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第四十八話 動揺

 私の前を歩く男は、かつて私が傷つけた男。

 そして、私が敗した男。

 ただでさえ男というものが嫌いなのに、もう二度と負けられない相手なのに。

 たった一言で私の心は大きく揺さぶられた。

 今こいつはなんと言った。わっ、私を守るだって……

 初めて言われた言葉に私は不思議な息苦しさを感じた。

 心臓を締め付けられるような息苦しさ。そして、血液が沸騰するような火照り。

 風邪か? 或いは何者かの攻撃か?

 私はパニックになりつつある心情を必死に押さえつける。

「……ばっ、馬鹿か君は。守るのは私の役割だろうが」

 さまざまな言葉が脳裏をよぎるが言葉にはできず、結局いつものように毒づいていた。

 それほど『守る』というのは私にとって特別な意味を持つ言葉なのだ。

「たやすく使いおってからに馬鹿者が……」

「何か言いましたか?」

「なにもっ!」

 人の気も知らないでのんきなものだ

「全くこんなことになったのも――」

「なにやってんだお前ら?」

「貴様のせいだぁ!」

 どこからともなく現れ、背後から首だけ突き出してきた爛に私は拳を振り下ろした。

「痛ってー。なにすんだよ」

 頭を押さえる爛だが、そんなことは関係ない。

 元はと言えば、爛が勝手にいなくならなければこんなことにはならなかったのだから。

 ぶつける場所のなかった激情が一気に吹き出し、いつもの冷静ではいられなくなっていた。

「どの口が言う」

「そうですよ。爛さんを探していたんですから」

 あっけらかんとした爛は全く悪びれた様子がなかった。

 それがさらに私の怒りに火をつける。

「あっ、そうなの?いやー、暇だったから屋上に行ってたんだよ」

「良くもまぁのんきに――」

「まぁまぁ守璃さん落ち着いて。それより、早く阿冶さんたちと合流しますよ」

 夏樹が私と爛の間に割って入る。

「……ハイハイ」

 やはり悪びれた様子もない爛。

 私は、不機嫌な顔のまま黙って夏樹の後を歩きはじめる。

 これが彼女の性格であるのは分かり切っている。こちらが大人にならない限り火に油は注がれ続けられるのだから。

「あぁ。そういや守璃。さっき顔が赤かったけどどうかしたの?」

「うるさいっ!」

 訂正しよう。黙ったところで油は注がれた。

「痛ってー!なにすんだよせっかく心配してやったのに!」

「貴様のせいだろうが!」

「二人とも喧嘩してないでついて来てくださいよ!」



「いやー、なんだかんだ言っても無事終わったな」

 俺たちは、阿冶さんと合流し無事最後の種目である持久走を終えた。

 最後の記録はどうにか調整して普通の記録を出すことに成功してホッとしつつあるが、今回で俺自身も力を自在に扱えるようにならなくてはならないという問題点を抱える結果となった。

「それでは私はこれで」

「どこに行くんだ?」

「どこでもいいだろう。後は時間を潰すだけなのだから」

 爛さんを探しに行ってから守璃さんの様子はおかしかった。

 爛さんと喧嘩していたし、おそらく不機嫌なのだろう。

「……それもそうか。んじゃ、あたしも」

 俺は一瞬引き留めようとした。

 しかし、先の反省もある。俺は気負い過ぎているのかもしれない――いや、気負い過ぎているのだろう。

「あんまり目立つことしないでくださいよ」

 必要最低限の注意だけして皆を信じて自由にさせてみることにした。

「分かってるって」

 そう言って、俺と阿冶さんを残して一時解散した。

 因みにクロは、守璃さんのお目付け役である。

「さて、俺たちは何しましょうか」

「それなんですが……夏樹さんちょっとよろしいですか?」

 第三体育倉庫。校舎間の通路にあり、普段は使われることがほとんどない唯の物置小屋になっている。

 俺は、阿冶さんに誘導されるまま薄暗い体育倉庫の中にへと入った。

「ごめんなさい。もう我慢できなくて」

 戸を閉めると阿冶さんは乱雑に置かれたマットに俺を押し倒すように迫ってきた。

「阿冶さん」

 本来ドキドキするシチュエーションではあるが、俺たちはまた違う胸の高鳴りを感じていた。

 阿冶さんは、俺の首筋にその小さな口を触れさせる。

 阿冶さん曰く、喉の渇きが収まらないらしい。

 体を激しく動かしたって言うのもあるけど、日差しに長時間当てられたのが原因のように思える。

 阿冶さんの体は、覚醒によって吸血鬼としての特徴が強まってしまっているから。

「……いきます」

 こそばゆい吐息の後、血液が流れ出ていく感覚に襲われる。

 もう何度目かの吸血。

 やはりこの感覚は慣れない。

 吸血間は、俺も阿冶さんも口を開かず唯二人の吐息のみが耳に吹き込んでくる。

 それが異様に心臓を高鳴らせる。

 言葉にしがたい高揚感。

 意識が段々と遠のいていく、まるで命が零れ落ちて言っていくかのような感覚。

 そんな時一気に現実に引き戻された。

「……!」

 不意に二人だけの空間に外界の音が聞こえてきた。

 入り口のすぐそば。二人分の足音と会話が僅かに聞こえてくる。

「この声は――」

こんにちは、五月憂です。

皆様お待たせしました一週またいだ更新です。

今回、前半は守璃視点で描かせていただきました。考えてみたら、守璃視点ってあんまり書いたことがないなと思ったので書かせていただきました。普段クールな守璃も不器用な女の子でしたね。

守璃にとっての『守る』とは何なのか今後明らかになってきます。

そして、体育倉庫の外にいるのは誰か次週明らかに。

是非読んで見てください。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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