本当は覚えているんじゃないのか
クロウの体温が温かい気がして気持ちが良い。
これって何だろう、懐かしい気がするなと私は思う。
なのに何処かにやってきて私を下す。
ふかふかな感触。
ここはベッドみたいだと私は思って、きっとそうなのだろうと思う。
だってクロウは、
「“優しい”ものね、クロウは」
「……たまに本当は覚えているんじゃないかって期待する事があるな」
「何が? にゃあぁ」
そこで頭を撫ぜられる。
それが気持ち良くて私はしばらくにゃあにゃあ言っていた。
クロウに甘やかされるのは何時も気持ちが良いと思う。
そこでクロウが何かを取り出して私の頭につける。
「ふむ、確かにこれで“猫”だな」
「にゃ~ん、うにゃ? 外してやる」
「だめだ。つけていたら今日は抱きしめて寝てやるぞ」
「分かった~」
誰かに抱きしめられるのは気持ちが良いというか安心するというか。
その相手がクロウだと、私は妙に気持ち良くなる。
何処か懐かしい感じがするのだ。
そう思っている内に私の意識はすうっと深い眠りへと誘われたのだった。
眠ったイズミを抱きしめながら、クロウは苦笑する。
「どうしてこんなに落ち着いているんだ。もう少し警戒しろ」
呟きながらも、今のイズミにとってクロウはただの異世界人でしかない。
だからクロウがイズミにどんな感情を抱いているか気付かないし、イズミも……。
「全く気付かないで、こちらの気持ちなんて知りもせずに無防備にくっついてくるのも、問題だな」
そうクロウは呟いて抱きついてよだれを垂らしながら気持ち良さそうに眠っているイズミの額をツンツンした。
瞼が小さく動いて、むぅっと呟くイズミ。
クロウは、どうしよう、これも可愛いかもしれないと思った。
そこで部屋のドアが開いて、
『こんばんは~、お邪魔でしたか?』
「いや、特に何かをしようとしたわけではないからな」
現れた幽霊のミリアにクロウがそう答えると、ミリアは楽しそうに笑い、
『それは良かった。でも懐いていますね』
「そうだな。俺が勘違いしそうになる」
『勘違いして襲っちゃえばいいじゃないですか~』
「生憎そこまで追い詰められていないから、そういった気にはならないな」
『大事にしていますね』
「……そんなに俺は大事にしているか?」
『何となくそんな感じがします』
「その程度なら構わないか。でないと……捕まえてしまいそうだ」
そうクロウは思いながら寂しげに呟く。
そんなクロウにミリアが、
『……私の探し物はしない方が良さそうですか?』
「本当はそうであってほしい。でもクエストだしな。……そのペンダントにイズミが触れなければ十分だ」
『そう言えば指輪も何ともありませんでしたね。なるほど』
「まあ、魔物との戦闘よりは安全だろう」
クロウがそう答えるとミリアが、
『確かにイズミは弱そうですから。剣も重くても手なさそう』
「イズミの武器はトゲ付き鉄球だ」
『トゲ付き鉄球ですか。悪役みたいですね。悪役になりたかったのかな?』
「イズミは勇者になる予定だったからな。なのにその武器が適正か。確かその武器の適性は……無意識の願いに起因するはずだが、まさか、な」
クロウはそう、一蹴する。
だってイズミが何かを覚えているはずがないのだから。
だからこれからもクエストを頑張って普通の仲間として過ごして……イズミを元の世界に戻すのだ。
だからクロウは、自信を魔王に定義付けしないように気を付けないといけない。
「あのジジイも何を考えているのか。いや、俺が怠惰だったのが本当はいけないんだろうな」
クロウはそう呟いてから、黙ってクロウを見ているミリアに、
「俺ももう寝る。お休み」
『おやすみなさい。良い夢を』
その言葉を聞きながらクロウは、今だって“いい夢”の最中だと思ったが、それ以上は答えなかったのだった。
部屋にやってきたリゼルとシオンが、クロウ達の様子を見て、
「この二人、やっぱりそういう関係なんじゃ」
「そうですね。でも異世界人ですからね、イズミは」
「……世界の壁なんて越えてしまえばいいんだ」
「相変わらず、リゼルは無茶を言いますね。でも、案外越えてしまえるかもしれませんね。……私も、きっと、そのおかげで今こうしてリゼルの傍に居られるのでしょうしね」
「? 何を言っているんだ?」
リゼルがそう言ってシオンを見上げて聞くと、シオンは小さく笑って、
「何となく自分には、“役割”があった様な気がするのです。でも、今こうしてただ、クエストという目的があるにせよ、穏やかにリゼルと一緒に居られるのは私にとっても幸せな事だなと思っただけです」
「……シオンが納得しているならそれでいい」
リゼルの言葉にシオンは小さく笑う。
きっとこの時間が誰もが望む幸せな時間の様な気がするから。
だからこのまま、穏やかに過ぎていけばいいとシオンは思いながら、リゼルと一緒にベッドにもぐりこんだのだった。
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