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どうしてそこで拗れた!?

 食事を終えた後、ラティのいるらしいメノウの部屋に私達は向かった。

 私とリゼルは頑張るぞー、といった風で、クロウとシオンは何処か面倒くさそうだった。

 そして向かった先のメノウの部屋では、どうやらメノウの部屋に引きこもり、メノウが戻れない状況であるらしいのだが……丁度、メイドに食事の食器をラティが渡している所だった。


 つまりは扉があいている状態だった。

 そこでリゼルが走っていき、


「姉さん、ちょっと良いかな?」

「リゼル……リゼルまで私を裏切るのか?」


 暗い声で警戒するようにラティがリゼルに声をかける。

 リゼルがそれにびくっとして動けなくなっているので、私が、


「あの、少しお話をよろしいでしょうか」

「……リゼルの“友達”か。……異世界人とはいえ折角のリゼルの友達を無碍にするわけにはいかないか」


 どうやらリゼルの友達なので、私は話を聞いてもらえそうである。

 そこでラティはきっと、シオンを睨みつけ、


「だがシオン……そしてそこにいるもう一人は何だか気に喰わないから、駄目だ」


 といった様な事を言いだしたので、私とリゼルがラティの話を聞く事になったのだった。









 案内された部屋というかメノウの部屋は、客人が来た時に使うようなゆったりとした四人掛けのテーブル、本棚、そして普段何かを書いたりするためらしい机が一つ、といったものが大まかな構成である書斎であった。

 机やテーブル、本棚その全てに彫刻が付されていたりといった変わったデザインの物で、何となく値段が高そうな気が私達にはした。


 そこでラティに促されて四人掛けテーブルの片側に私とリゼルが座る。と、


「とりあえずお茶菓子だ。私の機嫌を取るために、メノウがシーレモンチーズのタルトを用意してくれた。後、紅茶も。……これを全て食べて太るのだなという紙が添えられていたがな」


 凄みのある顔で笑うラティを見ながら私は、どうしてそんな余計な一言を書くのだろうかとメノウに対して思った。

 そう思っていると大きなタルトを、売っているくらいのそこそこの大きさで切り分けて私達の分も皿に盛り付ける。

 そして私達の前にそれらを一つづつ置く。


「大きさはこれ位でいいか?」

「はい、大丈夫です」


 私がそう答えると最後にラティは自分の分を切り分ける。

 その大きさは私達の二倍程度である。

 やっぱり好物なんだとそれを見ながら思っているとそこで怪訝な表情のラティが、


「何を面白そうに見ている?」

「いえ、好物なんだなと」

「……まあね」


 口もごる様に、ラティがそう答えて、このケーキと食べる用の冷えた紅茶をグラスに注ぐ。

 何故か幾つものグラスがここにはあった。

 もしかしたなら、いざとなったらみんなでここでお菓子などを食べつつお茶をしながら、メノウはラティの説得をして欲しかったのかもしれない。


 そんな事を考えつつ、やはり先ほどの余計な一言は……明らかにメノウの自業自得だなと思わざるおえないが。

 と、人数分クラスに紅茶を注いで私達の前に置いてから私達と反対側に座る。


「それで、私に何のようだ? どうせメノウに何かを言われて来たのだろうがな」


 皮肉げにいうラティ。

 この人は分かっているようなので、とりあえず私は直球で聞いてみることにした。


「ラティさんはメノウさんが好きですか?」

「ごふっ」


 紅茶に口をつけようとしていたらティが吹いた。

 しばらく咳き込んでからラティが、


「……あんな奴好きじゃない。意地悪だし」

「嫌いで顔を見たくもないと?」

「……どちらかと言えばそうだ」

「ではお聞きします。昨日、メノウさんに普通に本音で告白されましたよね?」

「……」


 ラティは凍りついたように動かなくなり、けれどすぐに茹でダコのように赤くなった。


「……その話はするな。きっと気の迷いか私をからかって楽しんでいるんだ。あいつはそういう人間だ」

「でも今だってラティさんが好きなお菓子を持ってきてご機嫌取りをしてくれているんですよね? それに嫌いな人間ならすぐに追い返してしまいそうな気がしますが」

「……それはリゼル達が、メノウは勇者のサポート役だしその関係でいるのだろう」

「でも、ラティさんには特に役目はないんですよね?」

「そうだな。適性がないようだから、勇者側の」

「適正、ですか?」

「ああ、私達の家の場合は、神剣クーゲルシュトライバーに触れられるかどうかだ」

「そうなのですか。となるとますます、本当に嫌いだったらラティさんをここに留めておかないですよね」


 そう問いかけるとラティは黙ってしまった。

 もう少し押してみようかと思って、私は少し意地悪な質問をしてみる。


「ラティさん、もしラティさんが本当に嫌ならいつでもこのメノウさんの屋敷から出られますよね?」

「! それは……まあ……」

「意地の悪い質問になってしまいますが、ラティさんは昔からメノウさんと一緒にいるんですよね」

「それはそうだ」

「そして今も繋がりは切れていないと」

「……そうなるな」

「それはどうしてですか?」


 きつい質問だったと思う。

 それにラティは沈黙し、不安からだろうか? 目の前のタルトを一口くらいの大きさにフォークで切り、口に運んでもぐもぐと咀嚼する。

 なので私も、ラティに習って一口タルトを口にして、


「お、美味しい、爽やかすぎる、なにこれ!」

「昔からメノウの家のケーキは美味しいんだよな。私の好きなこのタルトは特に」


 最後の方は小さく声がなっていたけれど、ラティの表情は嬉しそうな悲しそうな、そんな複雑な表情だった。

 それを見ながら私はラティに問いかける。


「メノウさんを好きになってはいけない理由があるのですか?」

「それは……」

「先程から言い訳ばかりしているようだったから。リゼル、リゼル達の家とこのメノウの家って確執か何かがあるのかな?」


 そこで美味しいと、私にラティとの話を全ておまかせしてタルトに舌鼓を打っているリゼルに話を振る。

 あまりに幸せそうにパクパク食べているので、ちょっとだけリゼルにこの裏切り者が……と私が思ったのはいいとして。


「無いよ、確執なんて。親戚でもあるし、ラティ姉さんとメノウが結婚するなんてことになったら普通に祝福されるんじゃないかな」

「な、リゼル、私を裏切るのか!」

「いえ……何となく面倒くさくて」

「お、お姉ちゃんの事をそんな風に言うなんて……」

「いえ、どうして拗れているのか分からないレベルで両想いなので、本音を言ってしまうとさっさとくっついてしまえと」

「く……どうして、昔はあんなに可愛かったリゼルがこんな……やはり、シオンというあの腹黒の側にいるから私の可愛いリゼルが……」

「シオンのことは関係ありません。というか、私も知りたいです。どうしてメノウでは駄目なのですか」


 嘆息するようにリゼルが問いかけると、ラティは言葉に詰まってから、


「逃げられなくなりそうだから嫌だ」

「それは、メノウさんが好きということですか?」


 問いかけるとそこでラティは、ようやく観念したように渋々と頷いた。

 それから、ぽつりぽつりと語り始める。


「自分の欲望に素直になってしまいそうなのが“怖い”。暗い感情に引きずり込まれる様な、そんな感じがする」

「好き過ぎて狂いそうだって事ですか?」

「違う。いや、そういった感情はあるけれど、その……起因する自分の中の暗い感情で、何かが引きずり出される気がするんだ」

「? そうなのですか?」

「ああ、そしてそれは良くないもので……メノウを巻き込みたくなくて、そしてメノウとは“違う”もののような気がして……だから離れるべきだ、そう私は思ったんだ。このザマだが、ね」


 そこで自嘲じみた笑みを浮かべるラティ。

 けれどメノウと違うというのはどういう事だろうと私は考えて、


「もしかして、魔王の配下候補だったりするのかな、ラティさん」

「……魔王は生まれないのでは?」

「そういった候補がいたって話を私はクロウから聞いたことがあります」

「……魔王、ね。だからそういったものに引きこまれそうになるのか……。そういえば、妙に魔力が強くて、でもクーゲルシュライバーには選ばれなかった。それが不思議に思われていたな」


 ぼんやりと呟くラティ。

 けれどそれが原因なら、話は簡単だ。


「でも魔王が生まれないですし、私も“勇者”になるつもりもないので、普通に恋愛をしても大丈夫だと思いますよ」

「そうかな? でも……違う適性があるってことだから、勇者と魔王は相反するものだから、どうなんだろう」

「私みたいに異世界人がこの世界の人を好きになるよりは可能性があるのでは?」


 喩え話で私は言ったつもりだけれど、その自分の発した言葉が頭の隅に引っかかる。

 一緒にいたい、と言った。

 これからも一緒で、と言った。

 

 でも、私は……。

 冷や汗が噴き出るような不安感に突如私は苛まれる。

 なんで、そう私が思っているとそこでラティが、


「それもそうだな。そうか……魔王も生まれないし、それの可能性は考えていなかった。そうか。それなら……挑戦してみようかな」


 そうラティがようやく心の底からというような笑顔になる。

 どうやら上手く言ったらしいと私たちは思いながら、私はリゼルと顔を見合わせて、それからちょっとした雑談をしながらケーキを楽しんだのだった。







 こうして私達は、勝利を確信してメノウの部屋を出た。

 中には落ち着かなそうに、そわそわしたラティがいるはずである。

 部屋の外ではクロウとシオンが待っていた。


 私が出てきたのに気づいたクロウが、


「どうだった?」

「上手くいったかも。とりあえず、ラティをけしかけてきたから後は結果を待つだけです」

「よし、これでクエストをまた一個クリアだな。後は、幽霊のミリアの探しものか……」

「あ、それなんだけれど、一個くらいクエストをクリアしなくても大丈夫だったりしないかな?」


 そう私が提案するとクロウは黙ってから、


「確かに1つクリアしなくてもクエストには大体の場合時間制限がないから、それも手ではあるが、ただ……」

「ただ? その分最後の方で更にきついクエストが来る可能性がある」


 それは普通に考えてそうだろうなという気がしたけれど、私はそこでクロウをじっと見つめた。

 クロウを魔王にはしたくないし、だったらこれからも今まで通り、ほのぼのと旅を続けたい。

 それは多分クロウだってそうだろう。


「うん……でもまずは、やりやすい物から手を付けてこなしていこうよ」 

「……そうだな。それもいいかもしれないな。時間ならまだあるし。リゼルとシオンも構わないか?」


 そこでクロウが話を振ると、事前に私が二人に話していたのもあってかすぐに頷いてもらえた。

 これでこの辺りの問題はクリアした、そう思っていた所でメノウがやってきた。

 だが様子がおかしい。


 ブツブツ何かを呟きながらこちらに来ている。


「あのメノウさん、ラティは説得しておきましたので普通に接してください」


 と、私がお願いしたけれどメノウはくるりとこちらを向き、そこでくにっと首を横にまげて、


「普通、普通ね。というか本当にラティは私のものになるのだろうか」

「何で今度はメノウが拗らせているんですか」

「いや、口説き方に問題があったのだろうかと先ほど、ここ三年分の日記帳を読みなおしていたのだが、この何処に好かれる要素があるのかと」

「え、えっと、でも普通に口説きましょう、今なら成功しますから」

「そうかな、かな。ふはは」


 といったようにどう考えても大丈夫じゃない様相で、部屋に入っていった。

 ぱたんと扉が閉まれば中の音が聞こえない。

 それから数分後……はっとしたようにクロウがその扉を見て、シオンもその扉を凝視する。


 どうしたんだろうと私が思ってみているとクロウは苦虫を潰したような顔になり、


「……そうか。そうだな。“勇者”のための物体がイズミの側にあればそれが影響して、そして後は、魔王側に偏るような意識の変換があれば十分だったということか」

「ク、クロウ、どうしたの?」

「メノウはつい、素直にならなかったという事だ」

「! 何をやったのですか!」

「さあな。おかげで俺もそちら側に引きずられそうだ。引き金になってしまった。……これも計算通りか? だが剣も揃っていないから俺も不完全なはずか」

「クロウ、何の話?」


 私は嫌な予感を覚えて問いかける。

 そこで、クロウが困ったように笑ってから、


「ごめん、俺、魔王をしないといけないようだ」

「え?」

「イズミとは絶対に敵対したくなかったけれど、ここにイズミが現れたってことはそう仕組まれていたってことだな」

「クロウ?」

「はあ、全く、記憶を封じられた状態でも俺の好きなイズミのままなのは、困ったよ、本当に……愛してる」


 そう、クロウが私に告げると共に唇を重ねて……何かが私の中で解けるのを感じて、そこで私は意識を失ってしまったのだった。


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