魔王の裏事情
花の香がするこの場所。
真上の空は深い紺色に彩られて沢山の星は輝いているけれど、まだ地平線の側はオレンジ色に染め上げられている。
そんな時間にやってきた花畑は、暗くてあまり楽しめないかなと思っていたけれどそんなことはなかった。
「白い花が光ってる。しかも粒みたいな光が周りに飛んでいて、すごく綺麗で明るい!」
一面の白い花が光り輝いていて、その光景は圧巻だった。
さすが異世界、そう私は思って周りを見ているとそこで気づく。
「赤く輝く花ってどれなんだろう?」
「他よりも薄っすらと赤く色づくのが“赤釣鐘の草”だったはずだ」
クロウの言葉を聞いて赤っぽく輝いているのを探すけれど……何処か薄くピンク色にどれも輝いている気がする。
周りを見回して見るだけでなく側に近寄りじっと見つめて見るも、やはり薄くピンク色にみえる。
これ以上に赤いものがあるのだろうかと思いつつそこでリゼルが、
「どれも青白く光っているから、赤っぽい花はすぐ分かるはずだ」
「え、私にはどれも赤っぽく見えるよ?」
「……異世界人は何かがおかしいんだろう。今回は役に立ちそうにもないし、イズミは花畑を見て回ったらどうだ? 魔物に遭わないようにだけ気をつけて」
「う、そうさせてもらう。できるだけ皆の側にいたほうが良いよね」
そのほうが魔物の攻撃を受けた時にも、対応できそうだしと私は思う。
なので皆が探している間私はこの花畑を見ながら空を見上げる事となった。
ちなみにここまでの案内役のメノウは、馬車で待っているそうだ。
そんなこんなで私は花畑を走り回る。
走る度に花が揺れて、鱗粉のような光が浮かび上がるのだ。
それが綺麗なので円形状にくるくると走って輪っかのような光を出してみたり遊んでいる。
だが途中でそれも疲れているというか罪悪感を感じて、立ち止まり空を見上げた。
色とりどりの星と金色の月が見える。
今にも降ってきそうなくらい沢山輝いていて、そんな空を見上げる私に風が花の甘い香りを運んでくる。
夜だから風は少し冷たいけれど、清々しさを感じた。
「気持ちが良いな」
「イズミ、もう少し先に行くぞ」
私はクロウに呼ばれて、気づけば皆から離れてしまったのに気づく。
だから慌てて走って近づこうとして……気づいた。
私のすぐ近くに、薄い赤どころか真っ赤に染まった“赤釣鐘の草”? かもしれないものが見える。なので、
「おーい、クロウ、皆~、ここにあるよ~!」
そう私は叫んでその赤い花に手を伸ばそうとしたけれどそこでクロウがはっとしたように、
「イズミ、それは違う!」
「え? って、ええ!」
そこで周りの地面が浮き上がったかと思うと、根っこのような太い蔓が私の腕に絡みついてくる。
体がしびれるような変な感覚を私が覚えて、焦って……そこで、クロウの声が聞こえた。
「イズミを放せ」
今まで聞いたことがないような、冷たいクロウの声。
途端にパタリと蔓が力を失ったようになって、私から離れてズズズと地面に沈んでいく。
けれど私は体がしびれているのでそのまま倒れそうになっていると、クロウに抱きとめられた。
「どうした? イズミ」
「体に何だか力が入らなくて、いたっ!」
そこで額を軽くクロウに弾かれる。
少し痛かったので恨めしく思いながら私はクロウを見上げると、
「痺れを取ってやったんだから感謝しろよ」
「あ、そういえば大丈夫かも」
「大体、イズミは無防備すぎるんだ。魔物と言ってもいろいろな種類があって……まあいい。俺が気をつければいいだけか」
「あの、今の魔物は私、どうされるところだったのでしょうか」
何となく含みのある言い方のクロウに私は聞いてみたが、
「R18にぎりぎり引っかからないくらいの展開かな。エロ的な意味で」
「……」
「魔力を吸う魔物だから、体を丁寧に撫ぜ回されて、夜行性だから日が昇る頃には開放してもらえるだろうな」
「……気をつけます」
「そうしろ。だが一応は魔力が抑えられているとはいえ、魔物は俺の言うことは聞くのか」
なるほどと頷くクロウを見ながらそこで私は、
「神様の卵だから言うことを聞くのかな?」
「いや、元々は魔王として君臨するかもしれなかったんだ、俺が」
「え? なんで神様の息子が悪役?」
「いや、神様をやるのに、悪役の魔王も同時にこなして世界のいろいろな側面を見てみようというのもあったんだ。それに人間たち側も試練を望む場合もあるし」
「そうなんだ。でも、あれ?」
「そう、この世界は“経済”優先で、俺は要らなくなったんだ。だから楽ができると思ってゲームをしたりしてゆっくりしていたら……ボランティア精神が云々かんぬんで、ここに放り込まれて、世界の調整というかクエストをすることになった」
何処か遠い目をして告げるクロウを見ながら、そうなのか~、と私は思った。
そして、そんな私にさらに続ける。
「一応は魔王用の城も作ったんだよな。使っていないが」
「へ~、お城。一度行ってみたいかも」
「そうなのか? だったら……そのうち、連れて行ってやるよ」
最後の方になにか含みがあった気がするけれど、クロウの様子は何も変わらない。
そこで、リゼルが手を振っている。
「おーい、ここにあるのがそうじゃないかー」
そんなリゼルに向かって私達も走っていく。
と、リゼルの背後で黒い影が現れたのだった。
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