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第五十七話 守護者

「嫌な気配がして来てみれば、まさかこんなやつと遭遇しているとは」

 月夜から舞い降りたその姿はまさに聖騎士。

 闇を払うかのような白銀の鎧には生命を司る蒼と翠の模様が彩られている。

 そんな彼女が何かしたのか靄は中腹まで弾き飛ばされていった。

「守璃さんその姿は……」

「これが私の本来の姿だ。それより一体何をしているんだ永遠」

 気づけば俺の隣まで永遠さんは戻ってきていた。片膝をついて俺に寄り添うようにして俺の安否を確かめているところを見ると、今の場面がどれほど危機的状況だったのかがよくわかった。

「油断した。まさか物理無効とは思わなかった」

「物理無効? そんな希少な特性を持っている奴がどうしてこんなところにいる」

「分からない。突然襲ってきたんだ」

 目線すら合わせず眼前の敵を見据えて二人は会話をする。

 いつからかと言えば、おそらく音無さん達と別れてからだろう。あのあたりから、胸騒ぎのようなものを感じていた。

 だが、目的が分からない。阿冶さんが人ではないからかそれとも偶然か。物言わぬ靄が相手では分からない。

「……守璃。爛がいない」

 びっくりした! 新手かと思った。

 にゅっと、気配泣くクロが茂みから現れた。

 どうやら、爛さんとは別で二人は駆けつけてくれたらしい。

「まったく、一人で走り出したと思ったらどこに行ったのか。戦闘がアイツの役割だというのに」

 そうため息交じりに言うと、守璃さんは一歩、二歩とゆっくり靄へと近づき始めた。

「守璃さん危ないです。爛さんを待った方が……いや、攻撃できないんだったら皆で逃げた方が!」

 予想外の動きに焦る俺だが、それを制止したのは意外にも永遠さんだった。

「待て夏樹。今回は守璃が適任だ」

「でも……」

「守璃は、夏樹を守護することが役目だが守るだけが取り柄というわけでもない。いい機会だから彼女の力をその目で見届けろ」

 やっぱり見ていることしか出来ないのか。そう歯噛みしている間に守璃さんは靄の懐へと飛び込んでいた。

 あれ? いつの間にあんなに接近したんだ?

 片時も目をそらしていないはずなのに、いつの間にか歩きが走りへと変わっていた。

 それは、変化を認識すらさせない流れるような動きの極致だった。

 今まで猛るような爛さんの荒々しい戦闘スタイルを見てきた俺にとって、それはまた大きく違う戦闘スタイルだった。

 瞳は驚くほど安らかで、武器を振るうときに発する声だけがその力強さを示す。

 力のコントロールによる、最小最短の攻撃の嵐。

 まるで、軽く捻った蛇口からの流水の如く。その殺意と闘志を寸分の乱れなく静かに燃えさせている。

 よく武道において明鏡止水なんて言葉を聞くが、守璃さんの闘いにおける姿勢は正にそれそのものだった。

「こんな戦い方を守璃さんはしていたんですね。靄が圧倒されている」

 相対している時は全く気付かなかった根底から違う闘い方。

 守璃さんは無駄がない動きで靄を細切れにしていく。

「戦い方もだが、恐ろしいのはあの武器だ」

「武器? そう言えば、今回は槍を使っているんですね」

 守璃さんは、俺との模擬戦とは違い槍と盾を持っていた。

 槍の持ち手と刃の結合部には宝石があしらわれており、持ち手の先端は羽のレリーフが彫られている。

 また盾には、蜷局をまいた蛇とその瞳に赤い宝石がはめられていた。

 どちらも守璃さんにしてはいささか派手な武装だ。

「あれが本来の武器だ。神々が持つ武器の多くは特殊な力が宿っている。守璃のそれは退魔の力。私や爛、クロも含めて多くの異種人に大きなダメージを与えられる。盾も含めて攻防一体の強さを兼ね備えているからこそ守璃は夏樹の護衛を任されているんだ」

 だから、靄にも効果があるのか。

 縦に薙ぎ払ったかと思えば、そのまま横に、そして切り上げる。

 最後に分離した靄の一部を突き消す。

 地道ながらその驚くほどの速度にみるみる靄の体は削られていく。

 この戦いは初手で勝敗が決まってしまったのかもしれない。靄もまた距離を詰められていたことも、穂先が自分に向かってきていることにも気づけなかったのかもしれない。故に、ごく自然にその攻撃を受けた。そして、今に至るまで反撃を仕掛ける余裕すら与えてもらえていない。

 素人から見ても分かる必勝パターンに陥っていた。

「それにしてもさすがに名のある神なだけはある。聖なる力もトップクラスの強力さだ。あれがなければまた靄は結合してしまっただろうな」

「名のある神ですか。そう言えば、守璃さんってなんの神様なんですか?」

「守璃か? 守璃は――」

 永遠さんが守璃さんの正体を告げようとしたその時、戦況が変わった。

 切り刻まれに切り刻まれた靄。体積的に大人数人分ほどの大きさがあった靄だが、今や手の平程まで小さくなっていた。

 もう勝ち目がないことは一目瞭然となり、靄は決死の逃走を始めた。

 小さくなり小回りが利くようになったのか、すばしっこく蛇行しながら木々を目指す。

 しかし、それでも守璃さんは焦らない。先ほどまでと同様にまるで波の立っていない水面のように落ち着いた心もちでじっと見つめる。

 永遠さんが、靄を侮蔑と悲しみの目で見たのに対して、守璃さんは槍を振りかぶり敬意と追悼を込めて言った。

「覚えておけ。守護女神――アテナ。貴様を屠るものの名だ」

 一閃。

 守璃さんが放った槍はその赤く発光する二つの目の丁度ど真ん中を貫通して、靄を跡形もなく霧散させた。

「アテナ……それが守璃さんの正体」

 月夜の下。地面に突き刺さった槍を引き抜く甲冑を纏った女神は、美の化身かのような凛々しさと可憐さを兼ね備えていた。

こんにちは五月憂です。

今回でついに守璃の正体が明らかになりました。

女神アテナ。ギリシャ神話の中でもトップクラスに好きな神様です。

次回でお花見回も終わりです。

是非読んでください。

最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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