Act.5 和やかなティータイム
「ふんふふーん」
「...」
もう、かれこれ10分ほどは歩いたかな?私の目的地に着いた。
「...着いた」
少し素っ気無く話してみる。
「あら?もしかしてお風呂を探していたのぉ?」
「そうですが?」
「なぁーんだ、それなら先に言ってくれれば良かったのにぃ...私も入ろうと思っていたのに...」
げ、こんなところまでは一緒だったとは...なんか拗ねちゃってるし...仕方がない、少し待とうかな。
「良かったら待ちますけど?」
「...いいのぉ?」
何処か疑うような、だがそれを打ち消すほどの可愛らしさを含んだ声が耳朶に届く。
「...はい」
「やったぁ!すぐ取ってくるわね!!」
そういって何か力み始めたけど...なんだろ?
「はっ!!」
「は?」
思わず声が重なる。何かすっごい風が吹き荒れてるんですけど...?だが、瞬きをした時にはもうおらず、再度瞬きをしたら、ブロンド美人さんがまたそこに居た。
「ふぅ、ちょっと急ぎすぎたみたいねぇ。ま、いいかっ。さ、お風呂に行きましょっ」
「あ、はい...」
気が動転して外行き用の口調が一瞬元に戻っちゃった...何者なの?この人...
*
さて、お風呂を遠目から見つけたのはいいんだけど、どうにも入り口らしきものが見当たらないなぁ...
そう思い、女冒険者の人に聞いてみる。
「女冒険者さん、このお風呂の入り口ってどこですか?」
「あらぁ、そんな長ったらしい呼び方じゃなくてもいいわよぉ。私の名前はアンネ・ドゥーシャ、よ。アン姐さんかドゥーシャとでも呼んでちょうだい」
ランクT...!!こんなところで出会えるなんて。こんな格上の人だから、自己紹介くらいはしておかなくちゃ。
「どうも。私はヒナカ・S・ヴァイサイト。ランクはDで、軽弩弓を使っています。よろしくお願いします」
「よろしくねぇ。その才能、どこまで伸びるか楽しみだわぁ!」
「?」
「期待してるわよぉ。ささ、お風呂お風呂ぉ」
何だかよくわからない人だなぁ...まぁいいや。私もお風呂にはいろっと。けど肝心の入り口はどこなんだろう...?
「マスタぁー?私よ、開けてー?」
ドゥーシャさんが大きな岩壁の前で、誰かに話しかけるような素振りを見せる。途端、少し荒そうな声音の女性の声が返ってきた。
〔あぁ、お前か。その連れは?〕
「この娘はぁ、ヒナカちゃんよぉ。私と同じ冒険者よぉ。この娘も入れてあげてねぇ?」
ちら、と私のほうを見る。
〔分かった。後で私のところへ寄って行け。そこで許可証を発行してやる。よろしくな、ヒナカさんよ〕
「あっ、はい。よろしくお願いします」
「また後でねぇー」
今のは何だったなんだろう...念話かな?まぁ、何よりお風呂に入れる。けどやっぱり入り口はー
シュゥゥン
崖から岩が消えたーと言っても、恐らく幻術の類なんだろう。たぶん向こうで何かしらの操作をしているのかな。
「ささっ、入りましょう」
「はい」
中はこざっぱりとした通路になっていて、壁際にはランタンが吊るされている。お洒落な雰囲気を醸し出していて、ここ、何かの宿...?と錯覚してしまうくらい綺麗。
「お風呂はこっちよぉー」
言われるがままにドゥーシャさんに付いていく。少し歩いたところに、なんだか人で賑わっているところを見つけた。
「あそこは?」
「あぁ、そういえばヒナカちゃんはここに来るのは初めてだったわねぇ。少し説明がてら、お茶していかない?」
ここら辺の情報も貰えそうだし、お茶していこうかなぁ...お菓子も食べたいし。
「お言葉に甘えて」
「やったぁ!それじゃ、決まりね。それじゃぁ、「ホルツ・カッツェ」なんてどお?あそこ、私の行きつけなのよぉ」
「じゃぁ、そこで」
どんな美味しいものが食べられるかなっ!!楽しみ!!
近くのテーブルについて出されたお茶を飲んでいたら、少し分かったことがある。どうもここのお店や、その周りは女の人しかいない。お客さんは勿論、働いている人も例外ではない。なんでだろう?
「ドゥーシャさん、なんでここは女の人しかいないんですか?」
「ここはねぇ、女子専用の少し特殊なお風呂、というか一種の娯楽施設なのよ」
ぐるりと辺りを見回し、どこか遠い目で語る。
「どういう風に特殊なんですか?」
「それはぁ、もう少し後のお楽しみ、ってところかしらねぇ。ところで、注文は決まった?」
「あっ、忘れてた...メニュー、取ってもらえますか?」
「はいはい~」
渡されたメニューを開くと、色とりどりのお菓子が緻密な絵になって、そのおいしさを無言で語っている。
「すご...」
思わず声を漏らしてしまった。それにしても、どれも美味しそうで捨てがたい。スニーアイスの蜂蜜掛け。ワッフルのソアンクリームテイスト。
うぅーん...迷う...そうしている間にもドゥーシャさんは注文を済ませていく。
「ヒナカちゃんはぁ?」
「私、このソアンチーズケーキをお願いします。あと、セダー茶も追加で」
「畏まりました。ご注文は以上で宜しかったでしょうか?」
給仕の服を着た黒髪の受付の女性に確認を取られる。
「それで大丈夫よぉ」
「畏まりました。少々お待ちください」
そういって給仕の女性は厨房へ消えていった。
「それで、聞きたいことってなぁに?」
「あ、はい。それで、ここが娯楽施設、っていうのはどういうことなんですか?」
行き道に商業施設や武器屋などもあった。冒険者の補給地点としてはそれだけでも十分なはずなんだけど。
「ふふぅ~ん、ここはねぇ、冒険者の意見から出来た、総合娯楽場なのよぉ。みんな冒険中は娯楽要素が一切ないことをしてるからぁ、こんな所ができたのよぉ」
確かに。冒険中は娯楽なんて一切ないからなぁ。こんな施設があってもおかしくはなかったのかな。
「それじゃあ、ここら辺のモンスター情報とかいいですか?」
「もちろんよぉ。けどここら辺はねぇ、あんまり強い魔獣が出ないのよぉ。そのせいでセーフティゾーンとか呼ばれたりするわねぇ。けどそのおかげでぇ、割と商人さんたちが寄って行ったりするのよぉ。それでちょっとした町みたいなことになってるのぉ。だから魔獣とかはあんまり近づかないわねぇ」
確かにここら周辺を移動しているときは、奇妙なほどに魔獣の気配を感じなかった。
「なるほど」
「けど、たまぁに商人を襲うゴブリンなんかが出たりするけどぉ、さしたる脅威にはなってないわねぇ」
そうなんだ。それだったらあんまり気を張り詰めなくても大丈夫そう。それじゃぁ今度はあのダンジョンのことについては何か知っているだろうか。
「ドゥーシャさん、あそこのダンジョンの噂って何か知っていたりします?」
「うーん?ダンジョン?最近は何も聞かないわねぇ。どこかでパーティーの遺体が発見された、っていうことしか聞かなかったわねぇ」
「そう...ですか...」
たぶん私がいたパーティーだ。よかった。見つかって。あのままダンジョンの中で朽ちていくなんてのはリーダーたちだって望まなかったはず。ありがとう。顔も知らない冒険者さん。
「ご注文の品をお持ち致しました」
「わぁ、ありがとうねぇ。さ、ヒナカちゃんの分よぉ」
「ありがとうございます」
私が注文したのはソアン牛の乳を使ったレアチーズケーキ。藍色のジャムが一番上に少し乗っていて、口の中に入ったらとろけてしまいそうだ。一口。
「「おいし~い!!」」
「あっ」
「うふ」
見事に一緒のことを言っていた。こんなことってあり得るのかなぁ?けどドゥーシャさんはそんなことは微塵も気にせずケーキを口に運んでいっている。私も食べよっと。
「おいしかったわねぇ~」
「ですね~」
いやぁ、本当においしかった。たぶん私が今まで食べたケーキの中では一番おいしかったかも...?
「さぁて、お菓子も終わったことだしお風呂に行きましょ?」
「そうしましょうか」
おなかも少し膨れたし、今日はいいお風呂に浸かれそうだ。楽しみっ。
予定では戦闘シーンが入ってるはずだったのに...お菓子って怖い。