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広報

短いです

「ありがとうございましたー」

 私は通りに出て、遠ざかる軽トラに頭を下げた。

 下水道工事の業者さんとの打ち合わせが無事に終わり、肩の荷が一個降りた。来週から工事をしてくれるということになった。これで炊事や洗濯の時の排水に罪悪感を持つこともなくなるし、トイレは快適なシャワー付きになる。もっとも、そのためにお金は飛んでいくけど必要なことだから、と腹をくくる。

 今朝になっても、みず江ちゃんからは連絡がなかった。幼稚園の送りの時に立ち寄ってくれるかな、と思ったけど、カレンダーを見たら今日は土曜日だった。

 一人暮らしで、仕事にも出ていないと曜日感覚が狂ってしまう。業者さん、土曜も仕事していて助かった。

 ほっとしたら、お腹が鳴った。時計を見るとあと少しで正午だ。

 私はテーブルの上の下水道工事の書類やトイレのカタログを片付けた。

「なんとなく、こっちを使うようになったなあ」

 私はお店スペースの椅子に腰かけて一息ついた。さっきまでの打合わせも、こっちでやっていた。簡易的に置いた、椅子とテーブルは家の中に残っていたものたちだ。どれも木製で、レトロと言えば聞こえはいいが、古めかしい。

「郵便受けもお店側だし」

 さびついた郵便受けがお店の交差点側の柱に打ち付けられている。郵便物や地域のお知らせなど、そちらに配達されている。

 今朝は、市の広報が入っていた。表紙は、澄川を横断するように泳ぐたくさんの鯉のぼりだ。澄川にワイヤーを張って、寄付された鯉のぼりを張るのは恒例のことらしい。子どものころに住んでいたとはいえ、澄川については知らないことばかりだ。休日診療の一覧、各種の届け出、催し物のお知らせ、カルチャースクールの受講者募集……。いままで広報なんて真面目に読まなかったけど、いろんな情報が詰まっているものなんだな。

 広報を読みながら、市内に何件かあるカフェを回ってみようかと思った。どこかのカフェでランチをいただこう。きっと勉強になるだろうし。

 さて、と立ち上がると広報の一番最後のページに地元の歴史や伝説が解説されているコーナーがあった。

『澄川の人魚伝説』という一文に目が吸い寄せられる。

 小夜子さんが、澄川にも人魚が云々と言っていたっけ。もう一度すわりなおして本文を読んでみる。

『かつて澄川には人魚がいたという。人魚は澄川湾から澄川をのぼり、掘割のなかを泳ぐ姿を見たものもいるという。人魚は好いた男の家を訪ねたという。雨の夜、道で出会うこともある。そんなときには、決して声を掛けず、目を合わせずに過ごさねばらならぬと言い伝えられる』

 ――なんだか、一般的な人魚と違うのでは。好きになった男の家を訪ねるって、足はどうなってるの。アンデルセン童話じゃあるまいし、魔女に声と交換してもらうなんてことじゃないだろうし。

 なんとも奇妙な言い伝えだ。家にある欄間にも人魚がいたけど。カフェの帰りに図書館に寄れたら寄ってこようかな。もうちょっと、人魚について知りたい。観光客にアピールできるようなメニューを考えたりできるんじゃないかな。

 私は店の扉に鍵をかけて、出かける準備をした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 人魚の話が繋がってきた! 目を合わせても声をかけてもダメって、なかなか怪異らしい……欄間の人魚(というか、叔父さんと?)と関わりありそうな気もしますね!
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