第五話 黄色い目
「……重い」
朝、目が覚めると体にのしかかる重みを感じた。
荷物でも落ちたかな
昨日は、荷物の荷解きが全然終わらないまま眠ってしまった。そのため、俺の布団をぐるっと囲むようにダンボールが積もれていた。
俺は、「やれやれ」と思いながら、その荷物をどけようとするが、その感触は明らかに異質だった。
率直に言って柔らかい。
「なんだよ、失礼な奴だな」
荷物がしゃべった!? ……いや、そんなわけはない。だとしたらこの物体は
目を開けると、眼前には顔。
朦朧とした意識が一気に目覚める。
「な、なにやってるんですか! あんたは!」
こんなことをするのは、この家で一人しかいない。
爛さんだ。
「いやー、なかなか起きないからさー」
「だからって、乗っかることないでしょ!」
爛さんは、馬乗りになる形で俺に乗っている。
ただでさえ下から彼女を見上げるとその双丘が視界に入ってくるのに、寝起きなのか和服が乱れていてみていられない格好になっている。
一刻も早く離れなくては
「えー」
「いいからどいてください」
「仕方ないなー」と、爛さんはしぶしぶ俺の上からどく。
その際、肩というよりは胸に引っ掛かっていた服がずり落ちそうになっているのを指摘すると、爛さんは聞き流すように適当な返事をして部屋から出て言った。
まったく、朝から迷惑な人だ。何をしに来たのやら
これから毎日こんな起こされ方したら身が持たないぞ
ため息交じりに着替えていると今度はノック音が聞こえた。爛さんが戻ってきたのかと反射的に身構えたが、聞こえてきたのは阿冶さんの声だった。
「夏樹さん。起きてますか? ご飯の用意が出来ましたよ」
「分かりました。すぐに行きます」
俺は、変なタイミングでダブルブッキングしなかったことに安堵と焦りを覚えつつ身支度を整えて部屋を後にした。
居間に行くと、既にこの家に住む住人は全員集合していた。
俺のご飯をよそってくれている阿冶さん。
俺が着た瞬間落ち着かないようにするクロちゃん。
眠そうにあくびをする爛さん。
因みに、爛さんは服の乱れは直していたものの、昨日同様和服を着崩していたため、さっきと露出度は大して変わらないでいた。
この人は、全く。こっちが慣れるしかないのかな
最早、二日目の朝にして爛さんの服装は諦めの領域に達していた。
「それでは皆さんよろしいですか」
「「いただきます」」
全員そろってご飯を食べることは、暗黙の了解になりつつある。
朝食のメニューは、焼き魚と味噌汁、ごはんだった。
何ともバランスが良く、一人暮らしだったら絶対食べない――作らないであろうメニューだった。
朝から家庭の幸せを噛みしめつつ、囁かな幸せを感じた。
「さて、荷解きでもするか」
朝食後、自室に戻って荷物を開け始めた。
腰ほどの高さにあった箱には衣類が、その隣の箱には日用品が入っていた。ここまでは、目についたところから空けていたのだがふと手を止めた。
「それにしても、自分で荷造りしたわけでもなければ段ボール箱に何か書かれているわけでもないから、どれに何が入っているのか分かんないな」
山積みの段ボール箱を見回して思う。
今日中に一人で全部開けるのは大変だから、最低限必要なものから出していこうと思ってたんだけど、一回全部の箱を開けた方がいいのかも
頭の中で効率のいいやり方を模索していると、
「おーす、入っていいか夏樹」
「入ってから聞かないでくださいよ。それに、ノックぐらいしてください」
何の前触れもなく、ガチャッとドアを開けて爛さんが入ってきた。
「いいだろ。一緒の家に住む同居人なんだから」
「親しき中にも礼儀ありって言葉もあるでしょ」
「そんなことよりさー」
「スルーですか」
爛さんは、俺の言葉を無視してキョロキョロと部屋を見回す。
「全然荷解き終わってないな」
「まだここに来て一日経ってませんからね。それより、爛さんは何しに来たんですか?」
「あたしか? あたしはあれを待って来たんだよ」
ピッと爛さんがさす先には、俺の元借り家で使っていた戸棚が置かれていた。
以外にもちゃんと仕事をしているんだと、ここに来て初めて爛さんに感心した。それまでに、爛さんの悪ふざけばかりを見ていたからなんだけど。
「言ってくれれば、俺も手伝ったのに」
「あれ結構重いから大丈夫だって」
「失礼な。俺も男ですよ。力だったら爛さんにも負けませんよ」
「そうか? それだったら今度から手伝ってもらおうかな」
「任せてくださいよ」
俺は胸を張って答えた。
「んじゃ、端っこに置いとくから後はいいように動かしてくれ」
言って爛さんは、その女性らしい腕のどこにそんな筋肉があるのか、身長ほどの戸棚を軽々と持ち上げた。
えっ、アレを一人で持って来たの?
てっきり阿冶さんに手伝ってもらったのかと思ってた。
いわゆる、リミッター解除っというやつだろうか。
人間本来の力は、肉体が耐えられないから無意識の内にセーブされており、一定の条件下ではそれが解除されるって聞いたことがある。よくあるゾンビ映画のゾンビが馬鹿力だったりするあれだ。
それが爛さん――幽霊に当てはまるのかは別としても、改めて爛さんの人間離れしたところを垣間見た。
爛さんの方が力があると認めざる負えなかった。唯、口に出すのは少し悔しいから心の中でだけ素直に認めた。
「そうだ、ついでだしちょっと着いてきてくれよ」
「どこにですか?」
「物置部屋」
「物置部屋に?」
俺は、爛さんの後について物置部屋へと向かった。
物置部屋の戸は木製の引き戸だ。
因みにこの家には、主に三種類の戸がある。
一つ目が、開き戸――ドアだ。主に、各々の部屋がこれだ。
二つ目は、障子戸だ。これは、居間に使われている。
三つ目は、引き戸だ。引き戸は、物置部屋や風呂場、道場に使われている。
また、キッチンや入浴場などの要所要所に襖やガラス戸も使われてはいるが廊下から出入りするのは三つだ。
幼狐達の趣味なのだろう。本当に和テイストで構築された家だ。
「うわっ、ひろっ」
物置部屋に入った最初の感想はそれだった。
外から見ると大してスペースを取っていないはずなのに、中はずっと大きい。
物置部屋と呼ぶだけあって家内の一室なのだが、その収納スペースは蔵と言っても過言じゃない程だ。
「夏樹は初めて入ったのか? 阿冶から聞いてるだろ。これが、空間拡張された部屋だ」
阿冶さんに説明してもらったけど難しいところは実はよく理解してはいない。唯この技術は空間拡張っというらしく、俺は、文字通りそこにある空間を広げる技術とだけ認識している。
最初聞いたときは異世界の技術は進んでいるなってぐらいしか思わなかったけど、実際目の当たりにしてみると突拍子もない技術だ。
「ここ以外にも道場や浴場にも使われてるんだよ」
「確かにこれは、すごい技術ですね」
キョロキョロと見回したり、壁に触ったりして奥行きがあるように見えるんじゃなくて、本当に空間が広がっていることを認識する。
すると、随分くたびれた家具が集められた一角を見つけた。
あれ? この家具……
その中で、特に古びたタンスが目に留まった。
なんか見覚えがあるような……
もちろん借り家に合ったものではない。ただ俺は、タンスに付いた小さな傷に指を這わせながらそう思った。
「夏樹? おーい、夏樹」
「あっ、はい」
……ま、いっか
俺は、少し気になりつつも爛さんの方へ向かった。
「どうかしたのか?」
「いえっ、何でも」
「そうか? それより、これらなんだけど」
爛さんが示すものは、冷蔵庫に洗濯機、棚等々、元借り家に置いていた大型家具だった。
昨日家に帰ったときに家の中の物が綺麗に全部なくなっていると思ってたけど、大きいものはここに保管されてたのか
「使いたいものがあるなら運ぶんだけど、何か使いたいものはあるか?」
「使いたいものですか……俺の部屋に置きたいのは、後は本棚ぐらいですね。後のものはこの家で使えるなら好きに使ってもらって構いませんよ」
「分かったそれは阿冶に聞いてみる。もし他に使いたいものがあったら言ってくれ」
爛さんは、本棚を担ぎ――俺は、手伝ったらむしろ邪魔になりそうだったからおとなしく見守ることにした――俺の部屋に戻る。
「よしっ。これであたしの仕事は一通り終わったな。夏樹荷解き手伝ってやるよ」
「えっ、いいですよ」
思わぬ優しい言葉に変に警戒心を抱いてしまった。だって、他でもない爛さんなんだから。
また何かする気なんじゃないよな
「なんだよ、遠慮すんなって、同じ家に住む同居人だろ」
「……それなら、まぁ、お願いします」
俺は、ジトッと怪しみつつ、しぶしぶお願いした。
爛さんは、そうこなくちゃと、和服の袖をまくり上げる。
手分けして箱を開け始めると、意外にもちょっかいを掛けられず黙々と進んだ。爛さんとのやり取りも物の配置とか必要最低限のものにとどまっている。仕事人気質というか、やるときはやる人なのかもしれない。
雑貨に、また衣類、これは……
「♪~♪♪~♪――」
しばらくして爛さんが、鼻歌を歌い出した。
爛さんってよく鼻歌歌うのかな。昨日も風呂場で――。
「……ゴホッ!」
衝撃的な体験だったから、思い出さなくていいことまで思い出してしまった。
赤面する顔を払拭するように顔をブンブンと振る。
「――樹。……おい! 夏樹って!」
「えっ!」
爛さんの呼びかけで、俺は現実に戻ってきた。
「大丈夫か? 顔赤いし熱でもあるんじゃ」
グッと、爛さんは顔を近づきて、コツンと額を引っ付けて来た。
「なっ、なっ、なっ!」
驚きのあまり、後ずさりながら声にならない声を上げた。
天然なのか、ワザとなのか分からない。唯、羞恥心がないのか平然とこういうことをやってしまう爛さんに俺はしどろもどろになってしまう。
「ん~、熱はないみたいだけど」
「そっ、それより何ですか」
一層上気する顔をごまかすように言う。
「いや、食器類が出て来たからどうしようかって」
「あっ、ここで使いましょう。俺、阿冶さんの所に持っていきますよ。爛さんは荷物を開けててください」
俺は、段ボールを持ち上げると爛さんの返事も待たずに慌てて出ていく。
昨日に引き続き二度目の戦線離脱だ。
「夏樹さんどうしたんですか? 顔が赤いですよ」
キッチンにいる阿冶さんの所に行くと、着いてすぐにそう言われた。
「だっ、大丈夫です」
「でも……ほら、こんなに赤いし熱でもあるんじゃ」
爛さんとまったく同じセリフで、阿冶さんは、手を額に伸ばしてきた。
スッと伸びる白く長い指先が優しく額に触れる。
冷たくて気持ちが良い……って、やってる場合か
爛さんと違い。ゆっくりと、しかしさっきよりもずっと熱くなっていく。もう、顔がゆでだこだ。
慌てて下がると、後ろに置いておいた段ボールにぶつかる。
「あっ!」
言ったときには手遅れだった。
パリンッ
甲高い破損音が響く。
段ボールの中は、しっかりと梱包材が入っていたからかろうじて無事だが、上層に置かれた二、三枚の皿が箱から飛び出たのだ。
俺は、パニック気味の頭で、焦って皿の破片を片付けようとする。
「あっ、夏樹さん危ない!」
阿冶さんが言ったときには遅かった。
「痛っ!」
薄らと赤い線が指の腹に現れ、次いでぷっくりと赤い血だまりがあふれてくる。
指の腹を切った。
あわあわと冷静でいなかったのだから当たり前である。
「夏樹さん、落ち着いてください」
阿冶さんが、グイッと俺の手を掴んで、やっと冷静さを取り戻した。
「大丈夫ですか? 傷を見せてください」
阿冶さんは、俺の手を自分の前にまで持ってくる。
駄目だな。ちょっとしたことで翻弄されて。これじゃあ、爛さんが意図的にからかってこなくても一緒だ
自分の不甲斐無さが情けなくなってくる。
「お皿の破片は入ってないみたいですね……はむっ」
温かく柔らかな感触が指先に伝わる。
一瞬遅れて何が起こったのかに気が付く。
阿冶さんが俺の指をくわえたのだ。
沸騰しそうなほど体が熱くなるのを感じる。何なら、ボンっと頭から煙が出てしまいそうなほどだ。
しかし、さっきの反省もある。必死にパニックになりそうなのを抑える。
「あっ、阿冶さん。何してるんですか」
阿冶さんは、数秒後に口を離した。
離した時に、艶めかしく糸を引く唾液にドキリとした……って、変態か俺は
「私達吸血鬼の体液には、超回復の力があるんです」
火照ったように顔を薄ら赤めた阿冶さんは言う。
「超回復能力」
俺は、さっき切った指を見る。
傷口はカサブタができるでもなく薄らとふさがっていた。
確かに……痛みもない
「私も初めてやったんですけど、無事に出来て良かったです」
「はぁ……」
阿冶さんの綻ぶような笑顔に、邪な気持ちを持った俺は、つい間の抜けたような返事を返した。
純粋な気持ちを裏切ってしまった。心の中で罪悪感を静かに抱いていると、ふと俺の手を握る阿冶さんの手に力が入ってきているように感じた。
ちらりと阿冶さんの方を見ると、微笑み返した阿冶さんの表情が少しだけニュアンスを変えた笑みに変わっていた。どこか呆けたような瞳でわずかに頬を上気させ俺を見つめている。
阿冶さんも、実は少しは照れているのか。微妙に呼吸が荒らそうにしている。
「わっ、割れた皿の片付けしますね」
阿冶さんのどこか虚ろな目に吸い込まれてしまいそうで、俺はとっさにそう切り出した。
「……あっ、私も手伝います」
俺の言葉ではっとしたようで、阿冶さんも少し遅れて箒を取りに行った。
それからは、何事もなかったかのように掃除をし、一緒に食器も片付けた。阿冶さんの顔はまともに見れなかったけど。どうやらいつもの阿冶さんに戻ったようだった。
やっぱり恥ずかしかっただけみたいだ
「そういえば爛さんを残したまま結構時間が経っちゃたな」
「あっ、私も荷解き手伝いますよ」
「いえ、そんなご迷惑じゃ」
阿冶さんは、少しだけ眉間に皺を寄せる。
「夏樹さん。昨日からずっと固いですよ。まだ出会って二日目ですけど、これから一緒に暮らしていくんですから迷惑とか考えちゃだめですよ!」
ピッと、軽く指を指して言う。
「……そうですね。じゃぁ、お願いします」
「はい!」
阿冶さんは、笑顔で頷いた。
「後は、部屋の片づけだな」
爛さんは、仁王立ちして部屋を見回す。
部屋には、段ボールの残骸だけが散らばっていた。
「そうですね」
阿冶さんの助けもあり、あっという間に荷解きは終わった。
こんなに早く終わるなんて思っていなかった。阿冶さんの手伝いもそうだが、爛さんの力も大きかった。俺がいない間もまじめに働いていたようで、部屋に戻って来た時には、もう数箱を残すだけとなっていたのだ。今日は、爛さんを見なおす良い機会になった。
「私、お風呂の準備と何か飲み物を持ってきますね」
「言われてみれば、少し汗をかいたな」
「そりゃ、爛さんは特に重いものを持ったりしてましたからね」
「そうだな」
「……爛さん、今日はありがとうございました。一人だったら一日で片付けるのは大変でした」
「気にすんなって、一緒に住んでる仲間なんだからよ。」
「……そうですね」
一緒に住む仲間――悪い気はしない。嫌じゃない。けど、まだ実感がわかない。距離を感じる。
爛さんを見ていて思う。距離を作っているのは自分なんじゃないかと
でも、そう思う反面。もっとみんなの事を知りたい。仲良くなりたいって言う気持ちもある。今日爛さんや阿冶さんと接してそう実感した。
「そうだ、今度あたしのトレーニングに付き合ってくれよ」
「トレーニングですか?」
「あぁ、あたしは良く木刀でトレーニングをしてるんだ」
「俺、木刀とか振った事ないですよ」
「大丈夫大丈夫、見てるだけでもいいからさ」
「はぁ、いいですけど」
「約束な」
「あら、何の約束ですか?」
気づけば阿冶さんが戻ってきていた。
「今度夏樹とトレーニングしよって話してたんだ」
「フフフッ、怪我には気を付けてくださいね」
阿冶さんは、さまざまな種類の缶ジュースが乗ったお盆を降ろし、好きなのをどうぞと言った。
「どうしたんですかコレ?」
「幼狐様からの差し入れです。こちらの世界の缶ジュースを適当に買ったようですよ。段ボール三箱分もあるので、皆さんも好きな時に飲んでくださいね」
何とも幼狐らしい大雑把溢れる量の差し入れだ。大方、「なんじゃ、この冷たく固い物体は」って、物珍しさで大量買いしたのだろう。
「へっへっ、ヘクチ!」
煌びやかな書斎に可愛らしいくしゃみがこだます。
「たま……幼狐様」
幼狐が、丁度書斎に入ってきた黒髪スーツの女性をキッとにらむ。
「お主その名は――」
「分かっております。それよりも、風邪ですか」
「……そうじゃのう。しばし休む必要が――コホッコホッ」
幼狐は掌を返したように、ワザとらしく咳をしながら言う。ただ、休みたいだけというのが丸わかりである。
「……大丈夫そうですね。さっ、仕事の続きを」
黒髪スーツの女性は、冷めた目で幼狐を見ると淡々とした口調で言う。それどころか、新たな紙の束を書斎机に載せる。
幼狐の目の前には、めまいが起こりそうなほど高く積まれた書類の山が立ちはだかっている。それは、もう軽く幼狐を覆い隠す程の量だ。
「うーっ、もう無理じゃって」
「御自分の行いを悔いてください。物珍しいからって子供のように人間界で目についたものを片っ端から買うからですよ」
そう、この書類の山の大半は幼狐が買ったものに関する書類なのだ。会計はもちろんだが、買ったもののリスト、用途、技術など。異なる世界の未知なる物品を仕入れるには、それ相応の手続きが必要となる。
「だってー」
ドンドンと、幼狐は自分の机を叩いて駄々をこねる。すると――
バサンッ
山積みにされた書類が幼狐めがけて崩れた。
もちろん幼狐は、下敷きである。
「片付けもよろしくお願いしますね」
黒髪スーツの女性は、その場を後にする。後に残ったのは、書類の中から聞こえる幼狐の泣き声だけだった。
時は、少し経って夜。
俺は、頭を押さえながらふらふらと暗い廊下を歩いていた。
「まったく爛さんめ。せっかく今日一日で見直したのに、最後の最後でやってくれる」
あの後わきあいあいと俺の部屋でお茶をした後、汗を流すために浴場に向かった。
『今日は結構働いたし疲れたなー』
シャワーを浴びながら、浴槽に浸かったときの快感に思いをはぜていた。
その一時の気の緩みが悲劇を招いた。
『なっつきー。背中を流してやるよ』
爛さんである。
陽気な面持ちの爛さんが昨日同様入浴中に乱入してきた。
それだけならよかった――良くはないが、そこからが問題なのである。
勢いよく入ってきた爛さんは、あろうことか足を滑らせ俺に抱き着いてきたのである。
ふっくらと柔らかな爛さんの感触をダイレクトに背中に浴びる。浴槽とは違う快感の中で、鼻血におぼれる俺。
『おわっ、大丈夫か、夏樹! 夏樹! なつきぃぃぃ――』
それを最後に、俺は気を失った。
そして、現在に至る。
「まだ、体が熱い」
体の火照り、フラ付き、妙な喉の渇きの症状が未だ残っている。
何でもいいから飲み物をと、足は居間に向う。
「あれ?」
戸が開いてる。阿冶さんが閉め忘れたのかな
部屋の中の電気がついていないから不思議に思って近寄ると――
「うわっ!」
勢いよく何かが飛び出してきた。
黄色い光?
よく見ると、それはネコ科特有の暗闇で黄色に光る目だった。
「クロちゃんか」
胸を撫で下ろして近づくと、クロちゃんは一歩後ずさって、何も言わずに走り去ってしまった。
「……今のは――」
いつも通りの行動。それなのに、嫌に目立つその眼からは――
――恐怖の色が窺えた――
こんにちは五月憂です。
いやー、もう年末ですね。
皆さんはどういった年越しをするのでしょうか。年末特番を見たり、家で年越しそばを食べたりしているのでしょうか。
因みにおそらく私は、「Fate/GrandOrder」を見ながら年越しそばを食べていると思います。
今年の二月から「なろう」を初めてもうすぐ一年です。いろいろな事があった一年でしたが、とても充実した一年でもありました。これも、私の作品を読んでくださっている皆さんのおかげです。ありがとうございます。
最後になりますが、皆さん良いお年を!
【改稿後】
第五話は、誤字脱字の他、会話文や言葉の言い回しを少し変えたところがいくつかあります。
是非読んで見てください。