Act.6 温泉女子会
お風呂はお菓子屋さんの所から少し離れたところにあった。中はどうなっているんだろう?
「さっ、ついたわよぉ」
「中って大体どの位の広さなんですか?」
白の暖簾を潜り、竹張りの一本道を進む。
「そうねぇ。大体1000ジョット(※1000畳程)ぐらいになるかしらぁ?」
「せ...」
絶句である。一人1ジョットとして考えても1000人...ひっろ。
「設備みたいなのはどうなってるんですか?」
「凄いわよぉ。あそこに一日中居たいっていう人もいるぐらいだしぃ」
聞けば聞くほど作り話みたいになってくるなぁ...どんなのなんだろ。帳を潜って中に入っていく。広がっていたのはー
「わぉ...」
「どぉ?お気に召したぁ?」
「どうかしてますよこれ...」
何この途轍もなく広い更衣室...櫛が置いてあるカウンターの前には値がそこそこ張るはずの鏡が壁一面に張りつけられていて、女の人たちが髪を梳かしている。
私たちは個別ロッカーの一つへ向かっていく。
「すごいでしょぉ」
「これ見て凄いって言わない人は正直どうかしてますよ...」
正直言ってここだけで私の実家より広いかもしれないなぁ...うちもそんなに貧乏なほうではないと思うんだけどなぁ...
着々と服を脱いでいって、タオル一枚になった。そこで、ドゥーシャさんから声を掛けられた。
「ヒナカちゃん、ここは他と違ってちゃんと体を洗ってからじゃないと入っちゃだめよ」
「わかってますよ。ある程度のマナーは弁えているつもりです」
「ならよかったわ。最近はそのマナーすら知らない娘も多いからねぇ。ちょっと注意したくなっちゃうのよぉ」
そんなこともあったんだ。まぁ、気持ちよく入るためにはちゃんとマナーは守らないとね。
精巧なオブジェが飾ってある石造りのアーチを潜り、お風呂場へと入っていく。禊場はどこだろ...
あった。うわぁ、けっこう人入ってるなぁ。
「こっちよぉ。ついてきてぇ」
「?」
人ごみをかき分け、少し開けたところに出る。
「こっちは人が多いから別のとこ行きましょ」
「他の所...?」
「そうよぉ。けど、あそこは私がいないと入れないわねぇ。ついてきて」
会員じゃないと入れないところみたい。ラッキー。ちょっと歩いたら目的の所についた...らしい。
何か凄い形してるなぁ...主に入り口が。蛇が二匹交互に絡み合っているオブジェが扉についている。ここなの?ほんとに。
「ささ、はいってはいってぇ。あ、こっちは私の連れよぉ」
誰と喋っているんだろう?ドゥーシャさんに導かれ、ちょっと期待と緊張感を持ちながら入っていく。
「ちゃっす」
「ぐーてんあーべーんと」
「あ、お久ぶりです。姐さん」
三つの声が調和し、一種の音楽と化す。
「あら、いたのねぇ。あ、ヒナカちゃん、こっちは私の友達。皆割と強いわよぉ」
「えー、割とってなんですかぁ割とって。こう見えても結構頑張ってるんですけどぉ」
最初に声を上げたのは、銀髪の女性だった。一房だけ朱く染めてある髪が、存在感をより強いものへとしている。
「あ、ども。自分、レオナ・リーゲンって言います。盗賊やってまっす。あと、ランクは最近Sに上がったばっかのひよっこっす。よろっす」
軽めの口調。右手を直角に上げ、額に手を付ける仕草をする。
「こんにちは。私、ランクD冒険者のヒナカ・S・ヴァイサイトです。武器は軽弩弓を使ってます。皆さん、よろしくお願いします。」
「おぉ、礼儀正しっ」
「レオ、あんたがそうじゃないだけよ。こんにちは、ヒナカさん。私はこのパーティー、「神腕の戦乙女」もとい、ゼルク・ヴァルキリエでリーダーをしている、リェーレ・イベリスです。今後とも、宜しくお願い致します」
次に口を開いたのは、気品あふれる声の茶色掛かったブロンドの髪を持つ女性だった。おそらくこの人がリーダーだろう。
「よ、よろしくお願いしますっ」
「ほら、次はあなたよ、イリ」
最後に口を開いたのは、緑髪を短めのカールにした、少し背の低い女性だった。
「...イリ。イリス・サイネリア。...ランクS。...木蘭魔法使う。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「最初にも言ったけど、あの娘たち、割と強いわよぉ。」
ドゥーシャさんの言うとおりだ。メンバーの人数とこの特徴からしてあの、「ゼルク・ヴァルキリエ」だもん。ランクS最強と謳われる女パーティの。こんなの滅多にない経験...ッ!!やったっ!
「さ、早く身体を洗ってお風呂に入りましょっ」
「はい...!!」
わしゃわしゃわしゃわしゃごしごしごしごしぱちゃぱちゃぱちゃぱちゃ
ふと自分の胸に目を落とす。
チラッ
「むぅ...」
何故人の体はこうも理不尽なのだろうか。不平等だ。うう、うらやましぃよぉ...
ぽんっ。振り向く。
「...大丈夫。世界は...理不尽。ぐっ」
「イリスさん...」
あぁ、私と同じ眼をしている...仲間だぁ...
「あらぁ?イリスじゃなぁい。なにしてるのぉ?」
髪を洗う手を止め、イリスさんのほうにむき、質問を投げかける。
「なんでも...ない。ちょっと...喋った。それだけ」
「なになにぃ~?情熱的な夜へのご招待~?」
「...大丈夫。姐さんじゃ...無理」
そういった途端、魔力が少し動き、イリスさんの姿が掻き消える。
「んなっ...!?ちょっ、待ちなさぁい!!...もう、いつもあの調子なのよぉ。あの娘には気を付けてねぇ。悪戯好きなのよねぇ」
「あ、いえいえ。全然大丈夫でしたよ。というか全然仲良くなれそうな気がしますよ」
「ならよかったわぁ」
うん...ほんとに。ナカヨクナレソウデス。ぐすっ。
さて、身体も洗い終わったしお風呂行こうかな?ドゥーシャさんもちょうど洗い終わったみたいだし。
「さ、お風呂入りましょ。ここはね、露天風呂が最高なのよぉ。一緒にどぉ?」
「もちのろん、ですっ」
「じゃ、決定ねぇ。それじゃ...っと。いけないいけない。忘れものだわ。ちょっと待っててねぇ」
「あ、はい」
何を忘れたんだろう?何か大事なものかな?もしくは結構几帳面だったりして。あ、帰ってきた。じゃ、行こうかな。
「わぁ...!!」
「すごいでしょぉ」
綺麗...!!月と湯船の周りの植物が幻想的な雰囲気を醸し出していて、凄く手が込んでいる建築だっていうことが良く分かる。けど、何処の建築様式なんだろう?こんな建築様式、大陸じゃ見たことない...
「ここはねぇ、ここのマスターが極東の職人を雇って3年かけて作った露天風呂なのよぉ」
「......」
「ヒナカちゃん?」
「あっ、はいっ、...すいません、景色に見とれてて話聞いてませんでした...」
「ふふっ、それだけここが綺麗だった、ってことでしょぉ?それなら管理人も喜ぶわぁ。あ、さっきの話だけどぉ、ここは、ここのマスターが極東の職人を雇って3年かけて作った露天風呂、っていうことよぉ」
「へぇ...極東の職人かぁ。一回会ってみたいなぁ...」
「あら?ヒナカちゃんってもしかして話分かるひとぉ?」
「祖父が昔建築士をやっていてその影響で...本職の人達に比べたら大したことないですけど、それなりに理解できる自負はあります」
嘘です。すっごい好きです。今ちょっとはしゃぎたい位喜んでますぅ...
「へぇ~。そうだったのねぇ。面白いわねぇ、ヒナカちゃんって」
「そんなことないですよぉ。たまたまです、たまたま」
ドゥーシャさんに連れられて、ゼルク・ヴァルキリエの皆さんと一緒に端っこの絶景スポットに来た。うわ綺っ麗...
「すごいですねぇ」
「だろー?実はここな、景色を変えられるんだよ」
けらけらと笑いながら、レオさんが話しかけてくる。
「?」
「あっ、それ私が言おうとしてたのにぃ」
「えっ?まだ言ってなかったんすか?姐さん」
「そうよぉ、後でのお楽しみ、って言ってたのよぉ。けど、まぁいいかぁ。ヒナカちゃん、ここはねぇ、大型移動式娯楽施設なのよぉ」
......はぁ?移動式ぃ?この巨大な施設全部?いやいやいや、そんなはz
「マスターが元ランクZ冒険者さんでねぇ、ヴォレットだったこともある人なのよぉ。その膨大な魔力を使ってこの移動式娯楽施設を作ったのよぉ」
「は...?ランクZ...?お名前は...?」
「当時の通り名だとぉ、白銀の科学者、だったかしらぁ」
「如何にも。私が白銀の科学者、テルル・エディントンだ」
......ランクTに続き元ランクZ...しかもヴォレットだった人...はぁ、この温泉はどれだけの出会いをくれるのだろうか。
しかも、テルル・エディントンと言えば、彼のガロイル戦役で一個大隊で敵の一個師団を殲滅した指揮官じゃん...引退してたんだ。
「あ、マスター、久しぶりぃ」
「うむ。久しいな、アンネ。レオ、リエ、イリ、そっちはどうだ?」
「ご無沙汰してます、マスター。先週ようやくレオがパスしましたよ。長かったぁ...」
「ようかくか。やっとやる気を出したか、レオ」
「んもぉー、ようやく、って感じっしたよー。試験官の人と仲良くなっちゃうぐらい受けましたもん」
「はは、それは災難だったな。ま、『Vergeltung für eine begangene Taten』、といった所だろうがな」
「なんすかそれ?」
「すまんすまん。悪い癖だ。意味は、自業自得、っていった所だな」
「ひどっ」
「それで、そこの若人は?」
「わ、私、ランクD冒険者のヒナカ・S・ヴァイサイト、といいます。よろしくお願いします」
「ふむ...ヴァイサイト......?」
「?」
「ぬ、いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
なんだろ?私の|ラストネーム(苗字)で何か考えていたけど......?
ぴくっ、と、テルルさんの眉が吊り上がる。
「む...少し面倒な輩が入り込んだようだな」
「?」
同時投稿の意味を察してください...w