理想の美少女が妹に!
たいてい意地悪な2人の姉で片付けられるシンデレラの姉たち。
本当にただ意地悪なだけなのか?
そうでないとしたらどんな事情があったのだろうといろいろ考えていたら、
こんな話ができました。
ほんの少し百合風味です。苦手な方は遠慮してください。
母が再婚した時、私ミモザは16才
妹のステラは14才
義理の妹のシンデレラ(エレン)は13才だつた。
母は女盛りの34才。
母の前夫は(あんなやつ★父親だなんて思っていない!)
莫大な遺産を残してくれたので母に求婚する殿方は何人もいた。
その中から再婚相手に
貧乏貴族のR伯爵を選んだ理由はすぐわかった。
だって本当に、ほんとうに、
何もかも前夫と正反対だったから。
前夫は手広く商売をする裏で
かはり悪どい金貸しをやっていた。
守銭奴とか金の亡者という言葉がぴったり。
おませにチビでデブで短足で、息が臭くて
金の力で若い娘を嫁にするような
とにかく最低のブ男…
それに比べて伯爵は…貴族のエレガンスっていうの?
見映えもいいし、すごく上品でおっとりしている。
「いいんじゃない?」
ひかえめに妹に言うと、
「うん!母さんやるー」と
妹も大歓迎のようだった。
伯爵は前妻の忘形見の娘のために
再婚相手を探していたらしい。
婚約が決まって家族揃って伯爵の屋敷に招かれた。
伯爵の屋敷は、町(王都)から少し離れた森のそばにあつた。
ものすごく古い建物で
あまり…かなり手入れがされてない。
庭も荒れている。
しかも使用人は年老いた夫婦2人だけ!
伯爵のそばに目の覚めるような美少女が立っていた。
「娘のエレンです」
スカートを軽くつまみ身をかがめて優雅にお辞儀をする。
「ようこそ、お会いできてうれしいです」
温かい紅茶にフルーツケーキ。
茶器はかなりの年代物だ。
「このケーキはエレンが昨日から頑張って作ったんですよ」と伯爵。
「とても美味しいわ」と母。
「お口にあってよかった…」
シンデレラはかすかに頬をピンクに染める。
ずっとにこやかだった母は
帰りの馬車の中で深いため息をついた。
「思っていた以上だね、住むとなったらかなり手を入れなきゃ」
「それにしても…」
眉をしかめて、母はトゲのある言葉を吐いた。
「あの子は相当甘やかされて育ったんだね。
貧乏なのに贅沢に染まって…ろくなもんじゃないよ」
「ホント、なまいきよねー
ビンボー貴族のくせに
お姫様みたいにきどっちゃって!」
母も妹もシンデレラ(エレン)が気に入らないようだ。
無理もない、私だって…
無邪気な甘ったれた笑顔にはイライラする!
それに、あの愛らしさは反則だ!
私の育った家は牢獄だった。
ドケチな母の前夫は贅沢を一切ゆるさなかつた。
外出や客が来る時以外は、
妻と娘に粗末な服を着せて、修道女のような生活を強いた。
私が物心ついた頃から彼は杖を手放せなかったが、
気に入らないことがあると、
すぐその杖を振り上げた。
家族にも使用人にも容赦なかった。
夫が死ぬと母はまず仕立て屋を呼び、
自分と娘たちの新しい服を何着も作った。
そして着古した灰色の服と杖をクズ屋に売り払った。
私はグラマラスで美人の母に似なかった。
母に似て背丈はあるが骨っぽくて、
顔もごつい。
母が言うには亡くなった母の父に似ているそうだ。
妹のステラは、生物学上の父親に似ていて
小柄で少し太っている。
そんな私たちをあいつは
出来損ないといってバカにした。
「ゴツゴツの大女に小豚ときたか!」
「こんなに不細工じゃ、嫁の貰い手などないだろう。
引っかかるのは金目当ての
どうしょうもないクズ男くらいだ」
あの男は
「息子が産めないだけでなく
出来損ないの不細工娘2人とは、
おまえも見掛け倒しの出来損ないだ」
と母も責めた。
好きでこんなゴツい顔や体に生まれたわけじゃない。
喪が開けると母は
私たちをいろんなところへ連れて行ってくれた。
服やアクセサリーの店、レストラン、劇場や音楽会、
知りあいのお茶会やパーティにも。
最初は色とりどりの新しいドレスに、
単純に喜んでいたけれど、
じきに残酷な事実に気がついた。
私はドレスが似合わないー
どんな高価なドレスも
私が着るとどこかちぐはぐで滑稽だ。
まだ妹の方が様になる………
シンデレラは私の理想の少女だった。
大きな青い瞳に愛らしい口元、豊かに波打つ金色の髪、
バランスのとれた肢体…
私が夢見た姿がそこにある。
嫉妬せずにはおれない。
あの姿を前にして、冷静でいられる自信がない…
でも我慢するしかないのだ。
母の幸せのために…
結婚して母は真っ先に屋敷の修理の手配をした。
そして新しく庭師と馬丁と下男を雇った。
1ヶ月後修理が終わって、私たちは伯爵邸に移り住んだ。
元の家からメイド2人とコックを連れて。
屋敷も庭もびっくりするほどきれいになっていた。
お化け屋敷の一歩手前から
由緒ある貴族の館にグレードアップ!
絨毯もカーテンも、照明も新しくなり、
見違えるほど明るくなった。
新しい生活はまあまあだった。
母も妹のステラも
シンデレラを快く思っていないことをおくびにも出さない。
もちろんこの私も。
母は私とステラに服を作るときは
必ずシンデレラにも新調した。
みんなでピクニックに行ったり、
一緒にお菓子を作ったり…
表面上はとても仲のよい家族だった。
伯爵はとてもとても満足そうだった。
居間で娘たちがダンスの練習をしていると、
伯爵がやってきて、娘たち一人一人と踊ってくれた。
「思い切り背筋を伸ばして」
「ステップをまちがっても
気にせず踊り続けるのがコツだよ」
伯爵が最初から父親だったら…
そう思うとよけいシンデレラがうらやましくて、
くやしくてたまらない。
それでもなんとかがまんできたのは
マダム・レノアに出会ったからだった。
母といったお茶会にその人はいた。
母の背を追い越してしまった私より、その人はさらに背が高かった。
それなのにふんいきがとても優雅で女らしくて
思わず見とれてしまった。
母よりはずっと年上のようだが
話し方や表情はどこか若々しい。
不思議な魅力を持っている。
以前の母と同じように裕福な未亡人だという。
伯爵のの知人の園遊会でまたその人を見かけた。
目が離せない。
『…元の体型は私のように、かなり骨ばっているみたいなのに…
どうしてあんなにふんいきが柔らかいの?」
観察していて気づく。
袖ぐりはかなり内側にとつてある。
骨ばった大きな手は袖口のレースのフリル がカバーしている 。
大げさでないギリギリのボリュームで。
その人が近づいて来る。
「R伯爵の上のお嬢さんね。
先日のお茶会でも
ずいぶん私のことを気にしてらしたようだけど?」
「すみません、マダム…」
私はぶしつけな視線をわびた。
「お召し物がとても素敵なので見とれてしまってー
私…自分がドレスが似合わないのは
背が高いからだと思っていたんです。
でも、そうじゃないとわかって…
それで着こなしのヒントでもつかめたらと…」
「まあ………」
マダムはしばらくわたしをみつめて
何か考えている風だった。
「あなたに見せたいものがあるわ。
明日私の家に招待したいのだけど」
翌日の午後、迎えの馬車に乗ってマダム・レノアの館を訪問した。
マダムの家は町のほぼ反対側にあった。
広い庭と緑の木々に囲まれた
白壁に青い屋根のきれいなお屋敷だった。
「いらっしゃい、待っていたのよ」
やわらかいグラスグリーンの
(これもとてもよく似合っている)
アフタヌーンドレスのマダムが笑顔で迎えてくれる。
マダムは玄関ホールを突っ切って中庭に出て
奥にある『はなれ』に私を案内した。
しゃれた母屋とは違って無駄のないがっしりした造りの
かなり大きな建物だった。
「マダム・レノアの工房へようこそ」
メイド服にしては高級な銀鼠色のシンプルなワンピースに
白いエプロンをつけた中年の女性が挨拶した。
「わたしがここの責任者のローゼです」
「いいわよローゼ、仕事に戻って。適当に見て回るから」
最初に案内された広い部屋は仕立て屋の仕事場のようだった。
何体ものマネキンに作業台、アイロン台…
年配の女性と3人の若いお針子が
黙々と仕事をしている。
奥のテーブルでは古いボンネットの老婦人がレースを編んでいる。
作業台の並んだ部屋では、帽子や靴を作っていた。
壁壁の棚にはヘッドや手形足形、
工具や素材の入ったかごやら箱やら壺やらが詰め込まれ、
床にも散らばり雑然としている。
機織り機や糸車のある部屋では、
腕まくりをした女性が床にモップをかけていた。
二階の休息室兼食堂では2人の女性がお茶を飲んでいて、
マダムにも勧める。
「今はいいわ」
事務室に応接室…
棚に布や大小の箱がびっしり並んだ部屋では
有能そうな女性がノートを片手にチェックをしている。
「奥がローゼの部屋だけど
彼女、仕事中はじゃまされるのを嫌うから」
裏庭は屋根のある作業場になっていて、
井戸のそばでは皮を舐めしたり、
洗濯カゴに山と積まれたエプロンを洗っている。
かまどの大鍋で
糸を煮ている女性もいる…
そろそろ声変わりかという少年が薪を運んでくる。
母屋に戻るとお茶の用意がされていた。
「ローゼをお茶に誘つても、
いつも忙しいからってことわられるのよ。
夕食も工房で適当に済ますことが多くて…」
マダムの話によると、ローゼは母屋に、
工房の半分ほどの人たちは近くのマダムの持ち家に
シェアして住んでいるそうだ。
「私、顔はしまりのない女顔なのに
体はこうでしょう?
昔は本当に着るものに苦労したのよ」
その苦労はよくわかる。
思わずうなずいてしまった。
「15年前にローゼに会って…
彼女の腕とセンスに惚れ込んで、
だめもとで専属になってくれないか
頼んでみたの。
そしたらあっさり『いいですよ』って」
ゆっくりお茶を飲みながらマダムは話を続ける。
「しばらくしてきいてみたのよ、
なぜ迷わず即答したのか。
そうしたら
『奥様に似合う服を作るというのは難しいけれど、
とてもやりがいのある仕事だと思ったからです』だって」
「彼女はチャレンジャーなのよ。
おまけにすごい凝り性で、
自分のイメージ通り完璧でないと気に入らないのね。
帽子や靴にもこだわりがあって
自分で職人を見つけてくるようになったの」
「すごいですね…」
『母屋にもふつうにメイドや使用人がいるみたいだし…
どれだけお金持ちなの、この人…』
「私の服を気に入った知人が
自分にも服を作ってくれないかきいてきたの。
ローゼが断るつもりで、めちゃくちやふっかけたのだけど
それでもかまわないって。
口コミで時々、そういう注文が来るので
維持費はなんとかなっているわ」
私はマダム・レノアのお茶会に週一、二回招かれるようになった。
マダムは気に入った人しか招かないので有名らしく、母は喜んだ。
「これといった殿方がいたらお近づきになるのよ」
「なんでミモザ姉様だけ?ズルイ~~ズルイ~~」
ステラはブーブー文句を言ったが
「マダムは背の高い女性にシンパシーを感じるみたいよ」
という私の言葉に、すぐ納得したみたいだった。
「そっか、大女クラブか…」
お茶会というのは表向きで、私は工房に入り浸った。
服ができていく過程を見るのは
とても新鮮で興味が尽きなかった。
工房で働いているのは、雑用係の少年以外は女性ばかりだ。
少したってからマダムに聞いて見た。
「なぜ女性ばかりなんです?」
「ローゼの趣味みたいね」
邪魔にならないよう隅で運針の練習をしながら、ブロの手さばきを見ていると
「よかったらお茶をしない?」と、
画帳を抱えたローゼが声をかけてきた。
休息室の窓際のテーブルはローゼのお気に入りの席らしい。
「あなたはマダムと違って、凛々しい美人顔だから
はっきりした大胆な服が似合うと思うのよね。
例えば…今着てるその服だけど…」
「襟を思い切って大きく…こんな感じに」
画帳を開いて絵に描いて説明してくれる。
「スカートの飾りも花は取ったほうがいいわ。
袖口もレースでなくカフスにして、胸の花飾りも取って黒いリボンにすれば
結構様になると思うの」
「カフスボタンとリボンをとめるプローチはガーネットがいいかも」
半信半疑ながらも服を改造して見ることにした。
恐る恐る居間へ行くと
「お姉様、そのドレスとてもステキ、すごく似合ってらっしゃる」
シンデレラが真っ先にほめる。
「えー?前にも着てたじゃない」
クッキーをかじりながらステラ。
「襟を変えたの?いいじゃない」と母。
少し変えただけなのに、印象はかわる。
たしかにこの方がすっきりして悪くない気がする。
姿見に映る自分を見ていて気づく。
私は老け顔なのだ。
だから子供の頃は全然可愛くなかったが、
いまは少しはマシになったと思う。
美人顔というのはローゼのお世辞だろうけど。
珍しく朝早く目が覚めて庭を散歩していると、
裏の森の方へ行こうとしているシンデレラを見かける。
「朝の散歩?」と声をかけると、
「え、ええ…」
シンデレラはおどろいて、あせっているみたいだった。
手に一本の白百合を持っている。
「あの…森の奥に亡くなったお母様のお墓があるの。
お母様の遺言で…お元気なときはよく森を散歩してらしたから…」
「ずっと毎日お墓詣りをしていて…
でも、今のお母様が知ったらいい気持ちはなさらないかと思って。
…内緒にしてもらえないかしら?」
「いいけど…」
「ありがとう、お姉さま」
レースの襟に青いりぼんの水色のワンピース、
髪を結んだリボンも青で憎らしいほど似合っている。
軽やかに森の小道に分け入っていくシンデレラを見送る。
あの子は何を着ても似合う。
私やマダムの苦労を知ることはない。
朝のさわやかな気分はふっとび、
どうしょうもなく沈んでいく…
でも暗い気分は、午後工房に行ったら吹き飛んだ。
ローゼに呼ばれて応接室へ行くと、マダムもソファに座っていた。
「前にあなたのデザイン画を見せてもらったでしょう」
そう言ってローゼはじぶんの画帳から一枚のデザイン画を取り出して
テーブルの上に置いた。
私はマダムの工房で仕立てや布の種類などいろいろ教わっていたが、
私が一番興味を持ったのはローゼのデザイン画だった。
画帳とクレヨンを買って、
見よう見まねで色々描いて見た。
フリルとリボンがいっぱいの花のようなピンクのドレス、
黄色いチョウのように軽やかなシフォンのドレス、
赤地に金と銀のビーズを散りばめた豪華なパーティドレス、
次から次へと頭に浮かんでくる。
灰色の子供時代に、どれだけ夢見たことか…
ローゼが見せた黄色いドレスのデザインには見覚えがあった。
「前にデザイン画を見せてもらったでしょう。
あの時の一枚が、今度注文を受けた
侯爵令嬢のドレスにぴったりだと思いだしたの。
細部は少しは変えたけれど。
これを見せたら、先方もとても気に入ったみたいで
是非これでとおつしやるの」
最初はローゼのいつてる意味がよくわからなかった。
マダムが満足そうに少し笑いながら言った。
「もちろん、デザイン料はお支払いするわよ」
自分の考えた服が形になっていく…
夢のようだった。
マダムから工房のことはできるだけ人に知られたくないと聞いていなかったら、
まわり中に大声で触れまわっていたかもしれない。
浮かれていたのを母とステラに恋人ができたと勘違いされてしまった。
「ねえねえどんな人?母様には言わないから教えてよ」
「ミモザ、安売りしてはダメよ。
男はたやすくなびく女にはすぐ飽きるものだから」
いくら否定しても信じないので
勝手に思わせておくことにした。
黄色のドレスは侯爵令嬢の14才の誕生パーティで着られるという。
ローゼにたのみこんで、すその仕上げにほんの少しだけ参加した。
マダムからデザイン料を渡されてびっくりした。
「こんなにいただけません!」
「じぶんのセンスを安売りしてはダメ!これは当然の報酬よ」
使いみちが決まるまでマダムに預かってもらうことにした。
少しだけ自信のようなものがわいてきた。
じぶんに似合う服は
自分の好きな服とは正反対だというやるせない現実を、
なんとか受け入れられそうな気がしてきた。
そんな時、伯爵が急死した。
猫と女の子とファンタジーやミステリー、ゴシックホラーが大好きで、
いろいろ書いていきたいと思っています。
誤字脱字等、気がついたことがあったら是非指摘してください。