Act.15 始まりの街
今回は早めっ!
俺達がライザの巨壁を視界に捉えたのは日が丁度上がりきった頃だった。
ライザの街は、高さが25mはあろうかという巨大な壁に囲まれており、要塞のような雰囲気を周囲に撒き散らしていた。
人の行き交いも多く、入場門には行列が出来ている。
「お、日向夏の嬢ちゃんじゃねえか。おかえ...り」
「はい。ただいまランクD冒険者、ヒナカ・S・ヴァイサイト、帰還しました」
一瞬門番の人に逡巡があったのは、パーティーで見送ったはずの日向夏が、一人で帰ってきたからだろう。しかし門番の人はそれ以上何も言わず、自分の仕事を続ける。
ドゥーシャやゼルク・ヴァルキリエの子達とはここで別れる運びになった。ドゥーシャは2週間、ゼルク・ヴァルキリエの子達は一ヶ月此処に留まるみたいだ。
ライザの街は中世の街並みをしていた。石造りの家の軒先に、街の人達が木を支柱に帆を張っている。ジャ〇キー・チェンがぶっ壊しそうだな...
通りには、異世界らしく多種多様な種族が闊歩していた。耳の長ーいエルフのお姉さんズや、ケモ耳引っつけた半獣人など、目を惹かれる種族ばかりだった。
しかし日向夏はそんな事には目もくれず、歩いていく。どこへ行くのかと聞いたら、冒険者ギルドに行くらしい。流石異世界。
どうやら冒険者ギルドに着いたらしい。巨大な看板に俺には読めない言語が書いてある。まあ多分冒険者ギルドとかそんな感じなんだろう。
日向夏がドアに手をかける。すると聞こえてきたのは、
「あっ、はぁあん、そこっ、そこぉお!!」
「イクっ、イっちゃうのぉおぉ!!」
...どうやら違う門を開けてしまったらしい。日向夏が何事も無かったかのように扉をそっと閉める。お兄さん見ましたよー?にしてもあれって娼k(ry
とまあそんな感じで些細なハプニングが有りつつ、冒険者ギルドに到着した。外は堅実な造りで、ログハウスのような造りだった。規模は段違いだけども。
今度はちゃんと日向夏が看板を確認し、扉に手を掛ける。出迎えたのは柔和な声の持ち主だった。
「あ、ヒナちゃんだ。お帰り。手続きと報酬、よろしくね」
声の主は受付の女の子だった。茶のセミロングを清楚に纏め、日向夏と同い年かそれ以下に見えた。
「あ...うん。そっちに行けばいい?」
「うん。書類とかは今から出すから、一番室で待ってて」
そう言われ、日向夏が一つの部屋に入る。完全個室で、天井近くの窓からは春の柔らかな日差しが差し込んでいる。
『さっきのは?』
〔幼馴染のシュイちゃんです。幼学園の時から一緒で、商人の跡継ぎなんです〕
『へぇ。他にも友達とか居るのか?』
〔一人...今はここには居ませんけど、同じ冒険者の子がいます〕
いいなぁ...ぼっちに近かった俺には羨ましい限りだよ。
ノックがかかり、扉を開ける。シュイが数枚の紙ーではなく羊皮紙と麻布らしき袋に入った金貨を手渡す。
「っ...と。これが今回の報酬と、パーティー解散の書類。終わったら私に渡してね。先輩に渡しに行くから」
「...ん。ありがと」
「うん。またね」
扉が閉まる。日向夏は金貨を脇に置きく。羊皮紙を手に取り、置いてあった羽ペンを手に取り猛然と羊皮紙に書き込んで行く。
外からは鋼と鋼がぶつかり合う音が聞こえるーーと思ったら、中断される。多分休憩か何かをしているのだろう。そしてまた鋼と鋼がぶつかり合う音が聞こえ始める。
日向夏が羊皮紙に書き終え、羽ペンを元に戻す。
受付に戻ってきた俺達は、羊皮紙をシュイに渡し、冒険者ギルドを出る。
〔...あ、そうだ。兄者、演習場に言ってみませんか?〕
『うん?演習場?』
〔そうです。行き道すがらに相談した型を試したいんです〕
行き道すがらに相談した型、というのはあの模擬戦の後にドゥーシャに指摘された所や、アドバイスを受けたところを考え、日向夏が出した案の一つだった。
まあここならドゥーシャほどとは言わないけど、それなりに強い冒険者が居るだろうから、いいんじゃないかな?
というわけでやって来ました演習場。おーおーやってるねー。
中でも際立っているのが銀髪ベリーショートのケモ耳っ子と、それとペアを組んでいるであろう黒髪ロングのお姉さんだ。それと対するは、統率がかなり取れているであろう男四人組だ。
「Goッ」
リーダーらしき男が、鋭く号令を出す。それを機に他の男達も動く。連携の取れた動きで、ケモ耳っ子と黒髪お姉さんを連携が取れないように引き離していく。
しかし終わりは突然だった。模擬戦だから手加減しているのだろうけども、おおよそ手加減している様には見えない斬撃が黒髪お姉さんから飛ぶ。
それに呼応する様に、ケモ耳っ子がその手に握っていた小柄な戦槌を振り回す。二人掛かりで対応していたものの、そのスピードに負け、じりじりと後退し始める。
暫くすると、何と男四人組が背中合わせになったではないか。しかし時すでに遅し。逃げ場を無くした男達に、容赦のない攻撃が浴びせられる。
「終了っ!ティア・セイディペアの勝利!」
おおおぉおぉ、と観客が咆哮する。と、こちらに目を向けたケモ耳っ子がパッと目を見開き、こちらに走ってくる。
「あっ!」
「ひっさしぶりー、ヒナ」
と、声を掛けて来たのはさっきのは戦っていた銀髪ケモ耳っ子だった。
「おーおー、一ヶ月ぶりぐらいじゃないか相棒」
「久しぶり、セイ。...で、その戦槌は?」
「いいだろー。ダンジョンの宝箱で出たレア物なんだぜ?さっき使ってみたけどまー強いわ強いわ」
「よかったじゃん。他に何かあった?」
「それがなー、聞いて驚け、なんともう一個レア物が出たんだよ」
「へぇ。で、何が出たの?」
日向夏がそう聞くと、ケモ耳っ子がその袋の大きさに見合わない軽弩弓を取り出した。
「じゃじゃーん」
「それ、私に....?」
「応ともよ。パーティーの奴に鑑定してもらったんだけどねぇ、こいつとどっこいどっこいの性能なのよ」
そう言って右手に持っている戦槌を少し掲げる。
さして派手な装飾がしてある訳でもなく、戦闘での使いやすさを重視したほっそりとした作りになっている。敢えて言うならば、柄の所に青の宝石らしき物が嵌め込まれているぐらいだろうか。
「それでこれ誰か使える人居ないかなー、って考えてたらヒナが浮かんできたのよ。それで、さ」
「...ほんとにいいの?」
「おう。ステータスを聞いた限りだったら結構な折り紙付きだぜ?」
日向夏がケモ耳っ子から細身な軽弩弓を受け取る。
全体に綺麗なラピスラズリ色をした紋章が施されていて、先程の戦槌と同様に弓身に青色の宝石が嵌め込まれている。
ところで、と日向夏がケモ耳っ子に疑問をぶつける。
「ねえセイ、これってもしかして...」
「そのもしかして、だぜ。おいらも最初は目を疑ったんだけどさ、鑑定したらまさかの魔鉱石、しかもランクが一番高いヴァイサイト、しかも特異型だったんだよ」




