Act.13 出発
『兄者、用意を』
『...?ああ、成程。で、相手は?』
俺の熱源探知に微妙ながら反応があったので、大体何なのかは分かった。
『そこまで大したことは無い相手なんですけど...硬いし何より毒があるんで少し厄介です。一撃離脱で行きましょう。援護、お願いします』
『任せとけ』
熱源探知で引っかかった方に、鑑定を掛けて見る。きたきた。
名称:ギガント・スコーピオン
HP:91 MP:32 SP:152 精神状態:警戒
スキル:
捕獲:Lv.3,瞬発:Lv.3,毒生成:Lv.5,超感覚Lv.2
ユニークスキル
硬質化
ステータスは低いけど、面白そうなスキルが一つあったな。
硬質化-自身の身体を硬くする。使用時の硬さは元の身体の硬さに比例する。
お?なんかこの身体と中々相性が良さそうなスキルだな。もーらおっと。
『なあニガ、奴の魔石を傷付けずに倒せるか?』
『...出来ますけど...何でですか?』
『あとで話す。行くぞっ』
『...はいっ』
ニガに怪訝な声音で返事をされたけど、気にしない気にしない。
二がと俺が魔法を使う為に魔力を変換し始める。
『アイス・スティンガー!!』
『豪風術第4章・見えざる刃っ!!』
二ガは雪刃魔法、俺は豪風魔術を使い、蠍に無数の氷の杭と不可視の刃をお見舞する。
「シャルアアァァッッ!?」
うおっしゃ。先制は綺麗に決まったな。まだまだこっちのターンだ。こっちは木の上をぴょんぴょん飛び回っているので、そうそうクリーンヒットをかまされることは無い。はてさて、どう調理してやろうかなあ...?
そういえば、と俺はあるスキルの事を思い出す。
[魔石特定、っていう奴が使えそうなんだよなあ...]
そう、それがこれ、魔石特定だ。名前からある程度予想が出来ないことは無いんだけど...百聞は一見に如かず、だな。
ぱあああぁぁぁ
お?蠍の魔石が肉体を通して透過されて見えたぞ?...ふーむ、なるほど...尻尾の先端か。
『ニガ、奴の魔石は尻尾の先端だ。次で決めるぞ』
『...え?は?なんで兄者...まあ良いです。後でしっかり説明してもらいますからね?』
『...おう。分かった』
まあ背中を預けてるやつに戦闘面で何か秘密があるようじゃあ安心して戦えないもんな。今度からは気をつけよっと。
『ターザント・スタブッ!!』
『豪風術第八章・盲目の鞭』
十数本の氷の短剣と、唸りを上げて襲いかかる不可視の鞭。蠍にはもうそれを耐えるだけの体力は無かったようだ。
「シュラアァァァ......」
よっしゃ。魔石ゲットだぜ。
『ふう、終わりましたね。解体...は無理ですよね...』
『そうだな。けどさ、魔石はどうすんの?』
『うーん、そうなんですよね...』
ぴこーん
...ほう。我ながら中々良いアイデアが浮かんだぞ。
そう思い金魔術を自分に掛ける。
『なるほど...そうやって取り出すんですね...』
ちなみにどうやったのかというと、自分の体から一部の金属を刃状にして、それを操作しながら魔石を取り出す、と言う手法だった。これには二ガも驚いたようで、終始楽しそうに見ていた。
『...ふう。終わったな。荷物になるから今のうちに吸収しとくか』
《スキル:硬質化、超感覚を取得。既取得スキルはスキルレベルに加算》
やったぜ。狙ったスキルが来てくれたな。しかも持ってるスキルは経験値アップか。ありがたやありがたや。
『さて兄者。色々説明してもらいますよ?』
『分かった。ただ、あんま信じられないかもしれんが、いいか?』
『戦闘に関することならなんでも構いませんよ』
おう、もしやバトゥージャンキィー?などと思いつつこの世界に転生したことや、魔石進化などの事を話す。前にロザ達と話していた時は、意識こそあったものの、疲労であまり聞けていなかったらしい。
『...凄いですね、それ』
『だろ?只今絶賛異世界ライフ満喫中だよ』
そういや俺って日向夏に拾ってもらえなかったら、ずっとあそこで待機だっただろうな...
そんな事を考えていたら、テントに戻ってきた。もう日の昇り方からして、七時ぐらいかな?こっちの時間周期がどんなもんかは知らないけど、時差ボケみたいな事にはなってないから多分似たようなもんなんだろう。早起きな冒険者達はもう準備を始めてるな。んで日向夏とロザはというと...
「すーすー」
『...あー、そこじゃそこじゃ...むにゃ...』
完っ全に爆睡モードですね。はい。ロザに限っちゃ寝ながら念話使ってるし...
『おーい、起きろー』
「......」
『むにゃぁ...』
...少し手荒に行くとするか。
『ニガ、二人に雪ぶっかけてやれ』
『...いいんですか?』
『おう。俺が許す』
『...どうなっても知りませんよ?』
『いいから』
『スニー・エシュテレン』
パラパラと雪が降り始める。ちょっと思ってたのと違うな...もっとこう、ドバッとやって欲しいんだがな...と思ったら思いが通じたのか雪の塊が寝ている二人に襲いかかる。
『ふむう!?』
「ぃにゃっ!?」
お、中々可愛い声が出たな。
『おーい、起きろー』
『ぐぬう...ちとこれは酷すぎやしないかの?』
と、雪の中から這い出てきたニガによく似た身体をしたロザに愚痴られる。
『いやだって起きねえんだもん。嫌だったら毎朝早起きすることだな』
『ぬう...』
日向夏が雪から這い出てきたら、ニガがタイミング良く雪をキレイさっぱり消してくれた。
その後は二人とも俺の指示に従い、荷物をまとめ始める。
つってもロザは魔術で自分と二ガの毛並みを揃えるだけなんだけど。俺は首輪から腕輪に戻り、朝の出来事を報告しておく。出発の時刻だけが分らないんだよなあ...
テントはどうも後続の冒険者達が使うようなので、簡単に掃除をしてから出ていった。日向夏がお腹がすいたと言うので、あの娯楽施設に行くことにした。まあ移動しちゃってたら森で何か狩ってくるつもりなんだけど。
そう思いながら行ったら、屋外にテーブルがごまんと置かれ、そこで多種多様な人達が朝飯らしきものを食っていた。受付らしきお姉さんが走り寄ってくる。
「すいません...この通りテーブルが空いていないものですので...すいません...」
「そうですか...」
と言って日向夏が森に足を向けようとする。なんかそういえば一昨日テルルから貰ったのって使えるんじゃないのかな?と思い日向夏にそれを伝える。
『ああ...なるほど。それだったら行けるかも知れませんね』
との賛成を頂いたので、受付のお姉さんに渡して見る。
「...あっ、すいません!上級会員のお方でしたか...すいません。では、こちらに...」
そう言われ案内されたのは、森の中にあるちょっとしたオープンスペースだった。なんか茂みの中に虫の足があるのは...気のせいだろう。
「あらぁ、誰かと思えば日向夏ちゃんじゃなぁい。こっちこっちぃ」
「あ、ドゥーシャさん。それじゃ、お言葉に甘えて」
偶然にもドゥーシャが居た。朝食中はそれといった話もせず、これからの日程やルートとかを教えてくれた。
「そろそろ時間ねぇ。一緒にいくぅ?」
「もちろんですっ」
席を立ち、ドゥーシャに付いていく。五分ほど歩いただろうか。冒険者らしき集団が集まっている広場についた。茶髪の男が喋り出す。
「今から出発する!冒険者は割り振られた行商人の両翼に二人ずつ警護!各自、配置へ!武運を!!」
「「「了解ッ!!」」」
なんつー規律の整った集団なんだよ。こいつら本当に寄せ集めの冒険者か...?、と思っていたら、日向夏が説明を入れてくれる。
『兄者、あの人はランクT冒険者のエルデさんです。冒険者は実力主義なんで、ランクが上の人には割とすんなり従うんですよ。けど、あの人のカリスマ性はちょっとおかしいですけどね』
ちょっと肩を竦めながら言う。まあかっこいいしな。あのエルデって言うやつ。
配置についたらあらびっくり。なんと一番先頭になったのだ。極め付きはドゥーシャやぜルク・ヴァルキリエの娘達と一緒になったのだ。なんでも数が微妙に合わなかったらしく、奇数人数パーティーのぜルク・ヴァルキリエの三人に白羽の矢が立ったのだとか。
けどそれもあってか、道中魔獣には一切襲われなかった。魔獣もランクT冒険者と女冒険者最強パーティーに喧嘩を売るほどアホではなかったらしい。
道中の夜に、テントを張り終えて時間があったので、散歩をする事になった。歩いていると、何か金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
音がする方へ歩いていくと、大きめの広場で冒険者たちが模擬戦をしていた。まあファンタジー世界にはありがちな事だけど、もちろんのこと賭けも同時進行で行なわれていた。...ん?なんか女の人の声が聞こえてきた。
「はいはいどうしたのあんた達!女に負けてるようじゃ冒険者なんて名乗るんじゃないよ!!」
ドゥーシャが男冒険者たちの間で無双していた。何故か髪型は首元でふわっと二つに分けていたものとは違い、思いっきり上げ、動きやすい様にポニーテールにしていた。気のせいか、口調も変わっていた。
「お、嬢ちゃんやってくかい?あの姐さんと模擬戦出来るチャンスだぜ?」
そう話しかけてきたのは、恐らく四十路を越えているであろう筋肉質でダンディーなおっちゃんだった。
「うーん、どうしようかなぁ...」
と日向夏が悩んでいたら、
「あっ、ヒナカちゃんじゃなぁい!一緒にやりましょお?」
と、凶暴な笑みと共にドゥーシャがこちらに近付いて来たのであった。
最後の方の模擬戦は付け足しだったりしますw




