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プロローグ

はい、というわけで前作、「剣術チートで異世界生活を」のリメイク版です。

戦場、戦場、戦場。


目を瞑れば浮かんでくる景色が戦場だけとは、流石に空しすぎじゃあないだろうか。


我が儘を言うなら、せめて恋人の一人や二人は欲しかった。


…恋人二人は流石にアウトか。


瓦礫の山に体を預けながら考える。


他に目に浮かんでくる物と言えば、レイピア、太刀、ロングソード、脇差、エストック、ダガー…、っていうか全部剣だ。


しかも脳裏に浮かんでくるそれらの剣すべてがボロボロである辺り、ボロボロの人生だった、とか柄でもないことを考えてしまう。


体中に生えている(・・・・・)剣やボロボロの服を見てついつい苦笑いしてしまった。


よくもまあ、ここまでこれたものだ。


俺の生まれはこの世の底辺、スラム街。


育ての親だったスラム街の麻薬取引業者によれば、俺の両親はとっくのとうに死んだらしいが、よく客を騙して自分の利益を上げているあの男の言うことだ。本当かどうかも分からない。


物心ついたころからその麻薬取引業者の護衛を務められるように本物の剣を握らされ、二度の飯と睡眠時間の他はずっと剣を振らされていた。


十歳になった辺りで初めてテストとして戦場に駆り出された。


最初は子供の外見で相手を油断させて一瞬で首を刎ねた。


命の危険しか存在しない戦場の中だったからか、人を殺したことに対する後悔だとか罪悪感だとかは全く感じなかった。それどころか、敵の死体を盾にして銃弾を防いでいたくらいだ。


最初は子供の見た目で油断させて殺すことくらいしかやっていなかったが、しばらくそうして殺していると十数人に一気に囲まれた。


一斉にマシンガンを構えられた時には焦ったが、何とか上手く躱して一人を殺し、慌てている他の敵も一人残らず殺した。


必死に戦場を駆け回っているうちに気付いたら戦場は随分と静かになっていて、味方の兵がわっと歓声を上げているのを聞いた。


ふと左目に違和感を感じたので手を当ててみると、生暖かい液体、つまり血の感触がした。


そこで左目をなくしてしまったことに気付いたが、悲しみだとか後悔だとかそういう物はどこにもなく、ただ左目にありえないほどの熱を感じただけだった。


左目をなくしたことで麻薬取引業者に役立たずだと判断されて、戦場から戻った瞬間に捨てられた。


とにかく生きなければ。その一心でひたすらに戦場を駆け巡った。


マイナス五度を下回る吹雪の中、持っていたロングソードで首を刎ねた。


五十度を超える砂漠の中、安物のダガーで心臓を一突きした。


大蛇の潜むジャングルの中、ショートソードを投げつけて頭蓋を貫いた。


斬って斬って斬って斬って斬って、刺して刺して刺して刺して刺して刺して、投げて投げて投げて投げて投げて投げて、殺して殺して殺して殺した。


殺した数が三桁を超えた辺りから、国が俺に目を付けた。


軍の下っ端になって戦場を駆けていたら、軍の士官の中での下っ端になった。


軍の士官の中での下っ端になって戦場を駆けていたら、士官の中で中級程度の役職に就いた。


中級程度の役職になって戦場を駆けていたら、士官の中での所謂上位になった。


士官の中での上位になって戦場を駆けていたら、国一番の戦力、剣聖の地位を持つ男の部隊に配属された。


剣聖に弟子入りし、というか無理矢理弟子にされ、毎日剣聖を相手に本気で挑みかかり続けた。


いつの間にか俺は剣聖と同格かそれ以上の実力を身に着け、軍の双璧とまで言われるようになった。


戦場の中で師匠だった剣聖が敵国の将校に殺され、俺が剣聖に任命された。


その頃にはもう、自分の年齢なんて物はとっくに忘れてしまっていた。


剣聖になった後も俺のやることは変わらず、それまでと同じかそれ以上に戦場に駆り出され続けた。


剣聖になって数年した頃に先代剣聖の敵だった敵国の将校を斬り殺した。


あの戦いは特に壮絶だったことを覚えている。


お互いに使う得物は太刀で、拮抗した実力。勝負を分けたのは、途中から俺が二刀流を始めたり、軍服の中に仕込んでいたダガーを使ったり、はたまた出刃包丁なんて物を使いだしたりしたことで相手がそれに対応できなくなっていったところだろう。


最後、相手の首に剣を振るおうとしたところで相手が「見事!」なんて言っていたが、特に気にすることもなく刎ね飛ばした。


あの戦いを見ていた兵から伝播したのか、いつの間にか俺は「変幻自在の剣技を操る最強の剣聖」、「剣聖最強」、挙句の果てには「隻眼の剣聖」なんていう中二な二つ名まで付けられた。


噂が広まって多くの剣士が弟子入りを申し込んできたが、剣の流派なんてなく、ただ単に戦場で剣を振るっていただけだったので全て断った。


友人だと言えるほどの者も知り合いもほとんどいなく、「隊長」だの「剣聖」だのと呼ばれているうちに麻薬の取引業者、育ての親だった男から与えられた名も忘れてしまった。


年齢も、戸籍も、名前さえもない俺に贅沢なんて物はなく、一日三食はかろうじてありつけたもののベッドは野戦病院にでもありそうな簡素な物、給料に至っては払うことさえされなかった。


捨て駒扱いしても文句も言わずに従い、必ず帰ってくることから「この男は無敵だ」などと思われるようになったのだろう。軍の上層部は危険な任務に必ず俺と俺の部下たちのみを向かわせ、簡単な任務を与えることはなかった。


毎日のように戦場を駆け回っていたら、いつの間にか俺の部下の半分は違う人物に変わっていて、そこで始めてその部下たちが死んだのだと理解した。


部下がいくら死んでもその度に補給され、いつしか俺の隊は「死亡率九割の死神の隊」などと言われるようになった。


だが、そんな隊にも遠慮なく任務を与え続けるのが上層部クオリティ。


一日に少なくて二回、多くて十回は別の戦場に駆り出された。


隊の中では、一つの戦場で十五人中の三人、つまりは二割が死んでいった。


だから、今度は俺の番、ということなのだろう。


頭の中を物凄い速さで流れていった映像を見終わってからいつの間にか閉じていた目を開け、もう一度自分の体を見下ろす。


さっきはぼんやりとした思考だったからだろう。


体から生えていると思っていた剣が、実は体に刺さっていたのだという当たり前の事実になぜか驚いてしまう。


そして、そんな自分に気付いて悟った。悟ってしまった。


もうコレはダメだ。


完璧にアウトだ。


もう少しで、俺は死ぬだろう。


死んだら、あの世にでも行くのだろうか。


もしもあの世という物が存在したのなら、俺はきっと地獄にでも放り込まれるだろう。


四桁、いや五桁を超える数殺してきたから、もしかしたら無間地獄に放り込まれるかもしれない。


いや、今まで人を殺すことに罪悪感も後悔も何も感じていなかったのだから、無間地獄に放り込まれるのは確定だろう。


無間地獄では舌を抜かれるだとか、多くの怪生物が歩き回っているのだとか、そんなことを昔の部下が言っていたのを思い出す。


アイツは、もう地獄に行っているのだろうか。


いや、アイツは人を殺すのに罪悪感を感じると言っていたし、少なくとも無間地獄に落とされるようなことにはならないだろう。


地獄は、斬れるのだろうか。


ふとそんなことを考えて、自分で嘲笑する。


俺は何を考えているのだろうか。


地獄など斬れるはずもないし、そもそもあるのかないのかさえもよく分からない。


我ながら相変わらず馬鹿だなと自分で自分を罵っている俺の近くに、誰かの気配が近寄って来た。


いやもう、死にかけの状態でなお他人の気配を感じ取れるとか、最早人間じゃない気がしてきた。大丈夫だよね?俺、まだ人間だよね?


そんな下らないことを考えながらも俺は閉じようとする瞼を必死に開ける。


昔上司の命令で三日三晩睡眠なしで戦術の勉強をした時よりもずっと眠い。


だが、せめてあと少しくらいは起きて(生きて)いよう。どうせ敵だろうし、俺の首を取るんだったらその前にいつぞやの敵国の将校のごとく「見事!」とでも言ってみたいものだ。


「-長!たーちょー!死ななーー下さー、たいちょー!」


なんだろうか。目だけではなく、耳もおかしくなっているらしい。


どうせとっとと首取ってやるぜウエーイみたいなことでも言ってるんだろう。


「----、------!」


ああ、もうだめだわ。


体中からフッと力が抜けていって、もう目の前にいるであろう人物の声さえも微かに聞こえる程度だ。


そうだな、せめてここは最期に何か言ってやるか。


「…がん…ば…れ……」


なぜか、口から出たのはそんな言葉だった。


言葉を言い終わった瞬間、見計らったかのように全身の感覚がなくなっていく。


ああ、ホントにもう終わりか。



ー地獄にはまだ早いですよ、隊長。



そんな声が、聞こえた気がした。

あっれええええええええええ!?


おかしいなー、キャラの設定とかが前作で予告していた物とかけ離れた方向に直進していくんだけど!?

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