私の事が好きなんだろうか
鳥の鳴き声に目を覚ました私は、何だか気持ちいいなとしばらくその状態でいた。
誰かがそばにいるが心地よい朝のまどろみの中で私は、思考を放棄した。
そしてそのまま再び最高の二度寝へと走ろうとした所で、誰かが私の側で起き上がるのを感じた。
と、ゆさゆさと体を揺さぶられて私は、はっとして目を覚ました。
側には私を優しげに見ているクロウがいる。
昨日のメノウの言葉が私の脳裏によぎる。
クロウは私のことが好きらしい。
他の人達から見てもそれは当然であるそうだ。
ど、どうなんだろうと私は恐る恐るクロウを見上げると……クロウがにやっと意地悪く笑った。
「ナンダソノモノホシソウナカオハ、オソウゾ(棒)」
「! え、ええ!」
「……冗談だ。今日は妙に反応がいいな。……さて、ちょっと俺は外に出てくる」
「? どこに行くの?」
「いや、普通に空気を吸いに。ちょっと思う所があってな」
そう言ってクロウは私の頭を子供のように撫ぜた。
なでられるのは何となく気持ちがいいきがして、でもすぐに私は思い直した。
「子供扱いするな!」
「じゃあ大人と同じ扱いをするぞ?」
「よし、それでいい!」
「……はあ、これだからイズミは」
「何だその溜息をつくような言い方は、むう」
「いや、分からないならそれでいい。それじゃ、ちょっと歩いてくる」
そう言ってクロウは部屋から出て行ってしまった。
なんなんだ一体、まったく、これだからイズミはなんていうこと無いじゃないかと私は思う。
そこで一度背伸びをしてから、先程から存在感なく私達の様子をじっと伺っていたような、リゼルとシオン、そして幽霊のミリアに私は目を移した。
「何か言いたいことがあるなら私に言うように!」
「いや、別に」
リゼルが私からさっと目をそらして、他の人達も何も言わない。
酷いと私は思いながら、そこで私は今の状況に気づく。
クロウだけがいない。
そして昨日メノウから色々な話を聞いたばかりだ。
よし、と思って私はリゼル達に、
「実は昨日の夜メノウと話していたんだけれど……」
といって昨日の話を他の人達に告げるとそこで幽霊のミリアが、
「私の探しものにそのような事情が」
「うん、なので後回しにしていいかな? このクエスト」
「そうですね。“魔王”になられても困りますしそれに、今の状況にも私はそこそこ満足していますしね」
「そうなんですか?」
「うん。その目的のものの場所がきちんとわかっていれば私としては問題ないかな。私も今の時代が楽しくて仕方がないしね」
ミリアが明るくそういうのを聞きながら、そういえば美少女なミリアは男たちに引っ張りだこなのを思い出した。
これがいわゆる逆ハーレムというものなんだろうかと私が思っていると、
「でも後は普通に楽しむだけね。ここの屋敷で働いているメイドさんと最近、仲良くなってね。薄い本の話で盛り上がっているから、しばらくこのままな方がいいなって思っていたのよね。目的のものを見つけると、以前よりも成仏しやすくなっちゃうし」
「確かに未練がなくなるから……あれ、薄い本?」
「……(ニコッ)」
ミリアが微笑んで誤魔化した。
だが、女性用の薄い本というと……私はそれ以上考えないことにして、そこでリゼルが、
「だが、クエストを一つ失うことになるけれど大丈夫なのかな?」
「分からない。それに関してもクロウに聞かないといけないけれど、どうやって説明しようか悩んでいる」
「そうだな……もう少し探して、これだけ探して見つからないなら長期戦になりそうだ、という話にして、姉さん達の恋愛クエストの方をどうにかするのはどうだろう?」
「いいかも、リゼル冴えてる!」
「ふ、私にとってこの程度は造作も無いことだ!」
と言ったリゼルのドヤ顔を見ながら私は、手を叩く。
確かにこの方法なら時間稼ぎができそうだ、そしてクエスト一個やらないか後回しに塩てその間に解決策を探ればいい。
そこでふと、先程からずっと珍しくシオンが黙っているのに私は気づいた。
しかもとても難しそうな顔をしている。なので、
「あの、私の今の話に何か問題があったでしょうか?」
「ん? いや、問題はないよ。……ただ危うい状況だなと思っただけです」
「そうですよね“魔王”ですからね」
「……ええ。私もリゼルとのこの状況が楽しい部分もあるので、それが崩壊するのは望ましくありません」
そう答えたシオンにリゼルが目を輝かせて、
「では、シオンが私のお婿さんに……」
「やはり気のせいだったようです。リゼル、これからは私の手助け無しで頑張ってクエストを攻略してください」
「いやぁあああああ」
涙目でシオンに抱きつくリゼルを見ながらこの二人は本当に仲がいいなと思う。
感じとしては、主従なのだけれどシオンがお兄さんでリゼルが妹みたいだ。
そう私が考えた所で、昨日言われたメノウの言葉を思い出す。
クロウが私を好きだろうことは他の人達にとっても当たり前の事だと。
そんなことはないと思う。
だってクロウは優しいけれどそんなふうには私にはなかなか思えない。
確かに私は、クロウは嫌いではないし好きな方ではあるけれど、恋愛感情では……。
恋愛、感情、で、は。
ここですぐに否定すればいいのだけれど、どうしてか分からないが私をクロウが好きかもしれないと思うと、それ以上何も考えられなくなる。
別に好きじゃない、と思う。
そう思えばいいのに、メノウの言葉が頭の中で回る。
私は男だから好きなのではなくて、“クロウ”だから好きなのではないか。
初めての感覚に戸惑いながらも私はここで、リゼル達に聞いてみることにした。
傍から見て私にクロウは恋愛感情があるように見えるだろうか?
そうであって欲しいと思うと同時に、そうでなかったらどうしようという不安にさいなまれる。
けれどこんな風にいつまでも一人で延々と悩んでいるのは精神的にきついというか、玄人顔を合わせるたびにそんな思いが出てくるのもアレなので、
「あ、あの、リゼル」
「何だ? 何だか凄く重大なことを聞こうとしているような、イズミにしては珍しい顔をしている気がする」
「……私の事、クロウは好きなのかな?」
リゼルが沈黙した。
そしてちらりとシオンをリゼルが見て、それにシオンは苦笑した。
「全然、イズミは気づいていなかったようですね。まあ、自分の心ほど人は分からないものなのかもしれませんし、近すぎるからこそ見えないものもあるのかもしれませんが」
「えっと、その……では……」
「そうですね。私達から見て、クロウは貴方に恋愛感情があるようです」
告げられたその言葉に私は何も言えなくなってしまう。
まさかそんなという気持ちと、嬉しいという気持ちと、どうしようという気持ちが混ざって混乱してしまう。
私は今、どんな顔をしているのだろうか?
顔が熱くて仕方がない。
他のことを考えて落ち着こうと私は思って、そこで、メノウが別のことを言っていたのを思い出した。
「そういえば私、昔、クロウと会っていたようなのだけれど、私には全然記憶が無いんだよね」
私の言葉にリゼルが首をかしげて、
「そうなのか? でもだったら、クロウとイズミが何となく仲がいい感じなのも納得しそうだ」
「? そうなの?」
「うん、私達が一緒に旅をし始めの頃のクロウは、今よりも周りに興味が無い感じで、厭世的いたから」
クロウの事を思い出してみた私は、あれ、と思う。
別にそんな感じではないというか、クロウは普通な気がする。
あ、でも、ゲームをやりたがっている当たりは、クエストに対してやる気の無さが際立っていたような気もしなくはない。
何だかあまりクエストをしたくなさそうな感じ。
そこでリゼルが、
「まあ、自分がなりたくない“魔王”になるかもしれないクエストは嫌だろうな。それにイズミが気に入っているなら、そんなイズミと敵対することになりかねないし」
「あ……そういえばそうだ」
「案外、イズミが好きだからこのクエストには乗り気でなかったりするのかな」
リゼルがそう呟いて考え始めてそこでシオンが、
「そういえば、リゼルの家宝である剣、クーゲルシュトライバーは勇者の持つ伝説の剣でも有りましたね」
「……伝説の剣が真っ二つ」
「人類の技術の進歩は、素晴らしいということなのでしょう。勇者ように神様がくれた剣を真っ二つにするくらいですし」
そこは技術進歩と言っていいのだろうかと私は思った。
明らかにリゼルの管理ミスである。
と、そこで私達が話しているとメノウが食事に呼びに来たのだった。
朝食に呼ばれて私達が向かうと、そこにクロウも来ていて、ラティがいなかった。
とりあえずは隣り同士の席に座った私達だけれど、私は妙にクロウを意識してしまう。
そんなこんなで今日の朝食はフルーツヨーグルトとハーブ?で焼いたチキン、そして花のサラダだった。
山盛りに盛られた花を見てから私はクロウ達のメニューを見る。
普通に緑色のレタスなどが盛られたサラダだ。
女の子なら喜びそうなそれを見ながら、チーズ風味のドレッシングらしきものが花の周りに模様を描くように乗せられるのは素晴らしいと思うのだけれど、
「あの、私だけどうして花なのですか?」
「ああ、確かイズミは酒に弱かったから、お酒の成分が少し入っている本日のサラダを急遽、花のサラダに変更した」
メノウからの気遣いであったらしい。
確かに先日の八十年前のフルーツケーキでは恥ずかしい思いを私はした。
洋酒の効いたそれはとても美味しいものではあったけれど、あの後の記憶が無い。
それを考えれば気を利かしてもらえたのでありがとうというべきなのかもしれないけれど、
「……こんな子供っぽいものを食べるなんて」
私は目の前の淡いピンク色の、マーガレットのような花をフォークの先でツンツンする。
花を食べる食文化があまりないので(せいぜい、菊や刺し身の上のたんぽぽ?、スミレ)みたいなものしか知らない。
私がそう陰険にサラダとにらみ合いをしているとクロウが、
「いいじゃないか。可愛いイズミには似合っていると思うぞ?」
「か、可愛いってなんだ!」
「ちなみにその花のサラダはとても美味しい」
「ぜひ、食ベさせて頂きます」
美味しいと言われてしまっては、食べるしか無い!
というわけで早速赤い花を口に入れてみると、
「プラムみたいな味がする、甘酸っぱくて美味しい! こちらの黄色いのは、パイナップルみたいな味だ」
口に含むとその花々は、私が知っている果物のような味がする。
美味しい、凄く美味しい。
そう思って夢中で食べているとクロウが私を優しげに見ている。
なんだか最近そういうことが多くないかと私が思っているとそこでクロウが小さく、
「……こんな時間が続けばいいな」
「クロウ?」
「何でもない。それよりも一口味見をさせろ」
「いいよ、どれ?」
そう聞くとピンク色の花をクロウは指差したのでそれをフォークでとる。
先ほど食べたがこれはスイカのような味がした。
そしてクロウに食べさせると美味しいと言われて、私も嬉しくなる。
自然と笑顔になっていたのかクロウが、
「何でイズミが嬉しそうなんだ?」
「クロウが美味しいみたいだったから」
そう答えるとクロウは苦笑した。
そんな私達を見ていたメノウが、私達に、
「今日の予定はどうするのかな?」
「ミリアの探しもののお手伝いをしてから、今日見つからなかったらラティとメノウの関係を取り持とうかと」
「そうか。調度良かった」
「良かった?」
「実は、ラティをちょっと怒らせてしまってね」
「……何をやったんですか。まさか、ラティが嫌がるのを無理やり押し倒して……」
その私の台詞に、リゼルがサラダを吹き出しそうになって、慌てて飲み込んでいるのが見える。
そしてリゼルもメノウを不安そうに見ている。
やはり実の姉だから心配なのだろう、そう私が思っているとメノウが、
「いや、実は試しに素直に告白して口説いてみたら、私の部屋に引きこもられてしまって」
「……そうですか」
「一応朝食は屋敷のメイドに運んでもらったけれどね。私以外には扉を開くようだから、後で少し相談に乗ってもらえないだろうか。でないと私は今日も廊下で寝るハメになる」
冗談めかしてメノウがそんなことを言って、なので私達は、
「探しものをするよりもまずラティの様子を見たほうがいいね。ミリアもいいかな?」
直ぐ側を漂っていたミリアが、いいですよ~、私は屋敷のメイドさんと世間話をしてきますから、と答えている。
そんなこんなで、探しものをする代わりに、まずはラティから話を聞こうということに。
けれどこの時はまだ、まさかあんな事になるなんて思わなかったのだった。
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