は結い上げている時間はなかったらしく、

ひとふさづつ残して後ろでリボンでまとめている。

どんな髪型もよく似合う…まぶしいほど美しい。


使いの者はあわてて立ち上がり姿勢を正す。

母とステラは、ポカンと口をあけたままシンデレラを見ている。


「これでよろしいかしら?」

「はいっ!すぐ城にご案内します」

「それでは」と使いの者は母に一声かけて

シンデレラを伴って出て行く。


馬車の遠ざかる音がする。

玄関あたりで使用人たちがざわめいている。

母とステラはボーゼンとしたまま、

私はカラダ中の力が抜けてソファにへたりこんだ。

『……シンデレラを、王子に取られた……』


その日の夕飯はお通夜だった。

「なんでシンデレラが~~なんで~」

ステラは食べながらブツブツ言っていた。


こんなはずじゃなかった。

私はただ、美しいシンデレラをみんなに見てもらいたかっただけなのに…

王子は私にとってはシンデレラの引き立て役でしかなかった。

あれが花嫁選びのパーティだということは、

どうでもいいことだったのでほとんど意識していなかった。

真の美しさと魅力を最大限にひきだした…その結果がこれだ。

私は頑張り過ぎたんだ……


「ぜったい男がいる!」

翌朝朝食の席でステラがわめいた。

「あの服!男にみつがせたにきまってる!

インバイが!

証拠を見つけてやる!」

フォークをおいて勢いよく立ち上がり部屋を飛び出す。

「ステラ?」

母と私も後を追う。

狭い階段を登って、めったに行かない屋根裏部屋に行く。

部屋に踏み入ったとたん母が声を上げる。

「ま!なんなのこれはーいつの間に?」


殺風景な部屋の壁には、カラフルなパッチワークの布が飾られている。

ベッドカバーも質素な椅子に置かれたクッションも

同様のパッチワークだ。

鏡台のひび割れた鏡にはレースがかけられ、様々な化粧品が並んでいる。

部屋の隅で古い行李をあさっていたステラが

古着の間から布袋を取りだす。

「見て!銀貨よ。

やっぱり男がいるんだ。これが証拠よ!」

銀貨の総額からすると、

シンデレラはほとんど使ってなかったようだ…?


「王子はだまされてるのよ」

ステラの言葉に母もうなづく。

「おとなしい顔してとんだアバズレだ。すっかりだまされたよ」

「ね、王様たちが丸め込まれないうちに、

あいつの正体を教えてあげないと」

「そうだねえ」


今にも城に乗り込みそうな勢いの2人に、

私は少し理性を取り戻す。

「それはやめたほうがいいわ」


「え?」2人が一斉に私を見る。

「なんで止めるんだい、おまえはシンデレラの味方をするのかい?」

「そうじやなくて、2人とも

私たちがシンデレラにどんな仕打ちをしたか思い出して」

「どんなって……」

2人のトーンが下がっていく。


「シンデレラが私たちにいじめられていたと話したら、

王様たちはどう思うかしら」

「いじめなんて〜そりゃあちょっとはいじわるしたけれど…」

「躾をしただけだよ…」

2人とも自分たちの置かれている立場を理解したようだった。


「ヘタをしたらなんらかの処分があるかもしれない…

余計なことはせず大人しくしていたほうが

ぜったいにいいと思うの」


翌日、マダムとローゼに会いに行った。

「シンデレラ計画は大成功だったというのに、

うかない顔をしているわねえ」

と、マダムに心配される。

「成功し過ぎたんです……王子に取られるなんて、思ってもいなくて」


「あら、私はドレスアップした彼女を見て、

アリかもって思ってましたよ」とローゼが言う。

「だってほんとうに素敵でしたもの、ねえマダム」

「ええ、それに少し話しただけで、とてもしっかりした

気立てのいい娘さんだってわかつたわ。

内面から輝いているのね」


「シンデレラをほんとうに好きなら、彼女の幸せを祝福してあげなくては。

ベルナルド王子はあれでけっこう人気はあるし、無能ではないみたいよ。

結婚相手としては悪くないと思うわ」

ローゼがマダムの言葉につけたす。

「なんと言っても次期国王ですからね」


帰り際にマダムが言った。

「もし何かあったら、私たちが証言して上げるから、心配しないで。

あなたが陰でシンデレラを助けていたって」


2人になぐさめられて私は少し落ち着く。

『たとえ王子と結婚したって、シンデレラはシンデレラだ。

私のシンデレラであることに変わりはない…』

あの子が幸せになるのならそれにこしたことはない。

結婚、シンデレラが花嫁になる。花嫁…花嫁衣装!

私はベッドから飛び起きた。

ろうそくの明かりをつけ、画帳を開き、

ウェディングドレスのデザインを考える。


城に招かれていったシンデレラは5日目に帰ってきた。

先日の使いの者と、白いひげの偉そうな老紳士、それに侍女と護衛の兵士を連れて。


「おかえり、エレン。心配していたんだよ」

「おかえりなさい、エレン。

前のお部屋きれいにしてあるわよ」

シンデレラは2人の手の平返しを無視した。

「私はベルナルド王子と婚約しました。

今日から城に住みます。

もっていきたい私物が少しあるので取りに来ました」

そう淡々と言い放って、侍女を連れて階段を登って行く。


「コホン」と白ひげの老人が咳ばらいをする。

「R夫人に勅令を伝える」ほんとうに偉そうだ。


「まず、城とエレン嬢に近づくことを禁ずる」

シンデレラから話を聞いて王は怒り心頭、

「継子いじめにせいを出す性悪女は国の恥だ!

財産没収のうえ国外追放にしてくれる」

それを王子とシンデレラが必死にとりなして、接見禁止になったらしい。


白ひげの老人は兵士に重そうな木箱を持って来させる。

「それから、この屋敷はもともとエレン嬢のもの。

立て替えた伯爵の借金と屋敷の修繕費は倍にして返すゆえ、

1ヶ月以内に立ち退いてもらう」


「私の用はすみました」

シンデレラが部屋に入ってくる。

「こちらもちょうど終わったところです」

老人は先に部屋を出る。


シンデレラは母に向かってきっぱりと言い切る。

「お世話になりました。もう二度とお会いしません」


部屋を出て行こうとしたシンデレラは途中で立ち止まり、

壁際に画帳を持って突っ立ったままの私を見る。

初めて見る冷く激しい視線だった。

憎しみと軽蔑と哀れみの入り混じった…

メデューサの視線を浴びたように、私の心は一瞬で凍りついた。

「…笑いながら靴をかくされるほど

きらわれているとは知りませんでした」


シンデレラを乗せた馬車が遠ざかっていく。

「…ほんとうに恩知らずだよ、何様のつもりだ…」

母が苦虫を潰したような声を出す。

「なんでシンデレラが~~ズルイ~~」

ステラは半泣きで文句をいっている。


『笑いながら靴をかくすほど…』

靴を持っているところをだれかに見られたのだ!

気をつけていたつもりだったのに…

でも計画が順調に進んで、あの頃かなり浮かれていた気がする。

靴を手に満足げに微笑んだかもしれない。


画帳を持ったまま階段をのぼる。

屋根裏部屋の壁からパッチワークの布が消えていた。

手鏡や小箱や詩集、いくつかの小物も持っていったようだ。

銀貨の入った袋はそのままだった。

『そうか…シンデレラは、お金は贈り物ではなく、

ほどこしだと思ったんだ…」


「シンデレラ…」


誤解を解いても何にもならない。

私がシンデレラを深く傷つけた事実は消えない。

「こんなもの!」

バンと、画帳を床にたたきつける。

挟んであった紙が床に散る。

シンデレラが着ることのない、シンデレラのためのウェディングドレス…

私はベッドにつっぷして声をあげて泣いた。


こうして私はシンデレラを失った。

もう二度と会えない…

はあ〜やっとなんとかなりました。このままではミモザがかわいそうなので、

エピローグを用意しました。

乙女ファンタジー第一弾

少しでも気に入っていただけたらうれしいです。

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