とある魔王の城にて
魔王城。
灰色の石が積み重ねられ、幾つもの尖塔がひしめく不気味な城であり、辺境の道なき山奥にそれは、ある日突然現れたという……。
つまり、クロウが魔王をやれと言われてとりあえずは一晩でそれっぽい城を作り、中はクイズ形式な罠の連続をしたのだが、やはりイズミと戦いたくないのでここに来るまでの道などを作らずに、この世界の人間にアンケートを取る方向に向かった。
それでもう使うことはないだろうとクロウは思っていたので、それ以上はなにもしなかったのだが、
「まさかこんな事になるとは」
「どうかされましたか?」
つい呟いてしまった独り言を、シオンに聞かれてしまった。
もともと宰相役の予定だった彼は魔王側になり、やけに機嫌が良さそうだ。
不完全とはいえその役目に引きずり込まれたクロウは機嫌が悪いのとは対照的に。
「どうしてそんなにやる気があるんだ?」
「いえ、この力を全力で使えば……リゼルが手に入るだろうなと」
「……敵対しているのに?」
「従者としてではどうやっても手に入れられませんでしたしね。しかもなんとなく自分が魔族側だと分かっていましたから、あの神剣の守り人なリゼルを私の事情に巻き込みたくなかったから離れようと何度もした部分もあるのですが……結局離れられませんでしたね」
「……」
「そんな諦めきれずそばに居てしまった私ですが、今はそんなしがらみもありません。しかも力を抑えてリゼルの側にいましたから、騙し討もできますから、捕まえやすいでしょう」
だから現状に自分は満足しているとシオンは言う。
それを聞きながらクロウは、クロウ自身が諦めきれないイズミの事を思い出しながら、
「そういえば、イズミに魔力がリゼルよりも大きいと看破されていたな」
「ええ、あの時は焦りました。クロウ様は分かっておられたようですが」
「まあ、見ればわかるからな」
「そうなのですか。隠し事はあまりできなそうです。それでこれからどういたしますか? ラティのあの件も含めて」
「……放っておけ」
「分かりました」
楽しそうにシオンが笑っているのは、彼なりの妙な嫉妬心がどうにかなったからだろうか?
そういえばシオンとメノウは仲が悪かったはずだが、全てがあれに起因しているからあれの心配はないので機嫌がいいのだろうかとクロウは思い興味本位で聞いてみる。
「シオン、お前はメノウと仲が悪いのでは?」
「そうですね、ただ現状では戦闘という意味でも都合がいいのですよ、リゼルを得たい私にもね」
「どういうことだ?」
「私がメノウが嫌いな理由の一つが、大抵私よりも先に先手を打っている点なのです。流石は勇者のサポート役の家系という気もしますが……現在は無力化されている状況ですね」
「……そうだな」
大丈夫かと思って先ほどこっそり様子を見に行って、放置を決めたクロウはどうでもいいような気持ちになってそう答えた。
そう、ラティは現在使い物にならなくなっている。
そして恐らくはこれからも使いものにならないだろう、という状態なのでクロウはラティと一緒にいるメノウは放置していた。
本音を言えば、こんな状況になったのはラティのせいなので、暫く放置しておいてやる、というクロウ自身の意地の悪い感情もあったりしたのだが。
さて、そのあたりの話は置いておくとして、クロウはシオンに言っておかなければならないことがある。
「シオン、シオンには悪いがここの城までの道は作っていない。だから辿りつけず、そしてイズミの勇者としての力が薄れていくのを待とうと思っている」
「そうなのですか? ……今回の引き金はラティですが、あれはもうそちら側に引っ張る力はなさそうですから……ふむ」
「もともとこの世界にイズミが来たことで俺の魔王としての力が誘発されて、凶悪生物が生まれたりここの所していたからな」
「“黒い影”などのように?」
「そうだ。……実のところ根負けして、俺の父がイズミを元の世界に戻すのを今回は狙っている」
「……イズミはそんなに諦めがいいのでしょうか?」
「そうだろう? そもそも昔であっていた記憶なんて無いし、第一……俺への恋愛感情は、今はイズミはない。それにこの場所を言えないように俺の父は制約をかけられている。魔王としての役割で、どこか分からずに探っていくのも“必要”だからな」
「“必要”?」
シオンが問いかけてきたので、そしてからも仲間だからいいかとクロウは考えて、
「なぜ、魔王が必要か、というにはまあ……俺のような神族には役目が必要というのもあるのだが、世界そのものを作る時に魔力に偏りが出る。その偏りは時間が経つごとに大きくなるために時折、何らかの形で逆の属性を放り込んで安定化させる必要がある。まあそれは、歪となる“クエスト”を消化することでも本当は幾つか解決というか、元の状態に戻したりは出来るがな」
「“クエスト”にそのような効果があったのですか」
「ああ。そして現状ではまだ、“クエスト”でどうにかなる状況だったはずなんだ」
「ではなぜこのような自体に? 魔王が生まれましたよね?」
「ギリギリの所でやるよりはいいという判断もあるだろうが、俺がやる気をなくしていたのが一番の原因だろうな」
クロウはそこで自嘲気味に呟き、イズミを脳裏に描く。
結局、忘れようと思っても忘れられなかった。
含みがある様に魔王城にそのうち、連れて行ってやるよ、とクロウは言ったが、そうはさせないけれどなという決意の様な物だった。
それがこんな風になったのは皮肉だが、道も場所も知らないこの場所に、イズミとリゼルはここに来るのは難しいだろうと思う。
けれど敵対してもイズミの側にいたい気持ちもクロウの中では、心の奥底で蠢いている。
そもそも冗談めかして、起きないならキスをするぞとか、クロウの隠れた欲望だった。
イズミが欲しくてたまらない、忘れようとしてもどうにもならなかった相手だから、仕方がないのかもしれな。
しかも忘れているはずのイズミは無意識の内に“悪役”の武器を選ぶは、やけにクロウには素直になる部分もあるし。
たまに本当は覚えているのではと錯覚してしまったとクロウは思う。
「だが、ここには来れない」
来れるはずがない、だからこのまま忘れるんだとクロウは思う。
思いながらも今更ながらそういえばこの世界で敵を倒すとランダムに道具が出てくる仕様にしたのを後悔する。
この世界の人達や現れた勇者の手助けになる様にと仕込んだものだが、これはより庵住がここにたどり着く可能性を高めるのではないか?
「いや、その程度では無理だ。この世界は広いし、辺境には強い魔物がいる」
そう呟いてみてその強い魔物に出会ってイズミは大丈夫だろうかと思ったが、そういえばクロウの父によって力を強化されチートまでイズミは持っていると思い至る。
神剣クーゲルシュトライバーは、勇者の剣。
けれど真っ二つだし、イズミのトゲ付き鉄球の方が強い。
だから大丈夫だろう。
それにそれだけ強ければ普通に戦っても魔王になったクロウを倒せるのではとクロウは気づく。
しかもイズミが怪我などせずに。
別に倒されてもクロウは死ぬわけではないから、それを考えるとクロウはイズミに怪我をさせずに倒されることは出来る可能性も考えられる。
そこまで、クロウの父は考えていたのだろうか?
「違うな、あいつは俺とイズミを別れさせたいのだから、違う」
自分に都合いいように考えても、仕方がない。
勝手に期待して勝手に落胆する羽目になるだけだ。
「憂鬱だ」
クロウそう一言口にする。
穏やかな日々は遠く彼方に消えた、そうクロウは思ったのだった。
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