君のその美しい涙の理由
放課後の教室、二人で机を合わせ向かい合って座っている、僕と清美。
「どうして、泣いているの?」
僕は、清美の涙が頬をゆっくりと流れ落ちるのを何か、神秘的なものを眺めるみたいに見ながらそう尋ねた。
「別に、優には関係ないでしょ」
清美は、そう言って涙を制服の裾で念入りに拭った。
僕と清美は小学校の頃からの幼馴染だ。清美の事は、誰よりも知っているつもりだったが人間誰しも自分以外の人間の心なんて完全に理解することなんてできないのは当たり前のことだ。
だから、今回なぜ清美が泣いているのか僕には、かいもく見当もつかなかった。
それから、清美は何だかんだいいながら今日の出来事を話してくれた。
「今日ね。告白したの、テニス部の鈴木先輩に、でもだめだった。君のことをそうふうには見れないって、失恋することがこんなに苦しいことなんて知らなかった。告白なんてしなければよかった」
そう話す、清美の目からまた、涙がこぼれ落ちていく。
今の苦しみを吐き出すみたいにして。
清美の涙を見ていると、なぜだか僕まで涙があふれ出てきた。
「なんで、優まで泣いてるのよ」
そういわれても自分でさえなぜ涙が出ているのか分からなかった。清美が泣いているのを見てもらい泣きというものをしたのかもしれない。
「もらい泣きってやつだと思う」
そう。なぜか知らないけれど、小さい頃から、清美が泣いているとなぜだか僕も泣いていた気がする。
どうしてだろうか?
人間は、神秘的なものを見ると自然と涙がこぼれ落ちる。もしかしたら、僕にとって清美の涙はそうゆうものなのかもしれない。
「小さい頃もそうだったよね。私が泣いていると、優も一緒になって泣いてくれてた。だから、私辛いことや悲しいことがあったら、一目散に優のところに来てた」
悲しみや苦しみっていうのは、正直人間一人が背負うには重すぎる。だから、そうゆう時は近くの人間に頼ったっていい。その人の前で泣いてしまえばいい。
そんなもんだ人生って。
「うん」
僕は、軽くうなずいた。ただそれだけ。
別に、何かしらの解決策を提案するのでもなく同情するのでもなくただじっと清美の話を聞く。僕にはそれくらいの事しかできないから。
空っぽの僕には。
人の、人生に決まったルートなんて存在しない。
それは、誰しもに言えることだ。
たしかに、人間は生まれ落ちた時から、平等なんかじゃないと思う。与えられた時間だって人それぞれで異なる。
でも人間は生きている。自分の意志で。
だからだと思う。人が悲しみ苦しむのは自分の意志を持って行動しているからなのだと。
「優って名前の通りで優しいよね」
「そんなことないよ」
「僕は、ただ清美の悲しんでいる姿が見たくないだけ。それに、こんな風に接するのも清美だけだし」
僕の中で清美という存在は大切なものなのだ。恋愛感情を持っているとかそうゆうものじゃなくて、なんて言ったいいんだろう。
家族みたいな存在とでも言えばいいのだろうか。
「ありがと。なんか、優のおかげで、元気出てきた。いつも、いつも、本当にあるがとね」
「私、もう行くね。そろそろ、帰って夕ご飯の準備しなきゃ。もしよかったら、優も食べに来てよ」
「わかったよ。後で清美の家に行くよ」
「うん。じゃあ、またあとでね」
そう言い残して、清美は、リュックをからって、正カバンを手に持ち反対の手を振りながら教室を出て行った。
僕は、それから少しばかり考えた。
人間ってなんのために生まれてくるのだろうって。
こんなこと考えても答えなんて出てくるわけ、ないんだけどね。
でも僕は、それから家に帰るまでの数十分間ずっとそのことについて考えるのだった。