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打倒魔王は成功?

 そんなこんなで次々と私の仲間は敵勢力に奪われていって、私はただ一人魔王クロウを目指していたわけですが(嘘はいっていない)。


「クロウに会ったら、何て言おう。全部思い出したってまず言おうかな」


 もしそう言ったならどんな顔をするだろう。そう私が小さく笑って私は進んでいく。

 怖いというよりも、ようやく会えるといった気持ちの方が強くて、嬉しくなってしまう。


「リゼル達に当てられちゃったのかな」


 私は小さく笑って先ほどのような廊下を突き進むとまたも扉がある。

 ここにクロウがいるといいなと私は思って、扉を押して、


「おじゃましま~す。……あれ、魔王みたいな人が座っていそうな椅子があるけれど、そこにはいないや」


 宝石やら何やらで彩られた玉座が扉から三段ほど高く、ここから一番離れておかれている。

 だがその主はここにはいないようだ。

 どこにいってしまったのだろう?


「玉座の周辺に天蓋があるから、あの布にくるまって隠れていたりするのかな?」


 なので私は、てってってと歩き始めた。

 周りを見回して、どこかにクロウの姿がないかなと思って進んでいくと……そこで、後ろから体を片手で抱きしめられて、もう片腕で目隠しをされる。

 そして耳元で、


「どうしてここに来た? 俺のことが倒したいくらいイズミは“嫌い”なのか? それとも最後にキスをしたのを恨んでここまで来たのか?」

「違うよ。私は、全部思い出したんだ。……あ、全部じゃないけれどクロウと恋人同士だったことも大体、全部だけれど」

「へぇ、じゃあ俺達がベッド・インする程度の関係だったって知っているか?」

「! そ、そうだったんだ。ごめんそこまでは覚えていないや……」


 そこまでの関係だとは私は気付かなかった。

 ど、どうしよう、記憶に無い、心の準備が……。

 そうやってあわあわしていると、後ろでクロウが嘆息した。


「嘘だよ。俺がイズミを好きなのを知って、そうやって切り崩す作戦に出たかと思ったが……そういうわけではなさそうだな」


 力なく笑うような声でクロウが私に言う。

 でも私は、クロウに“思い出して”また会えたのが嬉しかったから、


「あのね、クロウ、話を聞いて欲しいんだ。実は……」

「俺はイズミと話すことは何もない。そもそも俺に関わるな。そんなに俺が……嫌いなのか?」

「? 私はクロウが好きだよ? というか、“空間転移適正”があるってこと、クロウがクロウのお父さんにちゃんと話さないのがいけなかったんだよ」

「それがあるからといって認められるとは限らないだろう。それに、異世界の存在であるイズミは、異世界人同士で恋人になった方がきっと……幸せだろう」

「……でも私は、クロウと一緒にいたい」

「……イズミ、あまり我儘を言わないでくれ。俺だって、一緒にいたい」


 悲しそうに呟くクロウの声を聞きながら、そして私はクロウも一緒にいたいと言ってくれているならばと私は思って、


「それに……魔王にならないと長期的にクロウが消えちゃうんでしょう?」

「……余計なことをイズミに教えやがって」

「クロウのお父さんは、クロウを心配しているんだよ。それに、私に“空間転移適正”があるのを知ったらしくて、それならクロウと一緒にいていいって」

「……信用できるか。確かに俺は魔王にならないと役割の関係で消えやすくなるけれど、それでもイズミと敵対するように持っていく必要はない。人数が少ないとはいえ、別の“空間転移適正”を持つ者で構わなかったはずだ」

「多分、調整が必要だったからだと思う。不完全な形で私達が戦うのが必要だから」

「イズミ、あのジジイに一体何をそそのかされた?」


 怒ったような冷たい声で私が問いかけられる。

 だから私は、


「三つある道具のうち、一つづつ勇者の力を開放してその関係で魔王を不完全ながら目覚めさせて、三回に渡り戦闘をして終了にすればこの世界の被害も、私達の被害も最小限にできるってことだよ」

「……嘘だ。わざと俺とイズミを戦わせようと……」

「嘘じゃないよ。そもそもクエストの中に私の道具がまっぷたつに折れた話があったよね。あれは……偶然でしょう?」

「……そうだな、あのリゼルがあんな風であんな形で剣を折るなんて、どう考えても偶然としか考えられないな……」


 突然納得してしまったクロウ。

 だが私はそれを聞きつつ、リゼルは一体何をやらかしたのだろうかと思った。

 けれど納得してくれたのなら、


「戦闘をしてくれるよね、三回」

「いいだろう。それに関しては。だが恋人同士になた戻るかは別だ。……俺はイズミにはイズミの世界で幸せになるべきだと思うからな」

「……いいよ、全部終わってから、私も、私なりにクロウを口説いてやる」


 そう言い返すと再び嘆息したクロウが、


「好きにしろ」


 呆れたように私に告げたのだった。









 先ほどのリゼルとシオンのように数十メートル離れて向かい合ったクロウが私に、


「とりあえず俺の力を説明しておくぞ」

「? いいの?」

「別にいい、イズミに怪我をされても困から。それにイズミにも同じ様な能力があるはずだ。“空間転移適正”があるから」

「そうなんだ」

「ああ、そもそもこの能力がどうして異世界に行くのに必要かというと、自分を存在できる必要な物を形成する能力、その空間に満ちる“物”を意識的、または無意識に“操作”をする能力なんだ。だから、その操作の能力を限度としてその範囲内であればその世界で“生じうる全ての事象”を引き起こすことが出来る」

「す、すごい能力なんだね。でも、私達の世界ではそんな事出来た試しはないや」

「どうやらイズミの世界ではその“事象”を起こすのに必要な力が、他の世界よりも群を抜いて多く必要であるらしい。それに、そんなものは存在しないと思っている節もあるから、結果としてそういった能力を持つ者達も力を使えないようだ。もともと人数も少ないから存在しないと同意義であるらしい」


 あまり良く知らない私の世界の事情を聞いた私。

 そこでクロウが、


「さて話がそれたが、俺の力を使うとこんなことも出来る」

「あれ、クロウが手に浮かべた火が消えて私の直ぐ側に浮かんでいる」


 クロウが手を前にした時に炎が浮かび上がったかと思うとその炎が消えて代わりに私の直ぐ側で炎が浮かんでいる。

 指でつんつんすると触られるのが嫌なのか、炎が自分から逃げていく。

 面白いので追いかけようとすると、


「触るとそのままでは火傷をするから、触らないように。そもそもこれは“攻撃”の魔法だから、避けるように。分かったな」

「はーい。でもこれって私の直ぐ側に転送したってことかな」

「そうなるな」

「じゃあ当たらないようにするよ。それで私はクロウを“倒せば”いいんだよね? それってどんな感じかな?」

「俺が地面に倒れたり膝をついたり……それを十秒間だ。イズミがそれを出来ればそれでいい。後は俺も魔法を使って勇者であるイズミを攻撃しないと、勇者と魔王の戦いと定義づけられない、らしい」

「分かった、頑張って避けるよ」


 攻撃しないといけないなら避けるしか無いなと私は頷く。

 クロウは不安そうに見える。

 でも平気だというふうに私は笑う。


 だってそうしないと、クロウはやめてしまうだろうから。

 そこでクロウが私の手を指差して、


「次はイズミの番だ。まずは指輪、物理的な力の増幅の力を使って、トゲ付き鉄球をこちらに打ち込んでみろ。鎖もできるだけ眺めにして遠くから俺を狙えよ、攻撃に当たりにくくなるから」

「うん。……この指輪にそんな力が。よし、いくぞ」


 というわけで私は指輪をつけた状態でトゲ付き鉄球をぐるぐる回しながらクロウのちょっと横に飛んで行くよう仕向けてみたけれど。

 クロウはなにか結界のようなものを張ったようだが空気のようにすり抜けてしまう。

 えっ、と私が思っている所で顔色を変えたクロウが避けるのが見える。


 ゆるやかに私のトゲ付き鉄球がクロウのすぐ横を通りすぎて地面へと落ちる。

 轟音が響いた。

 次の瞬間私が見たものは、この鉄球が落ちた場所に出来た大きなクレーターだった。


 何が一体起こったのかと思っているとそこで、


「ふむ、どうやらイズミには、“空間転移適正”がわしらよりもずっとあるようじゃのう」


 クロウの父の声が聞こえた。

 しかもその声はつづき、


「クロウの力を封じたとはいえ、クロウに見えないモノを見抜いている時点でなにかおかしいのぅ、と思っておったんじゃ。これだけの才能を野放しにしておくのはもったいないから、“嫁”にしておけ。両想いのようだしのぅ」

「……煩い、ジジイ。イズミは元の世界で幸せになるべきだ」

「まあイズミに頑張ってもらおうかのぅ。若い物同士でのぅ」


 それからもう声は聞こえなくなった。

 クロウは機嫌が悪そうだけれど、


「あの、私には強い力があるんだ」

「……そうだな。俺達よりもあるみたいだ」

「わ、私を捕まえておいた方がいいと思わない?」

「……好きだから、幸せになってほしいから手放そうと思っている俺の気持ちもくんではくれないのか」

「もう私は諦めるのは嫌だよ?」

「我儘がすぎるぞ、イズミ」

「私の幸せは私が決めるよ」

「……手加減せずに少し強めの攻撃で気絶させて、イズミの記憶を封じるか。俺の手で」


 深刻そうな表情で告げたクロウ。

 私はクロウのことを意地っ張りだと思った。

 でもこのトゲ付き鉄球ではクロウに怪我をさせてしまうかもしれない。


 でも私が勝利しないといけない。

 どうやって私がクロウを“倒せ”ばいいのだろう?

 いや、“倒し”さえすればいいのだ。


 しかも今私はクロウの近くにいて、物理的に力の強くなる指輪をつけている。

 だからそれに気づかれる前に私は走りだした。

 クロウの方に向かって。


 クロウはぎょっとして逃げ出そうとするが、そのまま私は地面を蹴ってそのままクロウの胸に飛び込んだ。

 慌てて私を受け止めたクロウはその勢いを殺しきれずに、私を抱きとめたまま尻餅をつく。

 でもこれだけではどうなるのかわからないので私はクロウを地面に横になるように押し倒して……唇を重ねた。


「んんっ」


 あせったらしいクロウが呻くのが聞こえたけれど、私にはどうでもいい。

 それから私は唇を放して、


「私はクロウが好きだから、一緒にいたい」

「……イズミが俺に勝てたら考えてやる」


 駄々をこねる子供相手にしかたがないというようにクロウは答える。

 でも、その答えは私にとっても好都合だった。


「よし、じゃあクロウは恋人同士によりを戻してもいいってことだよね」

「……倒されていないぞ。抱きついてきたのを受け止めたからな」

「でも私、クロウを押し“倒した”よ? キスしたし」


 私が笑いながら告げるとクロウが黙った。

 そこで私の指輪がするりと私の指から抜け落ちる。

 何でだろうと私が思っているとクロウが、


「嘘だろう? これで俺、倒されたことになるのか?」

「あ、これそういうことなんだ。だったら私の勝利だね」


 機嫌の良い私と対照的にクロウは、頭痛を覚えたかのように、


「こんな手があると思わなかった」

「私も今思いついたんだけれどね、上手くいってよかったかな。そうだ、次はペンダントの分の戦闘をしよう。リゼルに預かってもらっているんだ」

「……次はこの手は使わせないからな」


 クロウは私に、ムッとしたように言う。

 けれどそれも結果として、クロウを追い掛け回して押し倒した私の勝利となるのだった。






 こうしてどうにか、魔王退治? はつつがなく終了した。

 一応この世界に魔王が現れて速攻で第二形態まで倒されたということらしい。

 茶番だと、クロウが暗く呟いているのを聞いたけれど私は、


「でもこれでまた恋人同士だよね?」

「考えるといっただけでそうとは決まっていないだろう」

「え?」


 私はもうすでに以前の恋人同士に戻ったと錯覚していた。

 けれどクロウは乗り気でないらしい。

 だが、私は諦める気はなかった。


 なので私は、ジーっとクロウに訴えかけるように見上げた。

 どうしてかはわからないけれど、こうするとクロウは私のお願いを聞いてくれるのだ。

 というわけで長い間一緒にいた経験から、このような戦法をとった私。


 案の定、クロウはうめいて、


「そ、そんな目で見ても、俺の気持ちは変わらない」

「……」

「そ、そもそも、考えるといっただけで勘違いしたのは、イ、イズミの方で」

「……」


 私が無言で訴えている最中、私のそばにいるリゼルたちやメノウ達は面白そうに状況の推移を見ているようだった。

 だがそんな彼らを気にするよりも私は、クロウと恋人同士に戻るほうが大事だったので私はじっと見つめた。

 と、クロウは私から顔を横に向けたので、両手をクロウの顔に手を伸ばし私の方を見るようにした。


 そしてしばし、見つめていると、クロウがようやく口を開いた。


「イズミは後悔しないな?」

「なんで?」


 聞き返してやると、クロウは私を抱きしめた。

 だから私も抱きしめ返すと、クロウが小さく震えた。

 きっと、クロウだって私と離れるのが凄く辛かったのだと思う。


 でも、“優しい”からそう言ってくれたのだろう。

 だからそれ以上私は何も言わずにただ、再びクロウと恋人同士に戻れた幸せを噛み締めたのだった。


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