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第五十五話 不穏な風

「どうしてそんな恰好を?」

 振り向いた先にいたのは音無さんと近衛だった。

 もう十時を回ろうかという時間帯に女子高生二人が出歩くなんて物騒だ。本来『どうしてここにいるの?』と聞くべきところなのだが、不意に口をついたのはそんな言葉だった。

 というのも、二人の格好は私服ではなく白衣に緋袴。いわゆる巫女装束と言われるものだったからだ。

「へぇ? あっ! あぁぁぁ、これは……」

 出会ったことに驚いてか、俺の言葉から数秒の間をおいて音無さんは顔を真っ赤にしてその場にへたり込んだ。

 薄らと涙をためながらオロオロと恥かしさに身もだえる音無さんの姿は、まるで小動物のような愛らしさがあった。

 そんな音無さんは遂に這いずって近衛の影に隠れる。

「これはその……アルバイトの制服だから」

 顔を覆い隠す手の指と指の間からこちらを見ながら音無さんは言った。

「バイト? こんな時間に?」

「見回りのバイト。みーちゃんと一緒だったら危なくないし」

「確かに、一般的な成人男性より強いかもしれないけどさすがに危ないだろ」

 近衛に目を向けると、近衛は音無さんとは異なり嫌に堂々としている。

 きっちりと着付けてあるから巫女なのだが、音無さんと違ってこちらは服装と印象にギャップがある。

 巫女って言うより女武者っぽいな。

 思わず似合わないなと言いかけたが殴られたくないのでスッと心にしまった。

「私に敵う人などそういない。竹刀も持ち歩いているし心配はしなくていい。それよりもだ――」

 やはり自信に満ちている近衛。しかし、ここで口調を変えた。

 その竹刀が入っているだろう袋に手を掛けて。

「夕月と銀木はこんな時間にこんなところで一体何をやっている。返答によっては……」

 近衛の眼光が鋭くなる。

 しまった!

 近衛は、規律に厳しい。

 特に男女間の関係性に厳しく。ちょっとした不純な行為でも制裁を下す。

 今変に勘違いされようものなら本気で叩かれかねない。

「ちょっと待った。花見に来てるだけだし、他にも人が居るから」

 俺は慌てて手を振る。

 この場合、複数いるというのがキーである。ただし、それが全員女子だとばれると俺は消されかねない。いいところだけ選択して俺は言い訳をする。

 その様子を訝しみながらも、近衛はとりあえず袋から手を離した。

 助かった。 一瞬本気で叩きのめされる未来が見えた。

 俺は、ホッと胸を撫で下ろす。

「それならそれそろ解散しろ。未成年がうろついていい時間じゃない」

 それはあなたたちもでは? なんて口走ったら再び崖っぷちに立たされそうだ。

 俺は、おとなしく二つ返事で了承する。

「そうだ。もちろん何か問題はなかったのだろうな」

 今度は私情ではなく役職柄の質問だろう。思い出したように近衛は俺に質問する。

「問題なんてなかったよ」

 ジトっと疑ったような目で俺をみる近衛に俺はハンズアップしながら答える。

 炭酸で一人が酔っぱらったなんて言ったら近衛は許してくれるだろうか。いや、許してはくれないだろう。

 清々しいまでの嘘だ。ここまで、自然に嘘をつける人間がいるかと問いたくなるレベルの自然さ。

「本当だろうな」

 しかし、返ってそれが近衛的には怪しく見えたのか近衛は俺に詰め寄ろうとする。

 すると、ビュッと俺と近衛の間を強い風が吹き抜ける。

 変に生暖かくどこかじめっとした風。

 雨季に吹く風にも似てはいるがこの執拗に体に絡みつく風はどこか違う。

 そんな風がまるで俺と近衛を隔てるように、そしてその場にいた全員を包みこむように吹き抜けていった。

 さっきまで恥ずかしそうに身を隠していた音無さんの顔色が変わる。

「みーちゃんそろそろ行こうか」

「あぁ」

 短くやり取りしたのち二人は奥の方へと境内の奥へと向かう。

 助かった。とは思えなかった。

 気づけば背中に汗を掻いていた。

 スタスタと俺達の事を置いて奥へと行こく二人を無意識の内に呼び止めてしまいそうになる。

 呼び止めてどうするんだ。なんていうんだ。

 伸びた手が虚空を掴み。そして力なく落ちる。

 唯、嫌な気分だ。

「俺たちも行きましょうか」

「えぇ」

 二人の姿をしっかりと見送って俺は阿冶さんに手を差し伸べる。

 これも無意識だった。普段は手を繋ごうとなんてしない。

 手を繋いだ俺と阿冶さんの間にも変な空気が漂う。

 やはりどこか緊張したような空気。もちろんそこに会話なんて無い。

 ただ急いで皆と合流しようと早歩きをする。

 歩いて歩いて歩いて、とにかく歩みを進めることで何かから逃がれようとした。

 そして、ふと気がついてしまった。

 俺の足は地面に縫い付けられたかのように歩みを止める。

「夏樹さん?」

 不審に思って阿冶さんが問いかけてくる。

 お花見会場までは一本道だったはずだ。ゆっくり歩いて数分。

 もうどのくらい歩いただろうか。それどころかここの景色は――

「――ここは一体どこだ……」

 瞬間背後の茂みが騒めき始めた。

こんにちは五月憂です。

今回は、今までの楽しい気分やシリアスな場面を一転、ホラーチックな場面を描きました。

夏樹と阿冶に忍び寄る不穏な影。正体は一体何なのか。

是非来週も見て見てください。

最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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