夜の鯨
夜の鯨は闇の中
星を吹いては
その身体を翻し
誰の夢を泳ぐ
穏やかな眼差しで
慈愛に満ちた声で
大きな闇のまま
優しく躊躇いを包み
思い起こすこと
思い返すこと
振り向いた夜の端から
それでも
迎える朝に向けて
あげる飛沫
誰かの涙に似た温度で
冷たい夜があって
ひとりではどうにも
堪えきれない夜があって
いく千の見知らぬ窓の中
彼は彼の
彼女は彼女の
さみしさを握りしめているから
夜の鯨は闇の中
照らされるには
かなしい気持ちを
救うでもなく
癒すでもなく
ただそれを知っていると
添う
大きな闇のままで




