Act.14 模擬戦、そして到着
お久しぶりです。多々思うところはありますでしょうが、どうぞごゆっくりお楽しみください。
「あらぁ、ヒナカちゃんじゃなぁい!」
げにまっこと恐ろしきかなバトゥージャンキーの笑顔よ。その凶暴な笑みを顔にくっつけたままこちらに近付いて来る。
「ヒナカちゃん、私と模擬戦しなぁい?私ヒナカちゃんみたいな娘とやるのが一番楽しいの。そこのおチビちゃんズも一緒でいいわよ?」
うーん、と悩み出す日向夏。日向夏は本来後方支援役だけど、万が一近付かれた時に対処できるように近距離戦闘のノウハウ位は知っ
ておいた方がいいと思うんだよな、とさり気なく日向夏に伝える。
「そうだ、アレも試してみたいしなぁ…よし。やりましょ、ドゥーシャさん」
「その意気よぉ。けど、ちょっとヒナカちゃんには少し縛りを入れないとね」
「...?」
何故日向夏に縛りを入れるんだ?もしかしてドゥーシャも分かっているのだろうか。
「やっぱり遠中距離専門でも近距離戦闘が出来るようにしておかないとね。あ、あと魔法は防魔殻があるからどんどん使っちゃっていいわよ」
「はいっ」
防魔殻はまあネーミング通りの物なんだろうな。正直魔法が周りを気にせず使えるっていうのも有難いな。
少し外回りを見てみると、異世界らしく賭けが盛んに行われている。どうやら日向夏がドゥーシャに一発当てられるかどうかで賭けを
してるみたいだな。その賭け、ひっくり返してやろうじゃないの。
日向夏とドゥーシャが各々最初の場所に移動する。どうやらこの模擬戦には審判がつくらしく、先に三発クリーンヒットを入れたら勝
ちらしい。試合会場は半径20m程の円の中に、木立や稜線、更には木の根やデカい岩が中央に二つ鎮座している。あんまり広くない
から日向夏にとってはやりづらい条件だろうな。
「では双方、構えッ」
と、審判。それに応じて日向夏は差し当たり刀身が60cm位の細身なショートソードを、ドゥーシャは禍々しいオーラを放つ二本の
片手剣ー両方とも差し当たり90cm位だろうかーを抜き放つ。右手に握られた剣は透き通ったホワイトブルー、方や左手に握られて
いるのはダークパープル、或いはこれぞ魔剣、と言った感じの少し短めの物を握っている。んまぁなんかどっかで見たことあるような組み合わせだねぇ...
審判の声が響く。
「始めッ」
防魔殻の外で怒号が飛ぶ。「嬢ちゃんやっちまえー」や、「姐さんがんばれー」など多岐に渡っている。
二人はじりじりと円を描きながら、相手の出方を窺う。
先に仕掛けたのは日向夏だった。
「せいやっ!!」
ショートソードを中段に構え、突進からの刺突攻撃を繰り出す。
「まだまだ甘いわよォ!!」
あっさりとドゥーシャに受け流され、体勢が崩れたところに手痛い一撃がーーー来なかった。ロザが防護魔術を掛けてくれているから
、攻撃が腹の直前で不可視のバリアに阻まれていた。
ノックバックを利用して数メートル程下がる。
『次は俺らが同時に攻撃するから足止め頼んだ』
〔はいっ。引力操作ですね〕
『そそ』
事前に打ち合わせて置いた事だ。日向夏が引力操作で足止めして、ニガと俺が同時に魔法と魔術で攻撃する。中々勝算の高い連携だと思っている。
と、考えていたら今度はドゥーシャの方から詰めてきた。
「ふっ!!」
気合いの入った声でこちらに突っ込んでくる。流石に避けることは現時点では無理なので、無理やりだが受け流してもらう。少しの隙ができれば充分だ。
「くうっ!」
日向夏から声が漏れるが、攻撃を受け流された事に動揺したのか、少しだけドゥーシャに隙ができた。今だっ!
「どうぞっ!!」
「キュイッ!」
『応よッ!』
二ガが飛び出し、俺が魔力を変換し始める。
『アイス・スティンガーッ』
『豪風術第七章・鎌鼬ッ』
二ガは使える最強の魔法、俺はそれに合わせた魔術を繰り出す。さあ、どうだ...?
「はっ、はぁ。やるわね!!日向夏ちゃんとそこのおチビちゃん!」
「...ッ!!」
あれだけの攻撃を喰らっても息切れだけだと...?なんつー防御力してんだよ全く。次はもっと威力が高い奴で行かないとな。
しかし、そんな暇を与えてくれるほど甘くは無かった。
「加速」
突如荒れ狂う空気の中、剣先が煌めく。
「くぅっ!」
ドゥーシャの剣先は最早視認を許さず襲い掛かってくる。一部はなんとか受け流しては居るものの、バリアに当たり、ロザが悲鳴をあげ始める。
『兄者!バリアがもう持たぬ!下がれ!!』
『んなこと分かってる!あと三秒耐えてくれ!それで何とかする!!』
俺が魔力を変換し始める。その間にもドゥーシャの攻撃は止まらない。
『フラッシュ・イット・アップ!!』
直後、両方の視界は閃光に満たされる。そして後ろに下がーーー
「しっ!」
ドゥーシャが閃光をものともせずに追撃してきた。
これにはもう誰も反応する事は叶わず、双剣の強みである連続攻撃によって、日向夏が地に伏せることとなったのだった。
直後、審判の声が響く。
「止めっ!勝者、アンネ・ドゥーシャ!!」
直後、歓声が空気を震わせる。こうして日向夏の最初の模擬戦は終わったのであった。
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「うう...やっぱり強いなぁ...」
完全に落ち込みモードである。まあ俺としては々ランクT相手にあそこまで粘れたのは良かったと思うんだけどな。
〔でも勝てなかったんじゃ意味がないじゃないですか〕
『んまぁそうなんだけどなあ』
「お疲れ様ぁ。中々良かったわよぉ、ヒナカちゃんの動き」
結った髪を下ろしながら、ドゥーシャが話しかけてきた。
「けどねぇ、まだ攻撃を躱し切れて無いところがあるからもっと剣技の熟練度をあげないとねぇ」
手厳しいねぇ。何か聞き慣れない単語が出てきたけど、まあ察するに剣スキルの熟練度の事なんだろうな。日向夏のステータスにも弩弓技ってあったし。
その後は日向夏のリクエストもあって、ドゥーシャから色んな講義をして貰った。剣の特性や使い方、剣技の型など、中々勉強になる話をしてくれた。
講義が一段落したところで、ドゥーシャから「早速やってみましょ?」と言われたので、日向夏が疲れ果てるまで模擬戦をさせられていた。実地訓練だね。
ここで驚いたのが、日向夏がこの短時間で剣技のレベルを2も上げていた事だった。これにはドゥーシャも驚いた様で、一層期待を掛けられていた。
まあドゥーシャも見てるだけじゃつまらなかったのか、途中で参加して暴れまくってたけどね。
とうとう冒険者達の疲労もピークに達したのか、ポツポツと各々のテントに戻り始めた。人も少なくなったし、
今日はこれでお開きとなった。中々有意義な模擬戦になったな。
次の日、テントを畳んで昨日と同じ配置に着いた俺たちは、ライザに向けて出発した。昨日で半分ほど道のりを踏破していたので、そこまで時間は掛からなかった。
真上から太陽が照らす中、俺達は最初の町、ライザの巨壁を春風と共に、視界に捉えたのだった。




